3節 爆発と、魔女と戦う私と、読めない地図

 ――ドォォン。ドォォン。


 魔物の住む小さな村から少し離れた場所で、大きな爆発音と共に眩い閃光が生まれては消えていました。


 これはただの爆発ではありません。魔法と魔法がぶつかり合って発生した爆発だったのです。


 そしてその地形を破壊する程の爆発を起こしてる一人の少女は、私なのでした。


「ちぃ!中々すばしっこいじゃないですか!」


「…………」


 私の攻撃が一切命中しない事に多少の苛立ちを感じていた私は、思わず愚痴が出ていました。


 しかし相手のローブで全身を覆い、フードと仮面で頭部も隠した魔女は涼しい顔をしたまま私を見つめているだけでした。……何だか余裕そうにされてるのもムカつきますね。


 今までは私から攻撃を仕掛けていたんですが、今度は魔女の方から攻撃をしてきました。


 8方向にそれぞれ火、水、雷、風の魔法弾を2発ずつ横薙ぎに発射して、凄い勢いで私に誘導して飛んで来ます。


 私は空中でバレルロールしながら火球を2発避けた後、水球2発をショーテルで斬り裂き、続いて両サイドから飛んで来る雷球を私の雷球で相殺、上下から迫って来た風球をギリギリのタイミングで躱して、2つの風球が重なった所に火球をぶつけて爆発させ、消滅させました。


 そして私は爆発の煙の中から無限の弾丸インフィニティ・バレットを射出して権勢を掛けます。


 相当の弾幕密度の筈ですが、魔女は焦る様子も見せずに軽々と回避しながら、無限の弾丸を撃ち出している魔法陣を的確に魔力弾で撃ち抜いて破壊してきます。


「…………」


 まるで楽しくないおもちゃを見るかの様な雰囲気で、魔女は少しずつ晴れていく爆発の煙を見つめていました。


「――っ!?」


 魔女がやっと驚いた表情を見せました。なんと私、無限の弾丸を発射した時点で煙の中に隠れていた訳じゃ無かったんです。


 魔女がその事に気付いた時にはもう、既に私は彼女の背後に回り込んでいて、ショーテルで一気に背中を斬り裂きました。


 ――バシュッ。


 斬り裂かれた背中から鮮血が噴き出した魔女は、体勢を崩しながら地面に吸い込まれる様にして落ちて行きます。


 私は落ちていく魔女に、無限の弾丸で追い打ちを掛けながら、火球と雷球を交互に撃ち放ちました。


 今までの爆発とは比べ物にならない程の大爆発が魔女を包み込みます。……ですがこの程度で死ぬ事は無いでしょう。私は更にダメ押しで背負っていたライフルを構え、悪夢の咆哮ナイトメア・ブラストを手加減して撃ちました。この技、強力過ぎて全力で放つと地形が消滅しちゃうんですよね……。


 黒く変色した私の魔力の塊が、魔女の居るであろう場所に向かって飛んで行き、表面上の全てを消し飛ばしました。


「はぁ……はぁ……。力加減はしっかり出来たんで、1発で魔力が枯渇する事は無かったんですが……それでもかなり疲れますね」


 ――そんな事を言いながら息を整えていた私の前に、巨大な火球が飛んで来ました。


「――っ!」


 油断はしていなかった私は、ギリギリで反応する事に成功し、「絶」で火球を吸収し「活」で魔力の回復を図りました。


「やっぱりピンピンしてるんですね、流石です……」


 見た目は大きくても、大した殺傷力の無い火球から察するに、既に魔女が撤退した事を悟った私は「はぁぁっ!」と大きなタメ息を吐きながら、魔物たちの村の方へ降りて行くのでした。



 村に向かってる最中、私は魔女の事を考えていました。


 多彩な魔法、綺麗な身のこなし、未来予知に近い行動予測……全て熟練した騎士でもこなす事が難しい事を、彼女は平然とした表情でやってみせました……まぁ表情は口しか見えて無いんでしっかりとは分からなかったんですけどね。


 しかし彼女の戦闘技術が尋常では無い事位、私も把握はしていました。その上で1番驚いたのは……。


「まさか、私よりも接近戦が得意だなんて……そんなのアリですか?」


 私は斬り裂かれた左腕から零れる血を見つめながら呟きました。


 背後から魔女を斬った瞬間、彼女はナイフの様な物で反撃して来たんです。……油断してた訳じゃ無いんですが、全く反応出来ませんでした。


「はぁ……。近接戦には自信があった分、ちょっとへこみますね……」


 小さくボヤきながら村に降り立った私は、皆の安否の確認をしました。


 結論から言えば、皆無事でした。ですが最初は村の中から魔女との戦闘が始まったという事もあって、チラホラ怪我人が出ているみたいです。


「すまないな、エルシア。お前が居なかったらこの村は助からなかっただろう」


 村長の魔物が感謝の気持ちを述べてきました。


「気にしないでください。それに……多分ですが魔女が村を襲ったのは、私の所為かもしれないんです」


「……どういう事だ?」


「私もしっかりと状況を把握出来てる訳じゃ無いんで、憶測でしか話せませんが……迷惑を掛けちゃってるんで話させてもらいます」


 私は、僧侶の魔物が居た村で出会った子供の魔物、ツクが魔女を見たと言っていた事と、私の知り合いにもあの魔女と似た魔力を持った人が居た事、だけど見た目と雰囲気が全くの別人な事も、全て話しました。


「……成程な。お前自身も本当に今の状況がどうなってるのか把握出来ていない事は分かった。何か狙われる動機みたいなものは無かったのか?」


「……全く思い当たる節がありません」


「そうか……」


「…………」


 暫くの沈黙が、村の中で起きました。


 ですがその時、魔物の一人が私に尋ねて来たのです。


「そういや、エルシアはこの村に何しに寄ったんだ?」


「え?拷問中も話しましたけど、煙が上がってるのが見えたから寄っただけですよ?。まぁゆくゆくは「魔女の研究所」とか言う場所に行ってみるつもりですけど」


「そうか、エルシアは「魔女の研究所」に行きたいんだな。だったら地図を描いてやろう、少し待ってろ」


 急に嬉しそうな表情をした村長は、地図を描きに自室に戻っていってしまいました。


「えっと……何で村長は嬉しそうなんですか?」


 私の質問に、別の魔物が答えてくれました。


「まぁ元々村長は「魔女の研究所」で働いてたからね」


「へぇー」


 ふむ、こんな場所で働いて、給料は何なのか気になりますが、聞くのはヤボでしょうか?。


 そんなこんなで他愛無いおしゃべりで時間を潰していると、村長がドヤ顔しながら地図を私にくれました。


 わーお……目的地所か現在地も分からなーい。


 しかし村長は自信満々の顔で「この地図通りに行けば、最速で着ける筈だぞ」と言ってきました。


「あ、ありがとうございます」


 少し引きつった笑みでお礼を言った私は、今日だけ村で泊めてもらうと、全く読めない地図を片手に飛び立っていくのでした。


……あぁ、訳分かんないと思いましたけど、この地図……飛ぶ事を前提にしてるからか、変な建物みたいな物以外に地形が描いて無いじゃないですか。もうそれって地図とは呼ばないですよ、村長……。

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