第25話帰還

南明様に連れられてようやく自分の与えられた宮に帰ってくると…


「「王蘭様!」」


春さんと凛々が待っていたとばかりに出迎えてくれた。


「よかった…少しやつれて…はいないようですね」


春さんは私の顔を見るなりほっと胸を撫で下ろす。


「王蘭様…よかったです~本当に心配致しました…私…なんにも役に立てず…」


凛々は顔を見るなり瞳を潤ませていた。


「心配してくれるだけで嬉しいわ。ほら、可愛い顔が台無しよ、涙を拭いて…」


私は自分の服で凛々の涙を拭き取ってあげると…


「い、いけません!王蘭様!」


春さんが慌てて止めにはいる。


「ふふ、はーい。あーやっと帰ってこれた…牢屋の暮らしも悪くなかったけどやっぱりここが落ち着くなぁ~って事で春さんのスープが飲みたくなってきたんだけど…」


チラッとうかがうように春さんを見る。


「いつ帰ってきてもよろしいように用意しております。早速召し上がりますか?」


春さんは笑いながら聞いてきた。


「やった!お願いします!」


私が喜んでいると…


「えっと…王蘭様?」


あっ…居たの忘れてた…


後ろを振り返ると驚いた顔の南明様が私達の様子を見つめていた。


「王蘭様は女官と仲がよろしいのですね…」


「え、ええ。だって自分の世話をしてくれる人達ですからね信頼してますから」


「なるほど…」


南明様は何か言いたそうに見つめていたが…


「では私はこれで…また細かい話を聞きに来るかも知れませんのでよろしくお願いします。それと…先程の折り鶴ですが見せてもらってもよろしいですか?」


「えっ!?」


私は急な事に驚いて平静を装うのを忘れてしまった。


「な、なんでですか?南明様にはもう折り方も教えてわかりますよね?」


「ええ、でも鈴麗様で見た折り鶴ですが…あれは紙が違いました…という事は…どこで手に入れたものでしょうか?」


クッ…やはり役職持ちだけある…


私は折り鶴がしまってある胸元をギュッと握りしめた。


「これは…お見せできません」


「そうですか…ならもう一度牢屋に入りますか?」


南明様も引く様子はないらしい…ずっと手を出して微笑んでいる。


「それでも…です。渡せません」


「はぁ…ではスープは諦めて下さい」


うっ…春さんのスープが…


「二人ともごめんね。また牢屋に入ってくるね!」


「「王蘭様…」」


二人に心配かけないように極力明るく笑って見せた。




私達は再び来た道を戻って牢屋を目指す。


「はぁ…スープを飲む時間くらいくれてもいいのに…本当に最悪…」


ブツブツと文句を言いながら南明様の後をついて行く。


「王蘭様が折り鶴をお渡しいただければすぐにでも戻りますよ」


「それは…」


「一体なんなんでしょうか?」


「ただのラブレターですよ…」


「ラブレタ…?」


「さぁもう言ったんだからいいでしょう?人のラブレターなんて見たら馬に蹴られて死にますよ!」


「一体なんの事やら…」


話しているうちに懐かしの牢屋にたどり着いた。


二回目ともなれば勝手もわかっている。


警備兵が牢を開けてくれると…


「ありがとう」


ニコッと笑ってお礼を言った。


「い、いえ…」


兵士は驚き下を向いてしまう。


「では見せる気になったら声をかけてください。それまでは紙の差し入れは無しとします」


「えー!じゃあ何で時間を潰せばいいのよ!」


「なんでも好きにしてください。紙以外なら言っていただければご用意致しますよ」


「紙以外ね…わかったわ」


南明は兵士に声をかけると階段を上がって言ってしまった。


「はぁ…やな奴…ね!そう思いません?」


私は自分が逃げないように見張っている兵士に声をかけた。


「へ?お、俺でしょうか?」


「あなた以外居ませんよね?」


「南明様は…素晴らしい方です…」


「へーそうなんだ…まぁ仕事はできそうですよね」


「ところであなたのお名前は?」


私は暇だからと兵士に声をかけ続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る