第41話羽子板
王蘭が罰に使う何かを取りに向かってしまった。
「陛下、大丈夫ですか?罰…と言ってますが…」
すると
「どうせ王蘭の事だ、命に関わる罰では無いだろう。気にするな」
先程手をあげたのは静に動くなと合図をする為だった。
「はい…しかし王蘭様は女性とは思えないいい動きをしますね」
「そういやあいつ女だったな、あまりに女性らしくなくて忘れてた」
仁陛下が思わず笑う。
陛下の笑う顔に静は内心驚きながらも顔色を変えずに頷いた。
「私もいつかお相手をして欲しいものです」
「お前も王蘭に興味あるのか?」
「お前も…という事は?」
「俺は王蘭の考え方に興味があるだけだ。ほらもう戻ってくるから隠れてろ、あっ!この事は南明には内緒にしておけよ」
「私はしますがね」
静はフッと笑うと姿を消した。
するとすぐに王蘭が姿を見せた、楽しそうに笑いながら近づいてくる。
その手には小さな壺と筆を持っていた。
「それはなんだ?なにか字でも書くのか?」
「仁、勘がいいね。これはこうやるのよ…」
王蘭はニヤッと笑うと筆を顔に近づける!
「なにする!」
「これが罰なのよ!ほらじっとして!」
「クソォ…」
仁は仕方なく大人しくしていると、王蘭は躊躇すること無くサラッと顔に墨を付けた。
こいつ…皇帝の顔に墨を…
知らないとはいえかなりの不敬な事をしている。
陛下と言えば一発で打首もできるだろう。
ただ仁には言う気はまだなかった。
「出来た!ふふ…我ながら傑作!」
王蘭の声に目を開くと目の前には満足そうに笑っている顔がある。
「ちょっとまて」
仁は嫌な予感に池に近づいて自分の顔を覗き込んだ、そこには目の周りに丸い線が描かれている。
「なんだこれは!」
「ふふ、負けたらこうやって顔に墨を塗るんですよ。これが羽子板の罰です」
「次は負けん!」
仁はもう描かれてなるものかと板を握りしめた!
「かかってきなさい…」
王蘭はちょいちょいと挑発するように指先を動かす。
その後、なかなか王蘭から一本取れない仁だったがどうにか意地を見せて王蘭の陣地に羽根を落とした!
「よし!」
仁は思わず拳を握る。
「あーあ、負けちゃった。あと少しで完封勝利だったのに!」
王蘭は悔しそうにしている。
「ほれ!今度は俺が描くぞ!」
「はいはい、どうぞ」
王蘭は目をつぶって仁に無防備な顔を突き出した。
「うっ…」
仁は王蘭の顔を見つめて躊躇する、王蘭の瞳を閉じた顔をこんな近くでじっくりと見たのは初めてだった。
王蘭と言うよりも女性の顔を見たのも久しかった。
きめ細かな艶やかな傷ひとつ無い肌に、赤い健康的な唇。
いつもならこの口から生意気な事ばかり聞こえるが今はじっと閉じていた。
「じゃあ描くぞ…」
そっと王蘭の頬に手を添えて筆を握る。
「はやくしてくれます?」
「わ、わかってる!今何を書いてやろうかと考えているんだ!」
仁はこの綺麗な肌に墨をつけるのが嫌だったが仕方ない…
最初に見たように目の周りに丸く線を引いた。
「出来ました?」
王蘭がパチッと目を開けると目の前に仁の姿が…一歩近づけは鼻先が触れ合いそうなほど近かった。
驚きお互い停止すると間近で見つめ合う。
「王蘭…」
仁は王蘭に添えた手を離せずにいた。
「ぶっ!!仁…その顔!」
王蘭が耐えきれないと笑いだした。
「な、なんだ…」
仁は驚いて手を離し自分の顔を触る。
「今日はこのくらいにしておきましょう」
王蘭は笑って羽子板を渡してきた。
「あ、ああ…」
仁はそれを受け取ると王蘭と別れて自室へと向かう。
「陛下!陛下!」
静が何か言っているが、先程の王蘭の顔が頭から離れない…
母とは違い、本当に楽しそうに笑う王蘭…仁はあれほど嫌だった後宮に三日に一度は通っていた。
まぁ王蘭の元に宦官としてだが…
モヤモヤとした気持ちで部屋に入ると南明が書類を手に仕事をしていた。
「仁陛下、また王蘭様の元ですか…」
南明の呆れた声に顔をしかめるが、その言葉が途中で止まり驚いた顔でこちらを凝視している。
「なんだ?」
「そ、その顔は…なんですか!?」
「え?あっ!」
すっかり考え事をしていて顔の墨を落とすのを忘れていた。
「あーあ、俺は止めたのに…」
後ろではずっと声をかけていた静がため息をついている。
「何をされていたのですか!」
南明が布を手にズンズンと近づいてくる。
「いや、これはまた色んな知識を聞こうと思って…」
あたふたと言い訳をすると…
「ぶっ!!その顔…王蘭様に描かれたのですか…」
南明は近くでみていきなり王蘭のように吹き出した。
「そうだが…そんなに酷いのか?」
最初のイタズラ書きのあとから確認をしていなかったので、自分がどのような顔になっているのかわからなかった。
南明は落とす前にと鏡を用意する。
それを覗き込んで確認すると…
「なんだこりゃ!!」
そこには顔中に色んなイタズラ書きが書かれていた。
おでこには波線、頬には渦巻き、鼻の頭には真っ黒な丸。
「陛下、目を閉じて下さい」
南明が笑いながらそう言うので瞳を閉じると…
「「ギャハハ!」」
「王蘭様やるな!」
南明と静が声を揃えて笑いだした。
「な、なんだ!?」
慌てて目を開くと
「瞼に瞳が描かれております…なので目をつぶってもまるで起きているかのような…」
笑いを噛み殺しながら説明してくる。
「王蘭め…ならもっと酷いイタズラ書きをすればよかった…」
最後の時に動揺せずに思い切って描けばよかった…
激しい後悔に仁は淡く抱いた恋心など何処かに行ってしまっていた。
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