第94話視察

「ふー」


王蘭は少し歩き疲れて息を吐いた。


あれから市場や町中を回って色んな場所をみた。


見るもの全て新鮮で、王蘭は視察も忘れて普通に楽しんでしまった。


仁と静は王蘭が行きたいと言う所を全てに付き合ってくれた。


「疲れたのか?少し休むか」


仁は王蘭の腰を支えて何処か休めるような店は無いかと辺りを見回す。


仁のさり気ない優しさに王蘭は喜び、そして少し胸が痛んだ。


これは全ての女性にしている事なんだと…


「大丈夫です。それよりも私が行きたい場所ばかりでいいんですか?他に視察に行くべき所は?」


王蘭はいたたまれず、さりげなく仁の腕の中から逃げた。


「お前の行きたい場所でいい、なかなか新鮮な反応だ」


「え!」


自分がどんな反応をしていたか気になってしまった。


「すみません、はしゃぎすぎました」


反省して二人に頭を下げた。


「別に責めてなどない、女性の目線は違うのだと改めて感じていたところだ」


「そうですね、品物の見るところなど俺達とは違うようです」


静さんも同意するように頷いた。


「それならよかったですけど…」


二人が気にした様子も無かったのでフーっと肩の力が抜けた。


すると安心した事でお腹がすきくーっとかわいい音がなった。


「あっ、すみません!」


慌ててお腹を押さえるが押さえたところでお腹がいっぱいになる訳ではない。


ますますお腹の音が大きくなる。


「疲れて来たところだ、何処かで食事にしよう」


仁は笑って静を見る。


静は予め店を決めていたのか誘導するように歩き出した。


「どこのお店に行くんですか?」


「視察に来るといつも行く店がある、そこに行こう」


仁の行きつけの店のようだった。


「邪魔するよ」


仁が暖簾をあげて店の中へと入る。


「いらっしゃーい!!」


すると中から元気な声で女将さんらしき女性が声をかけてきた。


「あら!仁さんじゃない、久しぶりだね!」


仁の顔を見るなり笑顔になる。


「久しぶりだな」


仁は慣れた様子で席へと座ると王蘭に隣の椅子を勧める。


「ほら、座れ」


「あれ!仁さんが女性と来るなんて!かわいい恋人ね!」


女将さんはニコニコと笑顔を向けてきた。


「いや、彼女は…妹みたいなものだ」


「そうなのかい?」


女将さんは笑って二人を見比べた。


「まぁいいから適当に何か持ってきてくれ」


「はいよ!」


女将さんは厨房に声をかけた。


店の中は賑わっていて女将さんは忙しそうに歩き回っている。


少しすると女将さんが料理を運んできた。


「女将、忙しそうだな」


料理を運んできた女将に仁が声をかけた。


「そうなんだよ、手伝いの子が急に辞めちまってね」


困り顔で笑った。


「大変ですね」


王蘭は心配そうに声をかけた。


「心配してくれてありがとうね!でも明日には新しい子が来てくれるから今日を乗り越えれば大丈夫なのよ」


汗を拭って料理を食べなと勧められる。


「じゃあいただきます」


王蘭はいい匂いがする温かい料理に手を伸ばした。


すると仁が待てと王蘭の手を止める。


「あ、すみません。先に兄さん達からよね」


王蘭は慌てて料理を二人に差し出した。


「別にいいんだが、とりあえず静に…な」


静の前に料理を置くと静が料理を一口ずつ食べた。


「美味いです。お二人共どうぞ」


静は食べた料理を二人の前に戻した。


「じゃあ食べようか」


「え?」


王蘭は戸惑っていたが食べ出す仁と静に習って自分も箸を伸ばした。

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