第66話帰る

あと数日、もう少し慣れるまで春さんが居てくれると聞いてほっとした女官達だった。

紅花様の柔らかい物腰にリラックスして仕事にもすぐに慣れてきた。


そんな中、休憩中のおしゃべりにも花が咲く。


「私、女官ってもっと厳しいものだと思ってました」


「私もー、紅花様ってあんなにお優しいのになんで前の女官達は馬鹿なことしたんですかね」


「大きな声では言えないけど、あの見た目らしいですよ」


その言葉に女官達はシンっと口を閉じた。


「確かに最初見た時は驚きましたが紅花様の雰囲気に合ってますよね」


「そう思います!私は優しい紅花様の事大好きです」


女官達は頷き合った。


「春さんが言ってたように私達で紅花様を守らないといけないね!」


「「ええ!」」


女官達は手を前に出して握りあった。




「はぁ…」


春は女官達の大きなおしゃべり声にため息をついた。


あの場所は声が漏れやすいことを後で伝えないと…


しかし女官達の本音が少し聞けてほっともする。

もう自分が居なくても大丈夫そうだった。


春はそのまま紅花様の元に向かった。


「紅花様、少しよろしいでしょうか?」


「・・・・・・」


紅花様はぼーっと外を眺めていて、こちらの声に気がついていないようだった。


「紅花様?」


少し近づいて再度少し声を大きくして声をかける。


「えっ?あっ春さんなんでしょう?」


元々少しおっとりしてる感じはあったがこのところなんか様子がおかしかった。


「大丈夫ですか?何処か体調が悪いのでしょうか」


心配して顔を覗き込むが顔色は悪くない。


「いえ!そんなことないです」


紅花様は慌てて両手を振って比定した。


「では…女官達に何か問題が?」


「それもないです!皆さんいい人達で…本当にありがとうございます。これも王蘭様と春さん達のおかげです」


「そうですか、ならいいのですが…何かあればおっしゃって下さいね」


春がそう言うと紅花様はモジモジと両手を弄り出した。


「あの、春さんはそろそろ王蘭様のところに帰られますか?」


「え?」


春は驚いた。

ちょうどその話をしようと思っていたのだ。


「はい、新しく入った女官達も問題無いようですし一度帰ろうかと…心配ならまたたまに様子を見に来ますよ」


「それは大丈夫です!私も甘えてばかりはいられませんから、次は毅然とした態度で注意します…できたら…」


紅花様はグッと握った拳を語尾と一緒にそっと下ろした。


「何かあれば何時でもおっしゃって下さい」


紅花様の変化に春は優しく頷く。


「それなら…お言葉に甘えて、春さんが王蘭様のところに戻る時一緒に行ってもいいかしら?」


「紅花様、王蘭様に何か用がおありですか?」


「用、って程ではないのですが…少しお話がしたいなぁ…と」


駄目かな…と心配そうに紅花様が春の顔を不安そうに見上げている。


「紅花様の決定に私が何か言う事などありません、私は一足先に戻らせていただきますので紅花様は明日お越しください。きっと王蘭様なら喜んでくださいます」


「そうですかね…では明日楽しみにしていると王蘭様にお伝え下さい」


「はい、承りました」


春は紅花様に挨拶をするとその足で女官達の元に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る