14節 依頼と、字を読まない私と、子供のお世話の大変さ
はぁい、私でぇす。アホ毛が身の回りのお世話を手伝ってくれる様になって、親が我が子に感じる様な嬉しさが理解出来た気がするエルシアでぇす。
私は今日、ノヴァさんとデートをする前に、何かしらの依頼を酒場で受けようとして、依頼の紙が貼りつけられたボード……とは言えない程度にはボロい足が付いただけの板切れを眺めていました。
出来れば半日以内に終わらせられる仕事が望ましいんですが、そうそう上手い話も無く、主に終日掛けなきゃ終わらない依頼ばかりが点々と残っているだけでした。
まぁ確かに即日で終わる仕事じゃ無きゃ誰も受けたくないですよね……そんな風に半ば諦めて、仕方なく数日掛かる、それでも1番早く終わりそうな依頼の紙を手に取ろうとしたその時でした、なんと隠される様に張り付けられていた別の依頼の紙が手に取った紙の下から出てきたのです。
「お?これは……?」
依頼の紙に書かれた文字を読んだ私は、依頼時間が3時間という言葉だけを読んで、速攻で依頼を引き受ける旨をマスターに報告しに行きました。何をするのか分かっていませんが、まぁ世の中の8割位はその場の流れで何とかなるもんです。しかし私は、しっかりと依頼内容を読まなかった事を激しく後悔するなんて思いもしなかったんですが、それはもう少し後のお話……。
「マスター、この依頼を受けます。承認の判子をお願いします」
依頼を受ける時には、依頼掲示板の所持者から承認の判子を貰う決まりになってます。これは途中で依頼を投げ出さない為の措置と、誰かが勝手に依頼をこなして揉め事が起きない様にする意味合いがあるんだとか……。まぁ他にも色々と理由はあるそうなんですが、ただ依頼を受けるだけの人間はそこまで気にする事でも無いんで詳しく知らないです。
「エルシア……この依頼、本当に受けるのか?」
「えぇ、別に報酬と依頼内容が極端に離れてる訳でも無いですし、何より依頼時間が短い」
「まぁ構わないけどさ……しっかり最後まで仕事はこなすんだよ?」
何か難しい顔をしながら依頼の紙に判子を押したマスターは、いつも以上に険しい顔で念を押してきました。
「分かってますよ。オレンジジュースを飲んだら行って来ますね」
そしてオレンジジュースを頼み、一気飲みした私は、依頼の場所に足を運ぶのでした……。
〇
それから数時間後、私は二人の女の子と共に歩き、胸元には赤ちゃんを抱いていました。いや待って、私は一体何をさせられているんですか?。
私はどうして子供を抱えているのかを思い出すようにしながら、少しの間目を閉じました。
あれは遡る事、依頼人から依頼を受ける直前まで戻ります。私は依頼人の家で、不思議な質問を投げかけられました。
「子供は好き?」って聞かれたんで、「人間は好きかも知れないですけど、子供は嫌いです」と答えました。……いや、そう答えた筈なのに、今の状況はマジで訳分かんないです。何で依頼人は子供が嫌いと言った私に子供を預けて出掛けちゃうのでしょう?。
私が頭を悩ませていると、不意にワンピースの裾が引っ張られました。
「おねぇちゃん、アイス食べたい」
「私もアイス食べたい」
「ばぶぅ~、あぅあぅ~」
「えぇ?さっきジュース飲んでたじゃないですか。後、赤ちゃんは何言ってるのか分かんないです」
「ぅ~」
「我慢、出来ますか?」
「……うん」「がまん……する」
うんうん、この二人は結構いい子ですね。しかし問題はこの赤ちゃんです……何言ってるのか分からない上に、よだれでワンピースが濡れて気持ち悪いです。定期的に私の指を吸ってくるんですが、これは何の合図なんですかね?。
「おねぇちゃん、この子……お腹が空いたみたいだよ?いつもお母さんのおっぱい吸う時に指吸ってるもん」
「そうなんですか?でも困りましたね……私は出ないですよ?」
「あ~!う~!」
「ダーッ!うっさいですね!出ない物は出ないんです!」
あぁ、依頼内容……しっかり読んでおけば良かった……。とはいえ1度引き受けた仕事は投げ出したくないですし、何か策を考えないと……。あ!リンネさんなら母乳出るんじゃないですか?旧世界から今の今まで独り身って事も無いでしょうし。探してみましょう!。
私はリンネさんを探して王都内を彷徨い歩きました。そしてやっと見つけました、何か買い物をしてるみたいですが構いません、突撃です。
「リンネさん!」
「あら?エルちゃん……この子達どうしたの?」
「話は後です、おっぱい下さい!……いでででで!頬をつねるのはやめて下さいよ」
「はぁ、場所を移しましょ?そこで話を聞いてあげるわ、場合によっては協力もするから」
こうして私たちは、リンネさんと言えまで戻り、一通りの説明をしました。そして大体は私の責任だという事も予め言って謝っておきました。
「はぁ、助けるのは今回だけよ?次からは内容を良く読むように!」
「はい、助かりました。ありがとうございます」
そこまで話すと、リンネさんは早速赤ちゃんに母乳を与え始めました。……私が言うのもアレですが、本当に出るんですね……母乳。
そして小さな子供たちですが、彼女たちは家の裏で何かを作ってるノヴァさんが珍しかったのか、ずっと目を離さずに見ていますね……ふぁあ、何だか疲れました……。
「エル、ガキからは目を離すな。コイツ等はネズミよりすばしっこいから居なくなったら面倒だぞ」
「あ、はい。すいません……所でノヴァさん、どうしてリンネさんは赤ちゃんの扱いが上手なんですか?」
私は向こう側で赤ちゃんと遊ぶリンネさんを見ながら聞いてみました。どうやらお腹がいっぱいになったらしく、ウトウトしながらもリンネさんの行動に笑いながら食らい付いています。
「リンネにも二人の娘が居たんだ。まぁ昔の話だがな」
「そうだったんですね……どんな子でした?」
「なんつーか……やんちゃなガキだったな。事あるごとに奇襲を掛けられてた」
「へぇ、愛されてますねぇ」
「ははっ……奇襲愛とか嬉しか無ぇな」
そんな話をしながら子供たちの相手をしている内に、気が付けば依頼完了の時間になっていました。何となく名残惜しくなってしまいましたが、そろそろお別れですね。
「さてと!そろそろお母さんが戻ってくる時間ですよ!帰りましょうか?」
「「はーい!」」「あ~い」
私は再び赤ちゃんを抱きかかえて、子供たち二人を連れると、依頼主の家に戻っていきました。これといって身になる出来事でも無かったんですが、まぁリンネさんが既婚者だったって事が分かっただけでも私的には儲け物でした。
それと、私が王都に居る間、休み期間と言いながらも、かなりの数の依頼を受けてる事に疑問を抱くかも知れませんが、これは……前にも何処かで言ってた様な気がしますが、私なりの罪滅ぼしの形なんです。きっと半壊事件が起きなければ、これ程までに依頼が溜まる事も無かったと思うんです。
まぁその話は置いといて、そんなこんなで依頼を終えた私は彼女たちと別れて、家に戻って来ました。
「さてと!今日は疲れたし、久々にお昼寝でもしますかね!」
自室のベットでうつ伏せに倒れ込んだ私は、近い内にするノヴァさんとのデートの事を考えながら、深い眠りに落ちて行くのでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます