第106話王蘭
仁は女将の前に立つとじっと見下ろし膝をついた。
そして静かに声をかけた。
「おもてをあげよ」
女将は恐る恐る顔をあげるとそこには先程とは違い冷静な顔の仁の姿があった。
そして女将の顔をじっと見下ろす。
「その顔、そいつにやられたのか?」
投げ飛ばされた時などに付いた痕をサッと隠した。
「これは大したことはありません。王蘭ちゃんの方こそ私達を庇ってくれて、連れていかれてしまいました。お願いですどうかあの子を助けてあげて下さい!私はどうなっても構いません」
「女将の事だ、その傷はそんな王蘭を庇ってくれたのだろう。大丈夫だ王蘭は必ず助ける、大事な妹だからな」
「あなた達も傷の手当てを、それで連れてったのは誰ですか?」
「王伉様の所のご子息の黄燕様です…最近よく町に来ては見目のいい娘に目をつけて屋敷に連れ帰っています。王伉様の手前誰も抵抗出来なくて…」
「王伉の?」
先程まで会っていた男の名前が出てきて仁と静は顔を見合わせる。
「あそこに息子がいたのか」
「体も大きく力も強くて町の男では太刀打ち出来ず、不甲斐ないです」
店の男達が情けないと肩を落とした。
「なるほど、早速向かってみる。この店には手出しさせない、安心して体を休めていなさい」
「ありがとうございます」
仁の言葉に女将は目を潤ませて頭を下げた。
店を出て早速仁達は裏通りに入る。
「静、どうなってる。王蘭に護衛は付けてなかったのか?」
仁は静を睨みつけた。
「いえ、数人付けていたのですが…」
静が狼煙をあげると男達が集まって来た。
「どうなっている」
「「「すみません」」」
「周りを調査してる間に巻き込まれてしまっていて…助け出そうにも騒ぎが大きくなりすぎてしまったので様子を伺っておりました」
「王蘭は今どこだ」
「あとをつけたところ王伉の屋敷の奥にある離れに連れていかれたようです。周りは警備が厳重ですが…」
「すぐに王伉の屋敷に向かうぞ」
仁は話を聞くなりすぐに歩き出した。
※
黄燕は従者との話を終えて離れへとやってきた。
黄燕が部屋に入ると部屋の中はシーンと静まり返る。
「なんだ、ご主人様のお帰りだぞ。お帰りなさいませぐらい言えないのか…それともまだ躾が足りないか?」
「「「お、お帰りなさいませ」」」
王蘭以外の女性達が慌てて返事をした。
「ふん、言わなきゃ出来ないなんてやはり罰が必要かな…」
黄燕は順番に籠の中を見ながら歩いている。
王蘭は睨みつけるように黄燕を見ていたが他の女性達は弱々しく顔を下に向けていた。
一人の女性の前に来ると女性が肩をビクッと震わせた。
それを見て黄燕はニヤリと笑うと鍵を開けだした。
「お、お許し下さい!」
女性は泣きながら籠の端へと逃げるが手を伸ばした黄燕にあっという間に捕まってしまう。
「お許し下さい、お許し下さい、お許し下さい…」
女性は必死に謝るが黄燕は笑いながら女性を引きずって違う部屋に連れていこうとする。
「待って!その人をどうする気!」
王蘭は堪らずに声をかけてしまった。
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