第20話次の日

「おはようございます」


ん…?


お母さんの声に目が覚める。


「え…もう朝…」


「はい、朝ですよ。今朝食を用意させますので…」


お母さんにしては声が野太い…


私は目を開くと、目の前には整った顔が…


「あっ…南明様…おはようございます」


そこには南明様が立っていた。


「はれ?なんで南明様が…春さんは?」


「あなたの女官はここには来れませんから…何かあれはこの者に声をかけて下さい」


そういう後ろには昨日折り紙を届けてくれた女官が立っていた。


南明様が声をかけると食事を運んできてくれる。


まぁなんでもありがたくいただきますよ…


「いただきます」


手を合わせて出された食事を平らげる。


「では少し休んでから鈴麗様のところに行きますよ」


「はい…今日は南明様だけですか?仁様は?」


「あの方は…今日は予定がありまして…話は私が聞きますから大丈夫ですよ」


「わかりました」


まぁあの人は別に居なくてもいいかな…


「それと…」


南明様が女官の方を気にしながら何か取り出した。


ん?


なんだと見れば昨日渡した折り紙で鶴を作ってきてくれたようだ。


「わぁ!ありがとうございます!私もいくつかあの後折りましたが…千には程遠くて、とりあえず百羽を目安に折ってみたのですが足りなくて…これを足してもいいですか?」


「え、ええ、王蘭様…百羽も折ったのですか?」


「え?はい、あの後特にやる事もなかったので…大体百秒もあれば一羽折れますよ」


「そ、そんなに早くあんなに綺麗に折れるのですか?」


「まぁ幼い頃からやっておりましたから」


少し得意げに笑う。


「ほぉ…王蘭様のご出身地はこのような織物があったのですね。知りませんでした」


あっ…


私はしまったと眉をひそめた…王蘭の出身地ではもちろんこういう折り紙はない…


お祝い事で紙を切ったりして飾る事はあるが…


「こ、これは私が考えた折り方ですね…」


すみません…本当は違います。


上手い言い訳を見つけられるずに心の中で謝って小さい声で言った。


南明様はその様子に何か事情があると汲んでくれたのかただ黙って綺麗な折り鶴を見つめていた。


鈴麗様のところに行く前に千羽鶴ならぬ百羽鶴を完成させる為に針と糸を頼む。


一羽ずつ糸を通して少し小ぶりの百羽鶴が出来た。


「そのように仕上げるのですね…いや見栄えもいいし今度儀式の飾りに採用してもよろしいですか?」


「千羽鶴をですか?」


私は驚いて聞き返すと


「はい、何か問題でも?」


「い、いえ…」


千羽鶴は確かにお見舞いなどのイメージだが、元は祝福や祈願にも用いられるから問題ないよね…


私は曖昧に頷いておいた。





出来上がった鶴を女官に持たせると南明様に続いて牢を出て外に向かう。


「ん…」


一日ぶりの日光が眩しく目を細めた。


「では付いてきて下さい。間違っても逃げないように…もし逃げでもしたら命の保証はできませんよ」


「は、はい…」


逃げる気はないがいきなり怖い事を言われて背筋が伸びる。


無実とはいえ罪人扱いなのだから仕方ないのかもしれないが…


冷めた目をした南明様の後をゆっくりとついて行った。



「今頃南明はあのうるさい女達のところか…」


仁陛下は机に肘を付いて折り鶴を指でクルクルと回す。


確かに王蘭の作った鶴は綺麗だ…自分の物と見比べると出来は歴然。


「陛下…南明様が戻る前に仕事を片付けて置いた方がよろしいのでは?」


隣では兵士の#雲垓__ウンガイ__#が真面目な顔でこちらを見つめる。


「せっかくうるさい南明が居ないんだ少しゆっくり休ませてくれ」


「私は…いいですが後で陛下が困るのでは…」


雲垓が心配そうにチラチラと机に積まれた書物に目線を向ける…そして一番上に積まれた書物を見るなり目を見開いた。

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