11節 普段通りの生活と、酒場のマスターと、彼女への罪の意識

 どうも、私です。


 私は今日、家の屋根を直していました。


 どうやら私が北に向かってる最中に起きた嵐で、屋根が傷んでたらしく、今日の強風で少し剥がれてしまったんです。


 そして屋根を直すついでに、少し家周りの手入れをしようという事になって、私たちは朝からせっせと動いています。


「ミュエール、釘取って下さい」


「はーい、エルシアさまー」


「リノリス、花壇は設置出来ましたか?」


「はい、今は土を入れ終わって種を植えてる所です。これが終わったら裏庭の手入れをしてきてよろしいでしょうか?」


「えぇ、お願いします」


「あ!私も昼食の買い出しに行って来たいでーす!」


「もうそんな時間ですか?それじゃあ今やってる場所で一旦切り上げて、お昼の準備をしましょう。今日の昼にはユズが帰ってくるんで多めに作っておかないと足りなくなります……沢山材料を買って来て下さいね、ミュエール」


「かしこまりー」


 そんな感じで作業を続けて、無事に一区切りつく所まで終わらせた私たちは、各々で別の行動を始めました。


 私は昼食用に食器を出して、ご飯の準備をしました。


 しかしアレですね、集落で髪を切ったお陰で、台所で結ぶ必要が無いのが楽です。まぁ横髪の方が長くて若干アンバランスな感じはしますが……。だって後ろ髪が首下なのに対して、横髪は胸の前まで垂れてるんですよ?アンバランスでしょう。どうせ直ぐに伸びるでしょうし気にしませんが。


 さて、暫くするとユズがミュエールと共に帰ってきました。


「ただいまー!アレ?エルシアちゃん髪切ったの?」


「え、えぇ。イメチェンです、どうです?」


「似合ってると思うよ!でも勿体無いなー、エルシアちゃんの髪って長くてキラキラして綺麗だったのに……」


「意外と乾かすのにも寝癖を直すのにも苦労してたんですよ?」


「うん、確かに大変そうだなぁと思ってた」


「次は切らないで、また伸ばすつもりですよ。さてと!お昼準備するんで座って待ってて下さいね」


「あーい!。でもエルシアちゃんの髪ってお尻の所まで伸びてたよね?時間掛かるんじゃない?」


「さぁ?意外と1ヶ月で元通りになってるかもしれないですよ?」


 そんな会話をしながら準備を進めた私は、カレーと海鮮丼を作りました。ユズは海鮮丼が大好きみたいですね、確かに刺身は美味しいんで分からなくも無いんですが……意外と保存期間が短いんで中々食べる機会が無いんですよねぇ。冷凍庫が欲しいです……今の時代には存在しない物ですけど。



 さて、昼食を取り終わった私たちは、再び各々で行動を開始しました。


 リノリスは裏庭の手入れが終わったんで、屋根の修理に。ミュエールは食器を洗いながらユズの話し相手に。ユズは話しながら洗濯物を畳んでいました。


 そして私は……沢山の荷物を持って酒場に来ていました。……別にサボって飲もうって訳じゃ無いですよ?ある人に会いに来たんです。


「こんにちは、マスター。彼女……居ますか?」


「あら、エルシア。えぇ、さっき話し声が聞こえてたし起きてると思うわ。……それにしても驚いたわね。エルシアが彼女達を連れて来て1週間位経つけど、直ぐに動けるまで回復しちゃうんだもの……貴女に頼まれてた、彼女を慰める時間があんまり取れなかったわ。ごめんなさいね」


「いえ、わざわざ面倒を見てくれてありがとうございます。本当なら私が面倒を見なくちゃいけないのに……」


「子供はそんな事気にしないで大人を頼るの、分かった?」


「……はい」


「それに、彼女達を泊める家賃も貴女から受け取っちゃったし、しっかりと契約してるんだから深く考えないで」


「そうですね……ありがとうございます。それじゃあ挨拶してきますね」


 私はマスターにお辞儀をすると、店の裏に回っていきました。


 集落で出会った彼女たちを王都に連れて帰って来た私は、直ぐに酒場のマスターの所に来ました。彼女とは何度も顔を合わせてるし、依頼も沢山こなしてるんで顔馴染みだったんです。で、ここら辺で1番信用出来る人も彼女だったんで、事情を説明して暫く泊めてあげる様に頼んだんです。ですが、ただ頼むだけでは悪いと思った私は、3ヶ月分の宿代と同じ金額をマスターに払って、回復して来たら簡単な依頼を回してあげて欲しいと頼んだんですよ。


 因みに彼女の名前、エルディアーナと言うそうです。見た目だけが似てると思ってたんですが、名前の略称まで同じ"エル"だなんて……運命を通り越して奇跡の出会いだと思ってしまいましたね。


 ただ彼女、よく見ると片目が水色のオッドアイなんで、両目が青の私との区別は意外と付け易いと聞きました。……どうして私の胸を見るんですか?そこで判断を付けるのは止めてください。


「エルディアーナ……調子はどうですか?」


「エルシアさん。すっかり元気になりましたよ!本当にありがとうございます!」


「それは良かったです。所で、貴女の新しい服と弟さんたちが着れそうな服を持って来たんですが、後で確認しといて下さいね」


「分かりました。あの……わざわざ簡単な依頼も回して下さるそうで……本当にありがとうございます」


「気にしないで下さい……私なりの罪滅ぼしのつもりですから」


「……?」


「それじゃ、私は家でやる事があるんで失礼しますね。また様子は確認しに来ますから」


「はい、お気を付けて」


 こうして私は、酒場を後にしました。



 彼女に対する私が感じる罪……それは彼女の両親が亡くなった王都半壊事件の事です。


 あれはライオットが行った非道な虐殺なのは分かってます。……でも、A・Aを起動させたのは私なんです……全てとは言いませんが、少なからず責任は感じているんです。


 さて!暗い考えはこの辺でお終いにして、そろそろ屋根の修理に戻りましょう!。


 こうして私は、内心では複雑な思いを抱いたまま、家に帰っていくのでした……。

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