第84話気持ち

「私は…王蘭のような、さっぱりと気持ちいい女の方がいいな…」


仁は目を逸らして呟くように答えた。


「えっ…私?」


王蘭は思ってもいない仁の思いに戸惑ってしまった。


「で、でも私は妃らしくないっていつも春さんに怒られてて、女子力低めでガサツで家事も何も出来なくて…」


自分の短所を並べていき嫌になる。


言葉にするとそりゃこんな女に彼氏なんて出来ないよね。


ズーンと気持ちが沈んだ。


「それでもここの自分の事しか考えず、着飾って人形のような女より全然いい」


仁は真剣な顔で王蘭を見つめてきた。


「そ、そう?」


いたたまれずに顔を下に向けると仁が手を掴んだ。


「だから私がいいと言うお前をそんな風に傷つけるな」


仁の怒った感じに王蘭は笑った。


「あっ…そうだね。ごめん、ありがとう」


確かに自分を卑下にしすぎた。

私らしくない!


王蘭はパンっ!と自分の頬を両手で思いっきり叩いた。


「何をしてる…」


自分の顔を叩く王蘭に仁は驚いた。


「ふふ、目を覚ましてたの。仁、気づかせてくれてありがとうね!宦官なのにそんな気を使わせちゃって。もう大丈夫だから!」


「ん?ちょっとまて、大丈夫とは?」


仁がわけがわからずに眉間を押さえて聞き返す。


「だから、私が気にしてると思って私もいいって言ってくれたんでしょ?宦官なんだから女に興味なんてないもんね?」


「あっ…ああそうだったな…」


仁はきまり悪そうに頷いた。


「私はこんな私でも好きって言ってくれる人を探すから大丈夫だよ!」


「だから…それは…」


仁はなんとも言えずに言葉を濁す。


「はぁー!なんかスッキリした。スッキリしたらお腹空いてきたー。そうだ仁、春さんのご飯一緒に食べてく?用意してくるよ」


王蘭は返事も待たずに屋敷の方へと走り出した。


「お、おい!」


王蘭は仁の声を振り返らずに屋敷に飛び込むと扉を閉める。


すると扉に寄りかかってズルズルと座り込んだ。


お尻を床につけ、膝を丸めるとギュッと自分を抱きしめる。


私、ちゃんと自然に笑えてたよね…


王蘭は深く息を吐き、気持ちを整える。


仁が自分の事をいいと言ってくれて一瞬全身が熱くなった。


戸惑いながらも嬉しいと思ってしまった…


しかし仁は宦官だからもう女性に恋はしないんだ。

好きになってはいけない相手だ。


「しっかりしないと…ここではちゃんと恋がしたい」


王蘭はガバッ!と立ち上がると春さんを呼びに走った。





春さんは仁が女官との距離を取るのを知っていたので外に食事の用意をしてくれる。


準備が整うとごゆっくりと席を離れていった。


王蘭は春さんにお礼を言って仁を呼びに行った。


「仁ー、食事の用意が出来たよ」


木の影に隠れていた仁がスっと現れた。


「私の分まで悪いな」


「いいんですけど、なんで春さん達に会わないの?」


「特定の女官と仲良くなるわけにいかないからな。そうなるとここにも来れなくなる」


「そうなの?それは困るなー」


「困るのか?」


「だって話し相手がいなくなっちゃうもんね…仁は私と友達でいてくれるんでしょ?」


仁はふっと苦笑いして頷いた。


「ああ」


「よかった…よし!じゃあ食べよ!いただきます!」


王蘭が元気に挨拶をして勢いよく食べる。


落ち込んでてもご飯は美味い!


仁はゆっくりと礼儀正しく匙を掴んだ。


春さん特性スープで作ったおじやを手に取り口に運ぶ。


「温かい…」


仁は驚き目を見開く。


「プッ!何言ってるんですか、おじやは温かい物でしょ」


王蘭が笑うが仁は驚き他の料理をつまんだ。


「どれも温かくて美味いな…」


しみじみと料理を楽しんでいる。


「仁は温かい料理を食べてないの?」


「毒味があるからな、冷たいのが当たり前だ」


「ふーん、仁が味見する前に毒味があるんだ?」


なんか思っていたよりも厳重な感じのようだ。


「あっ…ああそうだな」


仁は曖昧に返事をしておじやを黙々と食べている。


その様子に王蘭はいい事を思いついた。


「なら時間がある時はここで食べれば?うちは女官が二人だから毒味なんてないしそんな事絶対にないよ。心配なら私が先に食べてあげる」


「そうだな…まぁ毎回は無理だがたまにはご馳走になろう」


仁は笑うとそっと王蘭の方に手を伸ばす。


王蘭はビクッと固まり停止していると、仁の手が唇へと向かってきた。


な、なに!?


王蘭はギュッと目を閉じると…ふっと唇に指が触れた。


「こんなところに飯を付けて、これなら確かに確かに毒は入って無さそうだ」


仁は王蘭が口に付けていたご飯をヒョイと指先で掴むとパクッと食べた。


「な、な、な!」


「なんだ?顔が蛸みたいに赤いぞ」


王蘭の真っ赤な顔に仁は眉を顰める。


「誰のせいよ!」


王蘭はご馳走様!と残りを急いでかきこんで席から逃げ出した。

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