13節 水風船と、水浸しな私と、きっと幸福な1日
あいあい、私です。
旅に出る支度を終えて暇だった私は、最後に簡単な依頼を受けようと思って酒場に向かう為にお着替えをしていました。最近色々な服を着る様になりましたが、やっぱりワンピースが1番落ち着きますね。
さて、特にお化粧とかもしない私は、服を着替えて髪を梳かし、ポケットにバタフライナイフを入れて支度を終えると、家を出ました。お昼までには終わる依頼があれば良いですね。
「そぉーい!」「うぉりゃー!」「フォー!」
バシャッ。バシャッ。ビチャァン。
私が外に出ると、良く分かりませんが小さな子供数人に水風船を投げつけられたのです……えぇ?何でぇ?。
顔に掛かった水を払い除けて、どうして水風船を投げたのか聞こうとした私でしたが、先に少年の一人が大声で叫び始めました。
「目標のお姉さん発見!皆集まれー!」
「え?目標?私がですか?」
何が起きてるのか分からずにポカンとしていた私でしたが、周囲に出来る人だかりが尋常では無い事は理解出来ました。ヤバい……理由は不明ですが近所の人全員に狙われてるっぽいです。
「あ、あのー……」
「総員!水風船を投擲せよ!」
「「あいあいさー!」」
私が状況を確認しようと、近くに居たお姉さんに話し掛けようとした瞬間、誰かが意味不明な合図をして、その瞬間に凄い物量の水風船が私目掛けて襲い掛かって来たのです。
いやーしかし凄いですね。この量は私の
バシャァン。バシャシャシャシャシャシャシャァン。
はい、全弾命中です。ちめたい。
とりあえず此処に居ると危険だという事が理解出来た私は、びしょ濡れのまま酒場を目指しました。元々の目的地ですし、マスターは優しい人なのできっと私を助けてくれるでしょう。
バンッ!
そして全速力で酒場に逃げ込んで、力いっぱいにドアを開けた私は、息を切らしながらマスターを呼びました。
「マスター!助けて下さい!皆が私に水風船で攻撃をしてくるんです!」
「やあエルシア。そうだね……皆エルシアが大好きだから水風船を投げつけるんだよ。勿論、私もね」
「私も投げます、投げさせて下さい!それ位の体力は戻ったつもりです!」
「ちょーっと待って下さい!どうしてマスターもエルディアーナも私に水風船を構えるんですか?」
「お前等!今日は私の傲りで飲ませてやるから、エルシアに水風船を投げてやんな!」
マスターの合図で私に水風船を投げて来るお客さんたち、さっきよりも投擲スピードが速いです、避けれないっ!。
ビチャァァン。
「ひやぁぁ!?!?」
私は奇声に似た声を上げながら、酒場から逃げ出して城に向かいました。流石に城の常識人たちなら水風船を投げる真似はしないでしょう……。
〇
「ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!?!?」
そして数時間後、私は再び城の中で奇声を上げながら爆走していました。どうやら王も家来も常識が欠如してるらしく、「英雄の少女に感謝の願いを込めながら水風船を投げよ!」とか言ってくれちゃった所為で、城中の何処に居ても水風船がスパーキングして来る有様です。なんてこったい。
そして水風船から逃げる途中、私はリンネさんと出会いました。良かった!彼女なら私を保護してくれる筈!。
そう思って話しかけた私は、盛大に後悔する事になりました……。えぇそうです、リンネさんも私に水風船を投げつけて来たんです。
「おめでとう、エルちゃん」
「うぅ……!リンネさんの馬鹿ぁ!」
「えぇっ!?どうしちゃったのよエルちゃん?」
私は更に叫び声を大きくしながら走りました。
そして何だかんだで家に戻って来た私は、ひとまず着替えようと思って自室に戻ろうとしました……その時です。
「エルシア様」「エルシアさまー」
「うわ……嫌な予感……せめて着替えさせてくれないですか?ワンピが薄手で白なのに下着が黒で透けてて恥ずかしいんですけど……」
「「だーめ♪」」
「い……いやぁぁぁぁ!止めてぇぇぇぇ!」
しかし私の心の底から発した叫び声は、2つの水風船が割れる音に掻き消されてしまうのでした。
駄目だ、家に居ても危険でしかない!。そう思った私は、私の事を誰よりも理解してくれているユズが居る寄宿舎まで逃げ込みました。きっと彼女なら私の見方になってくれる筈っ!……あれ?さっきも似た様な事を言った気がしますね。
「ユズ!助けて下さい!国民が暴徒で私に水風船がスパーキングなんです!」
「ちょっと何言ってるか分からないから落ち着いて?エルシアちゃん。後、水風船なら私も準備してあるから安心して!」
「ユズ……まさか貴女……私を裏切るんですか……?」
「そんな絶望に満ちた顔をしないでよ。ちゃんと水風船を100個以上ストックしてあるんだから!」
「……らいです」
「え?エルシアちゃんなんて言ったの?」
「ユズなんて大っ嫌いです!この馬鹿ぁ!」
私は水風船の山をナイフで斬って割ると、人気の無い丘の方に走って行くのでした。……別に泣いて無いですよ、皆が酷いからって悲しくなんか……無いですよ。グスッ。
〇
そんな大ハプニングから数時間後、空がすっかり夕暮れに染まった頃に、私は生乾きのワンピースを着たまま、誰も来ない丘の上で大きな石に座っていました。
「どうして……皆は私に酷い事をするんでしょう……?。私が何をしたって言うんですか……?」
完全に落ち込んだ私は、膝を抱えて顔をうずくめると、ひっそりと我慢の限界だった涙を流し始めました。
そして暫くして涙も枯れ始めた頃、誰かが私に声を掛けてきました。
「お前……こんな所で何してんだ?」
「えぇ?……あれ、ノヴァさん?どうしてこんな所に?」
「俺は人気の無い場所が好きだからな。……そんで?エルは何でこんな場所に居んだ?」
「皆が……私を攻撃して虐めて来るんです。一応確認なんですが、ノヴァさん……まさか水風船を持ってたりしないですよね?」
「あぁ、生憎だが持ってないな」
「そう……良かったです」
一瞬にして緊張が戻って涙腺が緩み始めた私でしたが、彼の言葉を聞いてホッとすると、胸に手を当てて小さくタメ息を吐きました。
「だが代わりと言っちゃなんだが……こんな物を用意したぞ」
そう言ってノヴァさんが空中に召還したのは……デッカイ水の球体でした。いや……まさかね?ノヴァさんがそんな事する訳……。
「そら!楽しんで来い!」
足が震える私を抱えたノヴァさんは、水の球体に私を投げ込んできました。
そして水の球体から、もがいて脱出した私は、ノヴァさんの前だと言うのに我慢できずに大声で泣き出してしまいました。こんな仕打ち……あんまりです。
「ノヴァさんの馬鹿ぁ!どうして私を虐めるんですか!?私はノヴァさんなら酷い事しないって信じてたのにっ!」
泣きじゃくる私の頭を撫でながら、ノヴァさんは色々と思考を巡らして、ある一つの質問を投げかけてきました。
「エル……まさかとは思うが、お前は王都での恒例行事を知らないのか?」
「グスッ……恒例行事って何ですか?」
「誕生日の人間に水を掛ける風習が王都にはあるらしいんだ。お前に水風船を投げて来たヤツ……悪意に満ちた顔をしてたか?」
「いえ……。って事はつまりアレですか?私は虐められて無かった……?」
「ま、そういう事だ。水を掛けるって事は、エルは嫌われてるんじゃ無くて愛されてるって事なんだ。だがその行事を知らなかったとはな……悪かった」
「じゃあ今度私とデートして下さい……そうしたら許します」
「はいはい、ブレない奴だな。構わねーよ……約束だ。そんじゃ、そろそろ皆の所に戻ろうぜ。きっと夕飯は豪華な筈だぞ」
「分かりました。でもしっかりとデートの約束は守って下さいよ?」
「しつこいと約束を破棄するぞ?」
「はいごめんなさい黙って帰りますデートしたいです」
そんな感じで、色々と誤解してた私は、皆に事情を話して謝って回り、そして謝られて、和解が済んだ後に、改めて私の14歳の誕生日パーティーを始めました。
そしてきっとこの誕生日が、良くも悪くも一生忘れる事の無い記念の日になると確信した私は、精一杯の顔で笑って誕生日パーティーを楽しむのでした……。
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