第83話接近

「いたたた…」


王蘭は倒れた拍子にお尻を打ってしまった。

頭も…と思ったが痛くない。


そっと瞳を開くと目の前に服が見えた。


そっと上を見れば仁が王蘭を抱きしめていてくれた。


「れ、仁?」


頭をギュッと抱えられ、胸に顔を押し付けられていて身動きが取れずにおずおずと声をかける。


「大丈夫か!?」


すると仁は王蘭の頭や体を触って怪我がないか確認する。


「だ、大丈夫ですから」


王蘭はさすがに顔を赤くして仁の手を止めた。


「大丈夫ですから…そんなに触らないで」


王蘭がもう一度言うと仁も察して慌てて手を離した。


「す、すまない」


「いえ!助けて心配してくださったのはわかりますから、仁は大丈夫ですか?」


「ん?ああ少し手のひらを擦った程度だ、問題ない」


仁は起き上がってパタパタと汚れて払うと王蘭に手を差し出す。


「ほら」


「ありがとうございます」


王蘭は戸惑いながらも手を取って起き上がった。


「びっくりしたが怪我もなくてよかった、危ないから縄跳びとやらはしばらく禁止だ」


「えー! 禁止するほど危なくはないんですよ!」


「駄目だ、顔にでも傷が出来たらどうするんだ」


仁は頑なに首を横に振る。


「うう…」


王蘭は残念としょんぼりと肩を落とした。


そんな王蘭を見て苦笑すると仁は話をかえる。


「そ、それよりも…その後の陛下の様子を聞いてきただろ?陛下は…」


「あー、その事ですけどもういいんです」


王蘭は話を遮った。


「もういいとはどういう事だ、王蘭は陛下に気があるんだろ?」


「やっぱり勘違いしてましたか、あれって私の友人が陛下の事を気になってて聞いたんですよ」


「友人…」


仁が唖然と口を開ける。


「でももういいみたいです。自分でどうにかすると頑張るって言ってましたから」


「じゃあ…王蘭が陛下に興味がある訳じゃ」


「ないですよ!ない!ない!」


王蘭は顔の前で手を思いっきり振った。


「そ、そうか…」


仁は何故かあからさまにガックリとしている。


「陛下も…やっぱり可愛らしい子が好きなんですよね…」


「ん?もうどうでもいいだろ…」


仁は興味を無くしたのか気のない返事をする。


「陛下と仁はその…似てるんでしょ?好きになる人が…やっぱり仁も陛下と一緒で可愛い子がいいのかな?」


「ん?何故陛下が可愛い子が好きだと?」


「だって、その友人の子女の私から見ても可愛らしくて男だったら絶対好きになってるような子なんですよ…陛下はその子とだけお茶を飲んだって聞いたかはやっぱりお互い思い合っているのかな…って」


「一緒にお茶?」


仁は眉間に皺を寄せて思いだそうとする。


「あーあれか…」


女官を送った時の事を思い出した。


「あれは少し話があったから礼儀としてお茶を飲んだだけだ、別にあの妃候補が気に入ってるとかではない」


「えっ…そうなんですか…」


王蘭は複雑な顔をする。

紅花の事を思うと胸が痛んだ…


「まぁ嫌いってわけでも無いと思うが…なんとも思って無いだろ。陛下はいつもそんな感じだ」


「そうなんだ。じゃあ…仁は?どんな女性がいいの?」


「私か?」


自分に振られて驚き目を開いた。


「あっ!ほら、陛下と似てるって言ってたから参考にしようかと…」


王蘭は目を泳がせて答える。


「私は…」


仁は目の前の王蘭をじっと見つめる。


「ん?なに…?」


何も言わずに見つめる仁に王蘭は首を傾げた。

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