10節 嫌な夢と、もう一人の私と、ブチギレる私
どうも、私です。
私は今……夢を見ています。いや……これが夢でないと困るんです。
私の視界には……黄金に輝く謎の物体が空を埋め尽くすほどの量で飛んでいました。アレは……アホ毛です!。
そう……アホ毛の大侵略です!きっと人類はアホ毛以下と認識されたんでしょう。寄生主を抹殺して自らの楽園を築く為に、彼等は人類に攻撃を始めたんです。そしてアレは……私のアホ毛なのです!つまり私が主犯格という事になってしまうんですっ!。
「――はっ!」
私は勢い良く飛び起きると、空を確認しました。
夕暮れに染まる空には、黄金に輝く物体など存在せず、夏の蒸し暑さを表現する様に真っ赤に染まっているだけでした。
「はぅ……夢で良かったです」
ホッと胸を撫で下ろす私でしたが、背後に人の気配を感じて警戒心丸出しで振り向きました。
「痛っ!?」
全身に感じた痛みでその場にうずくまる私は、どうしてこんなに体を痛めてるのか考え始めました。
自分の体を見ると、全身傷だらけですね。服は脱がされて、あらゆる場所に包帯が巻き付けられています。……何か胸周りがサラシみたいになってますね。
そもそも何でこんなに怪我をしてるんでしょうか?そう思っていると、感じてた気配の人が私に話し掛けてきました。
「もう動けるんですか?」
声の主は、暗闇から出て来ると心配そうに私を見つめていました。
そして驚きました、彼女……私と瓜二つの見た目をしてるじゃないですか!。そして思い出しました、目の前の泥棒と勘違いされた私は、礼儀知らずのおバカさんに崖から突き落とされたんでした。
「えぇ、看病してくれてありがとうございます。……それよりも、貴女の所為で酷い目に遭ったんですが……どうしてくれるんですか?」
「ごめんなさい……。泥棒と勘違いされたんですよね?本当に……ごめんなさい」
「貴女……私は死にかけたんですよ!謝るだけで許せる訳が無いでしょう!」
「でしたら……どうせ長くない命です、どうぞ私を殺して下さい。ですが私の代わりに、彼等が飢えない様に助けてあげてください……」
最初は彼女が何を言ってるのか分からずに胸ぐらを掴んだ私でしたが、不意に暗闇から飛んできた石ころや木の枝の出所を見て、すこし冷静さを取り戻しました。
……子供が三人居たんです。歳は六歳位でしょうか、凄く痩せていて、栄養失調なのが見ただけで分かります。そしてよくよく見ると、私に似た彼女も痩せこけています……多分一番重症ですね。
私は彼女から手を離すと、どうして盗みを働いていたのか聞いてみました。
彼女は隠す事もせずに、罪悪感に縛られる様にして、全てを打ち明けてくれました。
彼女たちは、あの集落に住んでいたらしいんですが、ある日王都まで品物を売りに行った彼女の両親は……事故に巻き込まれて死んでしまったそうです。……それって間違いなく王都半壊事件の事ですよね。
更に話を聞いていくと、両親の亡き後は彼女が物を売って生活費を稼いでいたらしいんですが、とうとう売れる物が無くなってしまい……最終的には自分の体をも売ってお金を稼いでいたんですが、遂に妊娠してしまい水商売も出来なくなり、そんな彼女に食べ物を恵んでくれる人も現れなかった為、仕方なく盗みを働いたんだと。
そしてある日、盗みに気付いた男性数人に散々暴行を加えられた後に、集落から追い出された彼女たちは、それでも生きる為に……三人を生かす為に盗み続けていたらしいです。
ついでに彼女に出来た子供なんですが……暴行を受けて直ぐに死産してしまったそうです。……許せないですね。
「なるほど……大体の事は分かりました。でも盗みはいけない事です、生きる為だとしても駄目な事は駄目なんです」
「……はい」
「だから……謝りに行きましょう?私も付いて行きますから」
「でも……そうしたら三人が飢え死にしちゃう」
「安心して下さい、働き口は私が何とかします。……後、貴女のお腹に居た赤ちゃんを殺した男……集落で見つけたら教えて下さい」
「はい……ありはとうございます。でも何でそこまで優しくしてくれるんですか?」
「……命は、何よりも大切だと学んだからです」
こうして私たちは、再び集落に向かうのでした。因みに私を助けた理由なんですが、彼女も命の尊さを知っていたから、自身の服を破いてまで包帯を作って助けてくれたとの事です。お陰様で彼女のお腹は丸出しだし、何なら豊満な南半球がチラついています……王都に連れてったら服を買ってあげないとですね。
さて、集落に向かう道中で、私は石を石で叩き壊してナイフを作っていました。良い感じに鋭利になった石を木の棒で挟んで、蔦でグルグル巻きにして完成です。耐久性は微妙ですが、これで集落に保管されているであろう私の荷物を取り返す位は出来るでしょう。恐らく縄で固定された倉庫が在ったと思うんで、早急に取り返して、さっさと謝って、赤ちゃんを殺した男性たちをボコボコにして王都に戻りましょう。
〇
そして集落に辿り着いた私たちは、先にコッソリと荷物を回収して、皆の前に姿を見せました。
私が生きてる事に驚いた人たちばかりでしたが、そんな彼等を無視して話を進め、彼女に謝らせました。
ですがやはり、謝っただけでは許してくれそうに無いですね、例の大男が彼女の首を掴んで持ち上げながら喚いています。
私は右手に持った石ナイフで彼の手首を斬り裂き彼女を救出、ついでに左手でバタフライナイフも展開させて周囲を見渡しながら言い放ちました。
「これ以上彼女に危害を加える様なら、腕を斬り落とします。自分の体が大切じゃ無い人はどうぞ出て来て下さい。お望みなら首を落としても良いですよ?」
私の殺意を感じた人たちは誰も動かなくなり、その場でじっとしていました。今の内ですね。
「貴女に暴行を加えた奴……居ますか?」
「はい……大男の後ろに隠れてる人です、他は見当たらないですね」
「そうですか……そこの大男の後ろに隠れてる貴方、こっちに来てください」
私が威圧気味に言うと、彼は素直に私たちの前に出てきました。
「私の事……覚えてますか?」
彼女は悲しそうに問いかけました。
「はぁ?知らねぇよ!ただの泥棒だろ!」
「私と何度も寝た事……覚えてないんですか?」
「……」
「子供が出来たら面倒見るって言ってくれた事も覚えてないんですか?」
「な、何の話だよ!自分の境遇が酷いからって適当な事ぬかすなよ!」
「ただ……責任も持てないのに遊んだだけだったんですか?」
「……」
「貴方の子供を妊娠してるって知った途端、私のお腹ばかりを蹴り飛ばした事も覚えてないんですか!?」
「……」
「それじゃあ……貴方の前で死産した事も……覚えてないんですか?」
「……知らねぇよ、いい加減にしろや」
「……いい加減にするのは、お前の方ですっ!」
泣きながらお腹を擦って問いかける彼女に対して、彼の返答は余りにも酷いものばかりでした。
そして彼の言葉を聞いて我慢の限界を迎えた私は、気が付くと彼を原型が分からなくなる程にナイフで滅多刺しにしていました。
その後、暗い雰囲気のまま集落を後にした私たちは、頑張って全員を魔道昆に乗せて王都を目指すのでした。
私は振り落とさない程度のスピードで、でも出来るだけ早いスピードで王都を目指しました。
彼女のすすり泣く声は……聞いていたく無い程に辛く感じてしまったのです……。
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