12節 旅の支度と、ナンパなお爺さんと、新たな戦闘技術
はいはいどうも、私ですよー。アホ毛が自立して動く姿が尺取虫みたいで可愛いと思ってしまったエルシアさんですよー。ニョキニョキ♪。
もうそろそろ王都での休憩を終わりにして、旅に出る準備を進める私は、地図を開いてある程度のルートをペンで囲っていました。
「ふむふむ、それなりに立ち寄れる場所は多そうですね。となると、持ってく荷物は少し削れますかね」
そうそう、旅と言えば、私の食事はインスタントラーメンばかりでしたけど、何とインスタントうどんを発見したんです!しかも良コスパ!!。なのでラーメンとうどんを交互に食べて、味の変化を楽しむ事が出来る様になったんですよね。今から楽しみです。
けど立ちとれる場所が多いって事は、余り食料を余分に持ち歩く必要が無いって事になります。ラーメンは2食だけにして、10食位のうどんを持って行けば南の最果てに辿り着けるでしょう。多分。
そうなると、食料よりお金の方が大事になりそうですね。金の小判を5枚程持って行きましょう。
後はいつも通りに、着替えを2着ずつ、水筒、フルタングナイフ、手帳と地図、メタルマッチ、コンパスを麻袋に入れて、魔道昆とショーテルを準備、後はクナイ2本と手裏剣3枚を準備して……。
「よし!これで良いでしょう!」
旅の準備を終えた私は、特にやる事が無かったんで、行きつけのカフェでオレンジジュースを飲みながら、のんびりしようと考えていました。
そしてカフェに着いた私は、早速オレンジジュースと小腹を満たせそうなお菓子を頼み、テラスに置かれた椅子に座って商品の到着を待っていました。
ボーっと青い空を眺めて待っていると、どうやらカフェの裏路地で喧嘩が起きてるらしく、何とも痛そうな音が聞こえてきました……皆元気ですねぇ。
「クソ!強ぇ!何なんだこのジジイ!」
「ふぉっふぉっふぉ、長年武道に携わって来たワシが簡単に負ける訳にはいかんのじゃ……出直してまいれ、若人よ」
ん?本当に喧嘩でしょうか?今お爺さんの声が聞こえた気がしますが……。
「そこのお嬢さんや、お隣に座ってもよろしいかの?」
「……」
「お嬢さんや、聞いておるか?」
「……え?あ、あぁ……私ですか?構いませんが……他にも席は空いてますよ?」
「ワシはお嬢さんと話したいのじゃ」
うん?これはアレですかね……ナンパ?。まぁ適当にあしらえば気にする事でも無いですかね。
と言うかこの声……今喧嘩してた所から聞こえたお爺さんの声じゃないですか!え?結構遠くで聞こえてた気がしたんですが、もう此処まで歩いて来たんですか?。
「どうぞ」
「ありがとう、お嬢さん。お名前を聞いても良いかの?」
「エルシアです。お爺さんは?」
「ワシは……特に名前は無いんじゃが、最近は武伝と呼ばれておるのぅ」
「ぶでんさん……ですか。それで、私と話がしたいって、何の話でしょう?」
私は届いたオレンジジュースを飲みながら、武伝さんの方を見ました。
「お主……王都で悪事を働いた者を成敗したじゃろ?」
「ライオットの事でしょうか?それでしたら私以外にも沢山の人が戦ってましたよ?」
「そうじゃのう、かくいうワシも戦っておったからな」
「そうだったんですね……お疲れさまでした」
「それでじゃ、お嬢さんの戦い方……あれは騎士流の戦い方を元にした我流じゃな?」
「えぇ、私の師匠は騎士なんで、戦い方の元はソレですね。しかしですね……どうも騎士の正面から相手を力技で斬り倒すのが私のスタイルに合わなくて、色々と試行錯誤した結果、ナイフを使う今の戦い方に落ち着いたんです」
「そうじゃったか。しかしこの先も戦いに身を置くのであれば、今のままでは、いずれ勝てぬ相手とも対峙する事になるじゃろうて。そうなると……お嬢さんは其処で死ぬ事になるじゃろう」
「そうですか……でも戦うよりも戦わないで回避する様にしてるんで、特に問題は無いかと思いますが……勝てない相手なら数人で戦いますし」
「それが良いじゃろう。しかしなお嬢さん、人生にはどうしても一人で戦わなくちゃいけない時があるんじゃ。それは自分の大切な人を守る戦いかも知れんし、誇りを守る戦いかも知れん。その時に負けるのは嫌じゃろ?だからワシが少し稽古……と言う程大層な事はせんが、勝つ為の足しになる技術を伝授してしんぜようと思うのじゃが……いかがかな?」
うっわー、何だか胡散臭いナンパですね。正直このお爺さんが強い様には見えないんですが……まぁ暇ですし付き合っても良いですかね。戦う力の限界を感じてるのは事実ですし、このままじゃ負ける日が来る事も分かってましたし。
と言う訳で、私は早速お爺さんに何かを伝授してもらう為に、家の裏庭にやってきました。あ、お菓子頼んだの忘れてた……食べないで帰って来ちゃいましたよ。
そして早速戦闘訓練を始めた訳なんですが……どうもお爺さんの武器は素手らしくて、何だかナイフを使うのが申し訳無く思えてきますね。ですが手加減は相手への侮辱、全力で斬り掛かっていきます。
「いきますっ!」
私は勢い良くお爺さんに接近し、ナイフを振り下ろしました。
しかしその瞬間、間違いなくお爺さんの左肩を捕えたと思った私の視界は、180度以上回転して、背中から地面に叩き付けられていました。そして今起きている視界の情報が頭に入って来た時、目の前にはお爺さんのシワシワで大きな拳が寸止めで構えられていました。
「んぇ!?!?」
「ふぉっふぉっふぉ、今のが真剣じゃったら死んでおったぞ?」
「で、ですね……今何をしたんですか?」
「平たく言えば……合気じゃ。この技術さえあれば、そう簡単には殺されたりはせんじゃろうて」
「へぇ……これが合気ですか。聞いた事はありますが……」
「見るのは初めてかの?今からこの合気をお嬢さんに伝授させてもらう」
私はお爺さんに差し出されていた手を取り立ち上がる……フリをしてお爺さんを投げ飛ばしました。
ドカッ。
しかし投げ飛ばされたのは私の方でした……背中痛い。
「駄目でしたか……所でどうしてお爺さんは私に合気を教えてくれる気になったんですか?」
「お嬢さんがワシの孫娘と歳が同じ位での……別人とは言え同じ年頃の娘が死ぬのは見たく無かったんじゃ」
再び差し出された手を今度はしっかりと掴んだ私は、そのまま立ち上がって戦闘訓練を続けるのでした。
そしてこの戦闘訓練、まさかの夜中になっても終わる事は無く、全ての初歩的な技術を身に着けて寝床に潜ったのは朝方でした。
そして次の日、シャワーを浴びていると、鏡越しに私の背中がアザだらけになってる事に気付いて、何となく凹むのでした……。師匠の訓練でもここまで酷くなった事は無かったですよ。
しかし何はともあれ、これで生存確率は上がった……筈の私は、旅の日に備えて、これから数日は大人してようと心に決めるのでした。私が何かすると絶対に怪我しますからね、仕方ないですね……。
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