15節 デートと、お化粧と、好きについて話す私

 どうも、私です。……え?アホ毛の話ですか?そうそう毎回新鮮味溢れる面白い出来事なんて無いですよ。いつも通りに頭の上で跳ねていますよ……時々何処かに居なくなるけど。強いて言えば、最近は歌にハマってるらしく、定期的に歌ってますね。これが結構上手なんですよ。


 私は今日、ノヴァさんとデートの日です。初めてのお化粧をしたんですが、リンネさんに薄化粧の方が可愛いと言われたんでリンネさん監修の元、程々のおめかしで済ませて、後はリボンで横髪を結んだり、ピアスとかも付けてみたりして、ガッツリとデートモードに変身しました。


 そしてノヴァさんとのデートなんですが、うん、まぁ……嬉しいんだと思いますが……最近ずっと私って本当にノヴァさんが好きなのかを考えてるんですよね。


 そもそも私には愛だの恋だの好意だのがイマイチ分かっていません、その上で何となく好きな気がするってだけなんです。感じ方的には、ユズに抱く感情と似た物がありますが……実際どうなんでしょう?。私は本当に彼が好きなんでしょうか?。


 そんな思いを胸に秘めながら、私はノヴァさんとの待ち合わせ場所に立っています。少し予定があるんだとかで、彼は昨日から出掛けてて、時間効率を考えて外で待ち合わせをする事にしたんです。


「はぁ……人間の感情って難しいですね」


「そりゃそうだ。昔から心理学が研究されてたが、結局決定的な解は出なかったんだからな」


「うぉう!ノヴァさん!?」


「悪い、少し遅れたか?」


「い、いえ……寧ろ予定より早いです」


 私は色々と考えたくて、かなり早めに家を出てきたんですが……彼の到着が思ったよりも早いですね。悶々しっぱなしでデートも嫌ですし、ノヴァさんに人生の先輩として私が胸に抱いてる思いを聞いて貰いましょうかね。


「あの……いきなりで申し訳ないんですが、質問良いですか?」


「あぁ、何だ?」


「私って……本当にノヴァさんが好きなんでしょうか?」


「いや知らんよ。そうだな……エルはそもそも何で俺を好きだと思ったんだ?それを考えれば答えは出るんじゃねーの?」


「……優しかったから?一緒に居て安心できるから?それとも……ノヴァさんの手に愛おしさの様な物を感じたから、でしょうか?だとしても、どうしてそれが好きに直結したんでしょう?」


「まぁ詳しく考えるな。感情なんざ考えた所で疲れるだけだ」


 ノヴァさんはいつもの様に私の頭を撫でると、歩き始めました。私も彼の隣を歩いて行きます、でも何処に行くんでしょう?。


「エル、お前はイルカって知ってるか?」


「えぇ、一応は知ってます……まぁ実物は既に滅んだとされているんで見た事は無いですが」


「そうか。それじゃあ今日はイルカを見に行くか?北東の方向で見かけたんだ、他の魚もいっぱい居たぞ」


「イルカ……見たいです!そこに行きましょう!」


 こうして私たちのデートは、天然の水族館で過ごす事になるのでした。



 北東に向かって飛ぶ事10分程度、私たちの視界の先には大きな池が現れました。規模的に言えばユミリアの半分位の面積ですね。すっごい広い。


 と言うか、ノヴァさんって飛べるんですね。私みたいに魔道昆に乗ったりする事も無く、まるで空中浮遊するかの様に飛んでます……本当に何でもできる人ですね。


「此処ですか?」


 私は大きな池を指さして聞いてみました。


「あぁ、此処だ」


 先行して飛ぶノヴァさんの後ろを付いて行った私は、大きな木が日の光を遮る場所に降り立ちました。う~ん、少し強めの風が気持ち良いです。


 そして私たちは、その場所にレジャーシートを敷くと、ゆったりとしながら池を眺めていました。


「あの……ノヴァさん。私、此処に向かう途中でも考えていたんですが……」


「好きかどうかって話か?」


「はい……結論を言うと、やっぱりよく分からないんですが、私はノヴァさんと居ると楽しいんです。それに……言葉では表しにくいんですが、胸がポカポカしたりフワフワするんです。一緒に居るのが嬉しくって、でもちょっと切なくって……ノヴァさんが他の女の人と楽しそうに話してるのを見ると、ムカムカするんです」


「ちょっと待て、俺は他の女と話す事なんて殆ど無いぞ?リンネ位じゃないか?」


「そうです……リンネさんの事です。ノヴァさんがリンネさんと親しくしてると……羨ましいって言うか、何かムカつくんです。何で私と話す時はそんなに楽しそうにしてくれないの!?って思っちゃうんです。別にリンネさんが嫌いな訳じゃ無いんですよ?でも……」


「まぁ……何となく分かるかな。独占欲に近い気持ちになった事は俺もある」


「そうなんですね……うん、確かに独占欲かもしれないです。ノヴァさんを誰にも渡したくないと思っちゃったりする事もありますし」


 そんな事を話していると、急に視界いっぱいに間欠泉の如く水が噴き出してきました。そしてその噴き出した水の中には、大きなシルエットが見えました。アレは……。


 バシャァァン。


 大きな水飛沫を上げながら水上に落下した大きなシルエットは、私をジッと見つめていました。


「うそ!本当にイルカだ!ノヴァさん、イルカですよ!?」


「あぁ。そいつは人懐っこいから触っても平気だぞ」


 そう言うと、ノヴァさんはイルカの方に歩いて行き、おもむろに鼻の所を撫で始めました。凄いですね……本当にイルカですよ、初めて実物を見ました。でも……何て言うか、ヘンテコな顔をしてますね。おでこに黒い点が付いてますし、顎がしゃくれてますし……。


「ほらエル、来いよ」


「はい。失礼しますね、イルカさん」


 私はイルカの鼻先を撫でました。水の冷たさの他に、何とも言えない触感がありますが……別に嫌な感じはしないですね。


「ふふっ。大人しいですね、デコすけ」


「デコ……すけ?コイツの名前か?」


「えぇ。可愛いでしょ、デコすけ」


「キュイキュイ!」


「お前もそれで良いのか?だったら別に良いんだが……」


「キュイ!キュイキュイ!キュイ!」


 うぉう、ノヴァさんがデコすけと会話し始めましたよ。私には何言ってるのかさっぱり分かりませんけど。



 それから暫く、私たちは他の魚と戯れるデコすけを眺めていたんですが、そろそろ日が暮れて来そうだったんで帰る事にしました。


「あの、ノヴァさん」


「どうした?」


「私……やっぱり好きが何かハッキリとは分かりません。でも、それでも私はノヴァさんが好きなんだと思うんです!」


「……あぁ、エルが抱いてるその感情は好意で間違いないだろうな」


「そうだと良いなと思ってます。それで、ノヴァさん?私……あれから色々と経験して少しは大人に近付いたと思うんですが……どうですか?」


 後ろでデコすけが跳ねて、夕暮れの空に虹を掛けてくれました。なかなかロマンチックな光景ですね。


「どうって……エルが大人になったら返事をしてやるって話の事か?」


「はい!あれから私は少し賢くなったつもりですし、人を思いやる気持ちも芽生えました、それに、前以上に女性らしいスタイルになってる筈なんです。まだ……駄目ですか?」


「そうだなー……それじゃあこうしよう。エルは好意が理解できる様になったら改めて俺に同じ事を言ってくれ。それまでに俺も踏ん切りを付けておくからさ」


「分かり……ました。さて!そろそろ帰りましょう」


「あぁ」


 悲しみを振り払う様にして歩き出した私は、少しだけワクワクしていました。ノヴァさんのあの言い回し……本気で私の事を考えてくれているんだと思うと嬉しくてたまらなかったんです。


 こうして私たちは、デコすけにお別れをすると、家に帰る為に夕日の中を飛んで行くのでした……。

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