2節 魔女の痕跡と、拷問する魔物と、魔女と対峙する私

 魔物の集落を出てから数日、巫女服を着た私はスッキリした顔つきで空を飛んでいました。


 僧侶の魔物から教えてもらった座禅なんですが、あれをすると寝つきか良くなるんですよね。なので最近は寝る前にちょっと座禅を組んで、ウトウトし始めたらそのまま寝る……そんな用途での利用が主になっています。……何か違う感は否めませんが、これが私にとっての最も利用価値のある方法だと思ったんで気にしません。


「それにしても、魔女の研究所……遠くないですか?」


 そうなんです、いつまで経っても辿り着きません。もしかして通り過ぎちゃったんじゃないかとも考えたんですが、そもそも生活痕がある場所に辿り着いて無いので、それは無いでしょうね。


 もう魔女の研究所に寄るのを諦めようかと思った、そんな時です。何やら煙が立ち上る場所を前方に発見しました。


「あれですかね?。もうすっごい道のり長かっだじゃないですか……」


 愚痴を零しながらも、やっと到着する事に安堵した私は、ササッと村の入り口に降り立ちました。


「さてさて、お邪魔しますよーっと」


 早速村の中に入って周囲を見渡した私は、思わぬ光景に絶句してしまいました。


 村の中、そこには……何かが燃え尽きて炭になった後と、破壊された大きなコンピューターがポツンと建っているだけだったのです。


「どう……なってるんですか?」


 私は何が起きたのかを探ろうと、地面に転がる炭に手を近付けました。


「――っ!?。これ……魔力を感じます、しかも少し変わった魔力を……」


 地面に転がる炭、恐らくコレは魔物の焼死体なのでしょう。見た事ある形を辛うじて留めていました。


 そしてこの魔物の焼死体にこびり付いた魔力……間違い無く魔女が魔物たちを焼き払った跡です。


「どうして……こんな事を」


 惨い事をする魔女の事を考え込んでしまっていた私は、背後から接近して来る者の存在に気付きませんでした。そして――。


 ――ゴンッ。


 鈍い音と共に、私の視界がガクンと揺れました。


「がっ!」


 脳震盪を起こして動けなくなった私は、その場で力無く倒れてしまったのです。


 そして意識が完全に途切れる直前、私の視界には魔物の足と思われるものが映り込みました……。



 私が魔物から襲撃されて、恐らく数時間たった後の事、村に一角では私の悲鳴が響き渡っていました。


 ――ジュゥウウウウ。


「ああああああっ!!」


 服を脱がされて下着姿にされた私は、魔物に手足を拘束されて吊るされていました。


 そして私の腹部に突き刺された、真っ赤になるまで熱せられた鉄の棒が、焼ける音を立てながら煙を上げました。その煙の音を掻き消す勢いで、私も激痛に身を捩らせながら叫び声を上げています。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「さて、いい加減話す気にはなったか?……人間」


「だから……何も知らないって言ってるじゃないですか」


 私の今の状況を簡単に言うのであれば、魔物から尋問と言う名の拷問を受けている所です。どうやら彼等はこの村の生き残りで、いきなり村を焼いた魔女に対して怒りを感じているのだとか……。


 まぁ怒りを感じるのは分かるんですが、誰彼構わずに魔女を拷問するのは止めていただきたいですね。


「……もう一度問う。どうして村を焼いたんだ?」


「もう一度言いますが……私は煙が上がってるのが見えたから寄っただけで……村を焼くなんて事は絶対にしてません……」


 私の返答を聞いた、恐らく村長だと思われる魔物は新たな熱した鉄の棒を取り出すと、右胸の少し上に突き刺してきました。


 ――ジュウウウウ。


「ああああああああああっ!!」


 その後も私への拷問は続き、ひとしきり終えた頃には私の体はボロボロになっていました。


 熱した鉄の棒の他に、魔物の鋭利な爪で切り裂かれたり、巨木で腹部を潰されそうになったり、鉄の棒が刺さった後の傷口を悪戯に抉られたりと、散々な目に遭いました。


「これじゃ埒が開かんな。おい!誰か僧侶の元を訪ねて来い!」


 魔物の村長はそう言うと、私を吊るしてた紐から降ろしてくれました。ですが座る気力も無い私は、うずくまる様にしながら倒れ込んでいました。


「やっと……信じてもらえました……?」


「そんな訳ないだろう。今、飛行型の魔物がお前の言う僧侶の元を訪ねている。僧侶が到着するまでが執行猶予だと思え」


 そう言い残すと、魔物たちは全員私の傍を離れて行ってしまいました。


「……ドアが無いんで開放的ですね。せめて服を着せてほしかったものですが」


 最後にそう言った私は、想像以上に疲れていたのでしょう……傷口の確認をする事さえ忘れて眠りに就いてしまうのでした。



 それからも毎日の様に私を尋問をする日々が続きましたが、誰も攻撃をしてくる事は無くなりました。なんでも叫び声がうるさいから……らしいです。


 そして気が付けば、私は尋問しに来る魔物とすっかり仲良くなっていました。今では拘束も解かれて、服を返してもらい、普通に村の中を歩き回っています。まぁ村長からは良い目で見られてはいませんが……。


「おーい、エルシア」


「どうしました?」


「また新しい魔女の痕跡を見つけたんだが」


「分かりました、連れて行ってください」


 そして村の中で自由に行動出来る様になった私は、更なる信用を勝ち取る為に皆と協力して例の魔女の痕跡を探っていました。


 そして魔女の痕跡を調べて毎回思うのは、やっぱりこの魔力の持ち主……私の知ってる人なんですよね。ですが目撃情報と彼女の見た目は何も一致しないんです、一体どういう事なんでしょうか?。


「なぁエルシア、この魔法痕ってどんな魔法だったんだ?」


「これは風ですかね。向こうは雷です、そしてさっき見つけたのは水です」


「ほう……魔女ってのは色んな魔法が使えるんだな」


「いえいえ、多分この魔女が特殊なだけです。普通は一種類しか使えない筈ですし」


 まぁ私は二種類使えますけどね。


 そんな話をしていると、遠くから魔物の呼ぶ声が聞こえました。


「おーい、ニンゲン!。食いもん持って来てやったぞ!」


「あ、はーい!。今行きまーす!」


 とりあえず調査を中断した私たちは、村の中央に設置された大きなテーブルの前に集まって食事を始めました。


 私に出された食事は、ゴーヤと乾パンという舌と喉が死にそうな組み合わせでした。対して魔物たちは謎の肉を生のまま頬張っています。……野生児みたいですね。


「あの、魔物って食事を必要とするんですか?」


 ちょっと気になってたので聞いてみました。魔物の生態については知られていない事が多いですからね、良い機会なんで色々と聞いていきたいと思っています。


「いや、特に必要無いぞ。ただ魔力は吸収していかないと、俺達って短命なんだよ。そんで、草木より肉の方が魔力の摂取量が多いんだ」


「へぇ……。だから魔物って人間や家畜を襲うんですね」


「そうゆう事だ。他に聞きたい事とかあるか?。ついでだ、答えられるだけは答えてやる」


「そうですね……それじゃあ、どうしてこの周辺の魔物たちは喋れるんですか?」


「おぅ、難しい質問だな……」


 え?難しいんですかね?。もっとこう……勉強したとか気が付いたら喋れてたとかの返答が来るんじゃないかと思ってたんですけど。


「ザックリ言うと、俺たち皆、人間を食った事があるんだ」


「……ほぅ」


「それでな、食った人間の魂って言うか……意識体みたいな物が俺達を支配して、そん時に喋れるようになったんだ」


 ふむふむ、つまりはアレですね。移植手術した人に、他の人の記憶が混ざり込む的な感じなんでしょう。


 そんな話をしながら食事をしていた私たちの前に、恐ろしくボロボロになった鳥型の魔物が落っこちてきました。


「そ……村長……」


「おい!一体どうしたんだ!」


 鳥型の魔物の傍に心配して立ち寄る魔物たち。どうやら彼が僧侶の魔物に会いに行った魔物らしく、それっぽい会話が聞こえてきます。


「村長、最後にこれだけは伝えておく……。そこの魔女、エルシアは……我々の理解者だ」


 そう最後に言った魔物は、口から血を吐き出して死んでしまいました。


 ……この鳥からも例の魔力を感じます。一体何がどうなっているんでしょう?。


 そんな事を考えていると、村長が話し掛けてきました。


「おい、エルシアや」


「はい?」


「数々の非礼を詫びる……すまなかったな」


「……もう殆ど完治したんで構いませんよ。それに魔女に仲間が殺されたんじゃ、私を疑うのも無理はないです」


 そんなこんなで和解出来た私たちは、改めて魔女の痕跡調査を始めようとしていました。――その時です。


 ――ドォォオオオオン。


 村の外れで大きな爆発音が鳴り響きました。地響きが凄まじいです。


「な、何なんです!?」


 驚いてそう叫んだ私は、不意にある気配を強く感じました。


「……皆、逃げてください」


「あ?どうしたんだエルシア?」


「……例の魔女の気配がします。避難しててください、私が戦います」


 私のその言葉を聞いた魔物たちは、一目散に洞窟の中に隠れて行きました。


「おい!エルシア!」


「……?」


「……負けても良いから、絶対に死ぬんじゃないぞ!」


「えぇ、任せてください!」


 魔物たちに親指を突き出した私は、一気に戦闘態勢に移行。魔女が現れるのを待ち構えました。


 そして色々な場所で爆発を繰り返しながら、遂に魔女は私の目の前に現れるのでした。


「……貴女は私の旅の障害になりそうですからね、倒させてもらいます」


「…………」


 一切の反応を見せない魔女でしたが、不意に口角が上がった気がしました。そして急に魔力の塊を私に飛ばして来たのです。


 私は魔力の塊を側転して避けながら、お返しに火球を飛ばしました。


 ――ドォォン。


 小さな爆発の後、煙の中に佇んでる魔女の姿が影となり映りました。


「流石に効きませんが。それじゃあ私の得意距離で戦わせてもらいますっ!」


「……っ!」


 ――キィィン。


 急接近して振り下ろしたショーテルが、ナイフの様な物で受け止められてしまいました。……今の速度に反応できるとは、なかなか面倒な戦いになりそうですね。


 この後も私は魔女と壮絶な戦いを繰り広げるんですが、それはまた次のお話で……。

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