第107話被害

「なんだ?」


黄燕は不機嫌そうに振り返って王蘭の方をみた。


「その人をどうする気、嫌がっているでしょう。やめてあげて」


「お前は自分の立場がわかってるのか?」


黄燕は馬鹿にするように王蘭に聞き返す。


「立場も何もあなたが無理やり連れてきたんでしょ!犯罪よ!今すぐ私達を解放しなさい。今なら大事にはしないであげる」


王蘭がそう言うと一瞬ポカンとしてその後盛大に笑いだした。


「ガハハ!何を言うかと思えば、頭が緩いのか?犯罪?俺はこの町を仕切る王伉の息子だぞ、こいつを殺したって俺が罰を受けることはない!」


そう言って掴んでいた女性を片手で持ち上げた。


「やめて!すみません!助けて下さい、死にたくない」


女性はパニックになりながら泣きわめいた。


「お前のせいでこの女が死ぬんだ、罰を受けるのはお前だ!」


女性を王蘭の籠に押し当てた。


「た、助けて…」


女性は柵に顔を押し付けられながら涙を流して王蘭を見つめた。


「や、やめて!」


「なら誰かが代わりに相手をするか?」


「相手…?」


「こいつの代わりを誰かが務めるんだよ」


王蘭は他の籠を見ると女性達が一斉に顔を逸らした。


誰も関わりたくないと目を瞑る。


「他の奴らは自分が大事なようだ、お前はどうする?」


王蘭は黄燕に掴まれた時の事を思い出し思わず体が震えた。


強がっていたが力では敵わないのはわかっていた。


口を出したが何も出来ない自分が歯がゆくなり、下を向いて拳を握りしめた。


そんな王蘭をみて黄燕はニタニタと笑うと女性を離した。


そして王蘭の籠を開けて腕を掴み引っ張り出した。


「やはりお前にしよう。その顔を見ていたらもっと歪めたくなった」


「離して!」


王蘭は思いっきり手を振り払うが黄燕の手は離れない。


自分は強いと思っていた自信が失われていく気がした。


王蘭は呆気なく籠から出されると黄燕に抱きかかえられる。


それでも抵抗して暴れるががっしりと体を拘束される。


肩にそのまま担がれて隣の部屋へと歩き出した、王蘭を担いでいてもその歩みは軽かった。


抵抗する気力を削がれて力が抜ける。


隣の部屋へと入るとバタンと音を立てて戸を閉めた。


その音にビクッと肩が跳ねた。

そしてそのまま部屋の真ん中に置いてあるベッドに落とされる。


「キャッ!」


ベッドへと落ちるとすぐに体勢を整えて黄燕へと向き合った。


「ふん、可愛いもんだ。最初だからゆっくりと思っていたが…まぁ大人しくしてたら優しくしてやる」


王蘭のめくれた服の間から覗く足を見てペロッと舌なめずりをする。


王蘭は背筋に汗が滴った。


カラカラになった口の中のかろうじてある唾を飲み込んで息を吐く。


「彼氏は欲しいって言ったけど…あんたみたいなのはごめんよ。何かされるくらいなら…舌を噛み切ってやるわ!」


「やれるもんならやってみな」


黄燕は出来もしないだろうと笑って答えた。


ガリっ!


王蘭の口の端から赤い血が滴った。


「こいつ!」


黄燕は焦った顔で王蘭に駆け寄った。

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