1節 魔物の集落と、座禅を組まされる私と、釘バットを持った僧侶

 ――コツ、コツ。


 石の壁を掘って作られた洞窟の中で、足音が響きました。


「…………」


 その足音を出していた正体は、僧侶の様な格好をした魔物でした。何故か釘が反対向きに刺さった釘バットを持っています。


 そしてこの魔物が見つめる先、そこには一人の白いワンピースを着た金髪の少女が居ました。


 目を瞑り意識を集中させている彼女は、どうして自分が座禅を組まされているのか分かっていませんでした。ですが流れに身を任せた結果こうなってしまったので、文句も言えずに黙って座禅を組む事しか選択肢が残っていなかったのです。


「……むむ?」


「…………」


 少女の後ろに立ち唸り始める魔物。手に持った釘バットを手の上で遊ばせながら、少女を凝視します。


 嫌な予感を感じた少女は、顔から流れる汗が止まらなくなりました。


(あ、これヤバい感じですね。釘バットを振り上げる音が聞こえます)


 大きく振り被った釘バットは、何故か少女の頭に目掛けて振り落とされてきました。


 少女は魔法陣の様な物を空中に出現させて釘バットを受け止めましたが、そこで何故か更に力を込めて少女の頭を破壊する勢いで魔物は釘バットを押し付けてきます。


 ――ピキピキッ。


 魔法陣にヒビが入る音がすると、次の瞬間に魔法陣はバラバラに砕け散って釘バットが少女の頭に直撃しました。


「うぼぁ!?。痛い痛い痛い痛い!。釘刺さってますって!!」


 無理矢理釘バットを引き抜いて距離を取った少女は、涙目で魔物を睨みつけました。


「な、何するだぁ!?」


 ちょっと錯乱して話し方がおかしくなる少女、しかし魔物は返答する事無く少女に追撃を入れてきました。


「心に意識を集中せんかーっ!」


「あぁ!?痛い痛い!!」



 そんなこんなで拷問に近い体罰を終える事が出来た少女は、休憩しながら自分がこんな事になった経緯を思い返してみました。


 そして理不尽な目に遭うこの少女の正体……実は私でした。



 エレナさんと南の最果てで別れてから数日、私は何も無く文字通りに「無」が広がると予想していた最果ての向こう側を魔道昆に乗って飛んでいました。


 「無」とは言っても、何かしらの建築物の後は残ってるでしょうし、もしかしたら動物も生息してるかもしれませんでした。私が言ってる「無」は、人間やアンドロイドが存在しない、その結果建築物の管理を誰もしない、そして廃れた世界が広がる場所を「無」と例えただけです。


 しかし意外な事に、まだチラホラと稼働してる痕跡がある建築物が建っていました。


「……?。誰か居るんでしょうか?」


 ちょっと興味が沸いた私は、フラフラ~っと稼働してる建物がある場所に向かって飛んで行くのでした。



 そして数時間後、稼働してる建物付近で降り立った私は、驚きの光景を目にする事になったのです……。


「え……?。魔物が……生活してる?」


 そう、その場所は魔物が生活をする小さな集落だったのです。


 魔物は人に危害を加えて、家畜や田畑も荒らす悪として認識されています。当然私も魔物には最低限の警戒は解かないで狩っています。


「これは……狩っておいた方が良いんでしょうかね?」


 腰に着けたショーテルに手を掛けながら魔物に狙いを定めていた私は、不意に足元から小さな魔物が転がって覗き込んでる事に気付きました。


「……?」


「……フム、黒か。大人ぶった小娘だな」


「――っ!?」


 思わず魔物の顔面を踏みつけてから、前かがみになりつつ股付近を抑えて後ずさった私は、魔物にショーテルを向けました。


「な、何してんですか!?」


「たかがパンツの1枚や2枚、見られたくらいでそんな興奮するでない」


 いや普通は怒るでしょう。見ず知らずの人がパンツ覗いてんですよ?。


 しかし私の怒りなんて気にする様子も無い魔物は、踏みつけた際に痛かったのか鼻を擦りながら「まぁ何はともあれ久々の客人だ、のんびりしていくが良い」と言い残して村の中に消えていくのでした。


「え?、それだけを言う為に私はパンツを覗かれたんですか……?」


 ……まぁいいです。覗いてきたのは人間じゃ無くて魔物、動物に覗かれたと思えばなんて事は無い……そう自分に言い聞かせました。


「……そう言えば今の魔物、普通に喋ってましたね。魔物って喋れる個体が居たんですね、知りませんでした」


 そんなこんなで結局魔物の集落に立ち寄る事にした私は、情報収集出来そうな場所を探して辺りをフラフラしました。


 ……人間が珍しいのか、私の周りを子供の魔物はウロチョロしながら話し掛けてきます。一応の返答は返す私でしたが相手は魔物、人間の敵です。一切の気を許さずに魔力を全身に帯びさせていました。


 そんな時です。魔物の一人、ツクと名乗る魔物が変な質問をしてきました。


「そう言えばエルシアさん。さっき別の魔女が居たけど、彼女はお友達じゃないの?」


「え?私は一人ですけど……どんな魔女でした?」


「うーん、全身をローブみたいなので覆ってたから良く分かんないや。でもでも、ちょっと変わった魔力を感じたよ」


「変わった魔力、ですか……」


 変わった魔力……心当たりが無い訳じゃないんですが、私の知ってる限り彼女はローブなんて着ていません。という事は別人でしょうか?。


「うん。でもエルシアさんを遠くから見てるなーって思ってたら、怖い顔をして何処かに行っちゃった」


「ほぅ、怖い顔ですか」


 怖い顔の知り合いなんて私にはいませんが……。


 ツクは嘘を吐く時には必ず顔を下げて目を左に逸らします。ですが今はそれが無い……という事は本当に見たんでしょうし、一応頭の片隅にでも入れておきましょう。



 さて、特にコレといって情報が集められる施設もなさそうですし、そろそろ私は先に進みましょうかね。


「皆ごめんなさい。もう少しお話したかったんですが、そろそろ旅に戻りますね」


「うん、気を付けてね!」


 数体の魔物が大きく手を振って私を送り出してくれました。魔物にも良い個体が居るもんですね、珍しい体験の上に有意義な時間だったと思えます。


 ……そんな時でした。僧侶のコスプレをした魔物が私の行く先を塞いできたのです。


「……えっと、通してもらって良いですか?」


「駄目だの」


「どうしてです?」


「ヌシは余りにもせっかちで、心に落ち着きが無い。それではこの先に居る同法に殺されてしまうだろうて。もっとリラックスする術を覚えるべきだの」


「は、はぁ……」


「……着いてまいれ。少し修行をしたやるでな」


 そう言うと僧侶の魔物は壊れかけのお寺に向かって歩いていきました。


「あのー……リラックスが出来たとして、それで戦況が変わるとも思えないんですが……」


「目に見えた力ばかりに囚われると、格下の相手に意外と簡単に足元をすくわれてピンチに追い込まれる……なんて事もあるでな」


 ふむ、確かに私は格上の相手であったユナさんに勝ってます。確かあれも私が魔女として未熟と油断しきった所に、ナイフで不意打ちをしたんでしたね。そう考えると彼のいう事も、あながち間違いでは無いのかもしれないですね。


 そしてお寺に到着した私は、何の説明も無いまま座禅を組まされるのでした……。



 とまぁ、こういった経緯があって私は座禅を組まされていたんですが、まさか数時間も座禅させられるとは思いもしなかったです。


「……あれ?貴方もしかして、私のパンツを覗いて来た魔物ですか?」


「ようやっと気付いただな。これもリラックスの賜物だの」


「リラックスですか……」


 ……確かに何か落ち着いた気はします。今だったらどうな状況でも冷静に、あらゆる可能性を考慮した立ち回りが可能な気がします。


「ヌシは頑張り過ぎだの。その証拠に体が悲鳴を上げておるで、これからもしっかり座禅を組んでリラックスし、冷静に物事を見れる様に励むだな」


「はい、ありがとうございました」


「よかよか。そうだ、最後に1つ……。此処から少し西に逸れた場所にある村で「魔女の研究所」なる施設を構えた変体がおるでな、興味があったら寄ってみるとええでな」


「「魔女の研究所」ですか……。そうですね、行ってみます」


「ウヌ、気を付けるでな」


「はい、お世話になりました」


 こうして私はお寺での修行を終えて「魔女の研究所」なる場所を目指して飛んで行くのでした。


 後から気付いたんですが、私の荷物の中に巫女服が僧侶の手紙と共に入っていました。後で着てみましょう。


 ……所で巫女装束って、お寺じゃ無くて神社ですよね?。……まぁ可愛い振付がある服が貰えたと思えば良いですね。

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