3節 一文無しと、恋愛成就の奇跡と、石を売り歩く私(2)

 はい、私です。


 軽くお金稼ぎをしようと思ったら、何だか大事になっちゃってますね……どうしましょう。まさか此処に来て売ってた石は全て偽物でした!なんて言う訳にもいかないし……。


 そんな事を考えてると、私の前に王様が現れました……結構若いですね、20歳手前位でしょうか?。


「お主か、恋愛成就の石を持ち歩く少女と言うのは」


「旅の商人のエルシアと申します」


「エルシア……?。あの王都で大量殺人鬼を殺した、英雄の少女か!?」


 うげっ、私の事知ってる人じゃ無いですか……面倒だなぁ。


「確か王都まで旅してきて、そこで腰を落ち着かせてると聞いていたが……そうか、その本当の姿は商人であったか!」


 ……あれ?何か勝手に納得してくれてる?だったら適当に話を合わせておきましょう。その方が楽そうだし。


「はい、私の生まれ故郷は商人の街だったので」


「そうかそうか、それなら色々と納得がいくぞ。君の様な小娘が大量殺人鬼を殺せると思えないしな。何か凄い道具を使って殺したのだろう。それで?その恋愛成就の石は?」


「……こちらになります」


  私は魔力の籠った、ただの石ころを王に手渡しました。勿論、籠ってる魔力は私の物です。拾い物を商品まで昇華するのは、私が売り商売をする時に行う絶対条件だったりします。だって基本的に元手が無い場合しかしないんですもん。


「ほぅ……一見ただの石にしか見えないが」


 正解です、王様。魔力の籠った、ただの石ころです。


「まぁ良い!我はこれより、この石の力を使って街の娘を手中に収めて来る!」


 おぉっとぉ!?この国の中で妃を探す気ですかぁ!?これって嘘がバレるかもしれなくてマズいんじゃないですかぁ!?。


「えっと、王様の好みの女性はどんな方ですか?」


「背は低い方が良いな、後は我が王だからって臆する事無く話す意志の強い女性が良い」


 えーっと?その条件に当てはまる人は最初のお客さんと三人目、後は十七人目の女性ですね……あぁ、彼女たちには全員相手を紹介しちゃったんでした!。


 それじゃあその条件に掠ってる女性は……八人目と十人目ですね。あぁ!八人目にはまだ相手を紹介して無かったです……これはチャンス!。


「王様、その条件に当てはまりそうな方……心当たりがありますが」


「申してみよ」


「この国で1番大きなカフェの、テラス席に座る薄紫色のスカートを穿いた女性が――」


「よぉし行って来る!変装の服を準備いたせ!」


「はっ!」


 もうここまで来たら、なる様になれば良いです。アブラカタブラ、ドウニデモナーレ。



 それから1時間後、王は右頬にビンタの後を付けて帰って来ました。ヒェー!。


「うぅむ、確かに気の強い女性であったが、いささか暴力が過ぎるな。「ナンパなら花の1輪でも持って来たらどうなの!?」と怒られてしまった……花を買って来い」


「はっ!」


「我は彼女が気に入った。……エルシアよ、お主はあの女性に似ておる。我のデートの相手をいたせ」


「え……嫌です」


「……」


 わぁお、周りの騎士の目が痛ぁい。



 その後も、幾度となくアプローチを例の彼女に掛けに言った王でしたが、ことごとくフラれて帰って来ていました。


「もう駄目なんじゃ……?」私を含む全ての騎士がそう思い始めた頃、この状況に転機が訪れました。


 もう王一人で行かせるのが不安になった私たちは、こっそりと王の後を付けて見守る事にしました。失敗したら何か的確なアドバイスをあげられるかもしれません。


「やぁ、君に言われた通りだったよ。どうも僕は女性と話すのが得意では無い様だ」


「だったらナンパなんてやめれば良いんじゃないんですか?」


「そうも言ってられなくてな。せめて話でも……」


 王が彼女の向かいの席に座ろうとしたその時、何処からともなく魔物が降って来たのです。えぇぇぇぇ!?。


 王は直ぐに戦闘態勢を取りましたが、一般人である女性は状況の判断が遅れ、その隙を魔物は逃す事無く襲ってきました。


 ザシュ。


 何かが斬られ、血が宙を舞いました。魔物の爪で斬られたのは……王でした。彼女を助けなければ速攻で魔物は倒せた筈なのに、庇って、その上で魔物を一突きで倒したのです。


「大丈夫だったか?」


顔を隠していた帽子が脱げて、国王は自分の正体を隠す事が出来なくなってしまいました。


「な……国王様!?どうして……」


「たとえ致命傷を負う程の怪我でなくても、民が傷つくのを無関心で見れる王は居らなんだ。……騙しててすまなかったな」


「い、いえ……正直、今の行動で惚れかけました」


 うん、私も彼女と同じ目に遭って、同じように助けられてカッコ良い声であんな事言われたらドキッとしない訳無いです。今のは格好良かった。



 それから暫くした後、王は彼女と付き合う流れになりました。まぁめでたい事ですね。


 めでたい事なんですが……これは私の嘘から始まった出会いです。嘘はいつかバレて、それまでに築いた物を全て壊します。彼等の関係もそうなるかもしれないです。


 なので私は、二人の行く末を見る事無く、すぐさま国を出て行くことを決めました。


 別に嘘がバレるのが嫌な訳じゃ無いです。関係ない事を含めて私にとばっちりが帰って来るのが嫌なだけです。


 こうして私は、大量のお金を稼いで国を飛び出して行くのでした……。



 後日、別の街で聞いた話なんですが。あの国では石の魔力が何故か無くなる事は無く、その後も恋を叶える凄い石として語られていて、今でも私の嘘は健在みたいです。


 そして王なんですが、無事に彼女と結婚して幸せに暮らしてる……と、旅の商人の噂で耳にしました。


「まぁ、嘘で救えた事もあったなら儲け物ですね」


 私は独り言を呟くと、水筒の水を少し飲み、南の最果てを目指して飛び立っていくのでした……。

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