第75話仁視点

「南明様、王蘭様のところの女官長が話があるとやってきましたが…」


「「王蘭の?」」


仕事中の仁と南明は同時に顔をあげた。


「陛下はお仕事を…私が話を聞いてきますから」


そう言うと南明はサッと部屋を出ていってしまった。


気になりながら仕事を進めていると程なくして南明が戻ってくるがその顔は曇っていた。


「なんだ?」


「それが…王蘭様が何か聞きたいことがあると」


「お前にか?」


「いえ、私か陛下にだそうです。あっ陛下と言うか宦官としての仁様にですよ」


「そうか…で?どうする?」


「私は…少しこの後に仕事が…」


南明が難色を示した。


「なら、私が聞こう」


「駄目ですよ、お仕事溜まってますよね?」


「ほら」


ドサッと終わった仕事を目の前に出す。


「うっ…わかりました。ではいつものあの場所でいいですかね」


南明の折れる姿を気持ちよく見つめて頷いた。



南明が王蘭を呼びに行く間に仕事をさらに進めておくのを条件に自由時間を確保した。


最近は忙しくあの後宮での事件以来会っても居なかった。


顔がバレたとは思わないが少し緊張する。


そんな緊張を紛らわす様に仕事に没頭していると南明が呼びに来た。


「王蘭様をいつもの場所にお連れしました。帰りは私がまた送り届けますので呼んで下さいませ」


「わかった」


私は足早になりながら護衛の兵達と牢屋に向かった。


牢屋に付き何度目かの階段を下りると椅子の引く音がする。


王蘭が私に気が付き立ち上がったようだ。


しかしその顔はしかめっ面になっている。


「待たせたな」


「待ちました」


どうやらかなり待ったようで怒っているようだ。


そこで会ったら渡そうと思ってた菓子を出すとケロッと機嫌が直った。


こんな事で子供のように機嫌を直す王蘭に思わず口角が上がる。


これが後宮の女ならきっと高価な宝石を買えとか服を買えとかうるさいのだろうが菓子1つで機嫌が戻るなら可愛いものだ。


美味しそうに菓子に頬張る王蘭を見つめて思わず微笑む。


するとバチッと目が合った。


気まずくなり話を繰り出した。


「なにか話があるとうかったが?」


すると王蘭は気まずそうに陛下の事を聞いてきた…つまり私の事だ。


王蘭は私が陛下だとは知らずに私の事を聞いてくる。


前は皇帝陛下に興味はないと言っていたのに…


王蘭の前に姿を表したのがきっかけかもしれないとこの前のお茶会に顔を出した事を思い出した。


しかも誰か後宮で興味ある女はいないのかと…


これは、もしや王蘭も私の事を気になり出したのか…


前は自分に興味のない王蘭のそばにいるのが楽だと思っていたが、一緒にいるうちにただの王蘭といる事が楽しくなっていた。


その王蘭が陛下に興味があると…


まさか自分の事とは知らずとはいえ真剣に話す王蘭に仁は思わず頬が熱くなった。

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