(旧版)改変世界の観測者
水樹 修
1章 真実を求めて旅する少女
プロローグ
暖かな陽気が心地良く、お散歩が捗りそうな道の中、1台の馬車がほのぼのとした雰囲気をぶち壊して、物凄い勢いで走り抜けていきました。
そして馬車を追って走る禍々しい生物……魔物が更に雰囲気をぶち壊しています。
馬車に乗る少年は額の汗を袖で拭うと、必死に馬を使役してスピードを上げていきました。
そんな馬車に、数匹の魔物が追いついてきました。
馬車の荷台を鋭い爪で何度も引っ掻く魔物。既に荷台からは荷物が落ちる程に破損してしまっています。
その時でした、1匹の魔物が荷台に飛び込もうとして飛んできたのです。
「もう駄目だ、あの馬車は助からない……」周りで見てる人が居るなら誰もがそう思だろう、その時でした。
――バシュン。
風邪を切り裂く音と共に、1本の矢が飛び上がった魔物の額を射抜いたのです。
そして地面を走って追いかけて来る魔物も正確に次々と射抜く矢は、意外にもボロボロになった馬車の荷台から飛び出していました。
馬車の荷台に居た漆黒のローブで頭までスッポリと隠した人物は、うつ伏せになってボウガンを構えていました。
この人物は、今にも魔物の爪が当たりそうな場所に居ながら一切の恐怖心を感じさせずに、冷静に一体ずつ魔物の頭部を射抜いていきました。
そして矢が尽きかけた頃、魔物たちは馬車を追う事を諦めて消えていくのでした。
「……ふぅ」
荷台に居た人物は小さくタメ息を着くと、全身を覆いきる程の大きさをしたローブを脱ぎながら馬車の少年に近付きました。
「リックさん、終わりましたよ」
「う、うん……ありがと」
リックと呼ばれた少年は、隣に座る純白のワンピースと金色の髪、透き通る程の白い肌と何でも見透かす様な蒼い瞳が特徴的な少女に目が釘付けになっていました。
「ちょ、リックさん!?前見て!前!!」
「え?う、うわああああああ」
少女に目がいってしまってた彼は、前方に大木が生えてる事に気付かず突っ込んでしまいました。そして。
――カシャァン!!。
大きな物音を立てながら荷台の物と一緒に吹っ飛んだ二人は、縺れながら草原に叩き出されてしまいました。
「う~、超痛い……。しっかり前方を見て下さいよ……」
「ご……ごめん」
少女は再びタメ息を吐くと、草原に転がったまま目を瞑り、自分がどうしてこんな目に遭ってるのかを思い出し始めました。
〇
事の発端は、彼女が森に入って迷った時の事でした。
コンパスは機能しないし川の音もしない、自分を探してくれる存在も居ないから動かない訳にもいかない、かといって無暗に動くのは危険すぎる……。そんな状況に陥ってた彼女は、どうにかして森からの脱出方法が無いかを模索していました。
腕を組んで頭を捻る少女は、刻一刻と時間だけが過ぎていく森の中で焦りを抱えながら、必死に「う~ん」と唸っていました。
そんな時でした。前方から「助けてくれー!」と切羽詰まった感じの、誰かの叫び声が聞こえて来たんです。
少女はその場所に人が居る事に安堵しながら、しかし助けを求める以上、危険だと判断できる場所に警戒しながら近付いてみました。
「……何も居ない?」
声のした場所を見回す少女でしたが、声の主と思える人物は見当たりませんでした。
「……まぁ、馬車の通った跡が残る道に出られたわけですし、とりあえずは次の街まで行けそうですね」
そう呟いて、声の主の捜索を諦め、さっさと街に向かおうとした少女の目の前に、道ならざる道を通って爆走する馬車が現れました。
少女の存在に気付いた馬は横に逸れましたが、動きに着いて行けなかった荷台から少年が彼女のお腹にロケット頭突き飛んできたんです。ダーツなら50点、お見事です。何て事してくれてんですかこのやろう。
そしてこのロケット頭突きの少年こそ、リックと名乗る人物なのです。
その後、彼に謝られ続けた少女は、自分も馬車に乗せて近くの街に連れて言ってくれたら許すという条件を出すと、彼はそれを了承。早速少女を馬車の荷台に乗せて出発しました。
それから数十分経った頃の事です。何処から現れたのか、彼の馬車に魔物が奇襲を仕掛けてきたのです。
少女は少年に渡されたボウガンを使って、追いかけて来る魔物を迎撃する事になりました。
でも少女はボウガンなんて触った事がありません。「多分このレバーをズラせば撃てるんじゃないですか?」と呟きながら感覚でボウガンを弄ってる間、魔物の爪が彼女を狙って幾度となく攻撃して荷台を破壊してきます。
しかし少女は慣れた様子で魔物の動きを見切って、最小限の動きで回避。
――ボキッ。
「あ……レバー折れちゃいました」
この局面でボウガンを破壊した少女でしたが、安全機構を偶然外せて、尚且つ引き金は機能する事を確認した彼女は、揺れる馬車の上で飛んで来ようとしてる魔物に狙いを付けて撃ちました。
そんな経緯を経て魔物が迎撃出来た頃、少女に見とれた少年が再び事故った訳です。
〇
「貴方、馬車の扱い下手ですね……2回も吹っ飛ばされてますよ」
「本当にスンマセン……君に見惚れてました」
「……まぁそれは嬉しいですけど、次こそ許さないんで気を付けて下さいね。いやマジで」
「……はい」
とりあえず立ち上がった彼女たちは、荷台の中身はぶちまけたまま放置して、ボロボロの馬車は二人を乗せて再び走り始めたのでした。
その後は特に何か起きる事も無く、ちょっとした観光気分で景色を楽しみながら、ゆっくりと馬車を走らせています。
そんな時、少年が少女に話し掛けてきました。
「そういえば君……普通に街や村の外に出てるけど、何か資格持ってるの?」
「えぇ、一応ハンターの資格を持ってます。さっき位の魔物なら馬車を止めてくれれば直ぐに倒せたんですよ?」
「それは申し訳ない。因みに僕は商人の資格を持ってる、今は父さんの後を継ぐ為に行商人の仕事を練習してる最中なんだ」
「そうなんですね。私は師匠を探して旅をしています」
心に余裕が戻って来た少年は、少しおしゃべりになりました。しかし少女も話し相手が欲しかった所なんで、彼の事を適当にあしらわず、他愛ない話を続ける事にしました。
「へぇ、師匠ってどんな人なの?」
「騎士の特殊部隊の隊長ですよ」
「……凄い人が師匠なんだね。と言うか特殊部隊って初めて聞いたな」
「まぁ公言する事が出来ない様な事をする部隊ですからね……」
彼には語っていませんが、この少女にはもう1つ旅をする理由がありました。
それはこの世界が50年程前に1度死んだと思われる痕跡を見つけて、興味が沸いて調べる為の旅でもあるのです。
ただ、今までこの話をしても、笑われるか頭のおかしい奴としか見られなかったんで、彼女は誰にも言わない様にしてるのですが……。
「所でリックさんは行商人なんですよね?……荷物置いて来て平気だったんですか?」
「……あんまり、よろしく無いかも」
「……リックさんって15歳なんですよね?そろそろ大人の階段踏み始める頃ですよね?自分で言うのもアレですけど、2つも歳下の私の方がしっかりしてるってどうなんですか?」
「大人の階段なんて既に踏み外してるから平気、荷物も後で回収に戻るし。今は君を街に送り届けるのが最優先だよ」
「……わざわざすみませんね」
「僕の所為だから気にしないで。それよりも、到着したよ」
彼は大きな門を潜った所で馬車を止めました。
この街はアースエクト、通称始まりの街と言われる場所です。
此処が始まりの街と言われるのは、何か資格を取って外の世界に羽ばたいて行く人が多いかららしいです。
「ありがとうございます。助かりました」
少女はお礼を言って馬車から飛び降りると、背丈程の長さがある漆黒のローブを羽織って街の中に歩いて行こうとしました。
「あ、ねぇ君!」
歩く少女を彼が呼び止めました。
「何でしょう?」
「君の名前、まだ聞いて無かったから。良かったら教えて貰っても良い?」
あぁ……そう言えば名乗って無いんでしたね。どうりで「君」としか呼ばれない訳です。
少女は「私の名前は、エルシアです」と自己紹介をすると、スカートの端を掴んでお辞儀をしました。
「エルシア……か。良い名前だね。君の旅に幸がある事を祈るよ、エルシアさん」
「ありがとうございます。リックさんも頑張ってくださいね」
エルシアは改めて軽くお辞儀をすると、人混みの多い街の中に消えていくのでした。
さて、この旅をしている13歳の少女……エルシアですが。実はそれ、私の事だったのでした。
そしてこれが険しい旅の始まりになるなんて、この時の私には知る由もありませんでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます