第112話客人

「あ、あ…」


「ありがとう、酒はそのくらいでいいぞ」


驚き言葉が出ないでいるが仁は普通に声をかけてきた。


王蘭に気がついて無いわけはない…あえて他人のフリをしているようだった。


「ほら、緊張しているのか?ちゃんとお客様にお酌なさい」


すると固まっていた王蘭に王伉が声をかけて体を触ろうとする。


「大丈夫だ、そんなに緊張しなくていい。こちらに…」


仁は王伉の手を避けるように王蘭を引っ張って自分の方に引き寄せた。


王蘭は気がつけばいつの間にか仁の腕の中にいた。


「気に入ったようでよかったです」


王伉は気にした様子もなくゴマすりでもしそうな勢いで仁にさらに酒を注いだ。


「しかし王伉さんのところにこんなに可愛らしいお嬢さんがいたとは…」


「は、はい。息子の…黄燕の手配でして」


王伉が合図すると黄燕が隣に座った。


「近くの町娘を引き取って仕事を与えて世話をしているのです。お気に召したようでよかった」


「町娘…」


黄燕の嘘の説明を聞いて仁はピクっと目がつり上がった。


ここで騒ぎになった方が彼女達を助け出せるかもしれない…


王蘭は仁に何か言おうとするとそっと仁が王蘭の口を軽く塞ぐ。


そして耳元でそっと囁いた。


「静かに喋らないで大人しくしていなさい」


有無を言わさぬ感じに王蘭は仁を見上げるとニコニコと笑っているように見えるが目は笑っていなかった。


王蘭はこくこくと慌てて頷くと仁は口から手を離した。


すると仁は王蘭をじっと見つめる。


「この娘は本当に可愛らしいなぁ…」


優しく微笑んで王蘭の顎から鎖骨を流れるように撫でた。


王蘭はビクッと体を跳ねさせるが言われた通り何も言わずに仁のされるがままに大人しくしている。


すると調子に乗った仁が更に王蘭を引き寄せた。


「顔もいいな…少し化粧が濃いが…」


仁が王蘭の頬を愛おしそうに指の腹で撫でる、すると王蘭は黄燕に殴られた箇所に触れられ顔を顰めた。


「いっ…」


何とか残りの声を出すのを押さえた。


黄燕達には聞こえなかったようだがそばにいた仁にはしっかりと聞こえたようでじっと頬を睨みつけるように見つめる。


「どうでしょう?もし気に入ったのならお持ち帰りください」


王伉がそんな仁達には気が付かないでご機嫌に声をかけてきた。


「父上!」


すると黄燕が嫌そうに父親を睨みつけた。


「この程度の娘いつでもどうにかなるだろう!」


窘めるが黄燕としてはまだ何もしてない王蘭を手放したくはなかった。


「その娘もここが気に入ってます…なぁ?他の仲間もお前の帰りを待ってるぞ…」


黄燕は王蘭に圧力をかけて見つめた。


「くっ…」


王蘭は悔しそうにキッと黄燕を睨み返したが、フーっと息を吐いて気を落ち着かせる。


「そうですね、私は…」


王蘭が残る事を伝えようとすると…


「私が気に入ったと言っている。王伉さんいいかな?」


仁が割って入って王伉を睨みつけた。


「は、はい!おい黄燕こっちにこい!すみませんが少しお待ちください」


王伉は黄燕の耳を掴み引きずりながら外へと連れ出した。

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