第13話陛下

南明に促され、仁陛下は後宮へと向かった。


ここはいつ来ても胸糞悪くなる…気持ち悪くなるほど甘ったるい匂いを纏い自分を着飾り、腰をうねらせアピールしてくる女達…


その姿は生前の母を思い出させた。


母は生前国王の父に気に入られようとありとあらゆる手を尽くして父の隣を手に入れたらしい…そして様々な恨みを買って自慢の顔に傷をつけられ仕上げに毒を飲まされ死亡した。


元よりこちらに愛情など持ち合わせていなかった母は自分を磨くことと父への関心だけが全てだった。


私は母を親と思った事がなかった…


そんな女が湧いている後宮など行きたくもなかったのだ。


「はぁ…ここは何度来ても嫌なものだ」


口と鼻を押さえて顔を顰めて歩いていく。


「陛下、気持ちは分かりますがいつかは貴方様は後継ぎを作らなくてはなりません。その為にも色々な女性を集めているのです!少しくらい興味をお持ちください」


「わかっているが…私はここの者を女とは思えん…まるで妖怪のようだ」


陛下の歪む顔をみて、南明はこの難題にため息をつく、他の仕事なら優秀な陛下なのにこの問題だけが頭を悩ませていた。


とりあえず鈴麗様の後宮に備えられた屋敷へと向かうと周りには女官達が慌ただしく駆け回っていた。


しかし仁陛下の存在に気がつくとピタッと止まりその道を開けて膝まづいた。


「鈴麗様はどうでしょうか?陛下が心配になり様子を見に伺いました」


南明が女官長に声をかけると…


「陛下自らお越しいただき鈴麗様もお喜びになると思います!…ですが今だ目を覚まさず…申し訳ごさいません」


「そうか、なら帰るか」


目が覚めてないならどうしようもないと仁陛下は回れ右をした。


「陛下…」


すると南明が冷たい声で呼び止める。


「はぁ…わかった。では顔だけ見ていく」


陛下はため息をつくと女官長に鈴麗の所まで案内させた。


鈴麗は顔色を悪くベッドの上で寝ていた…まるで屍人のように顔色が悪い。


「それで?なぜこのような事になったんですか?」


南明が女官長を見つめる。


「そ、それが…」


女官長はこれまでの経緯を南明に説明する。




「ではその王蘭が鈴麗を殺そうとしたと…」


「はい!それ以外鈴麗様が池に落ちる理由などありません!」


南明は困り顔で陛下を見つめた。


仁陛下は興味なさげに肩をあげる…すると…


「んっ…」


鈴麗が身動ぎ意識を取り戻した。


「鈴麗様!!」


女官が慌てて鈴麗のそばに駆け寄って様子をうかがう。


「よかった…」


目に涙を浮かべて安堵していると…


「ここは…」


鈴麗はぼーっと天井を見つめた。


「鈴麗様のお部屋にございます。鈴麗様は池に落ちて…あの方に落とされたのでしょう?その後も皆の前で辱めを…」


女官が不快感をあらわに顔をしかめる。


「あの方…」


鈴麗はなんの事かと眉をひそめた。


「王蘭様にございます!お茶を飲もうと…」


名前を出すと思い出したのかはっと顔色を変えた。


「彼女は?王蘭様は?」


「今は幽閉しておりますので安心して下さい」


慌てる鈴麗を女官か宥める。


「今すぐ出して!彼女は私を助けようとしてくれたのよ!」


鈴麗の言葉に南明と仁陛下は顔を見合わせた。

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