1節 常識外れの騎士と、騎士見習の少女と、街の防衛戦

 はいどうも、私です。


 前回リックさんに始まりの街へ連れて来たもらった私は、宿で転がりながら今後の予定について少し考えていました。


 私は旅人なので、1つの街に長期間滞在する事はありません。基本的には初日に宿を取って、体力と相談しながら消耗品やその他諸々を買い足して、2日目にこの辺りの魔物や危険動物、野党等の出没の有無と付近に立っている古い建物の有無、これを聞き込んで回ります。そして3日目に朝食を取った後、街を離れるというのが大体の流れです。


 初日に宿を取った私は、絆創膏や包帯、旅の最中に食べる食料を買い足した後、時間が余ったんで洋服を買いに行き、下着3着とワンピース2着、ケープを1着を買いました。


 そして今日は始まりの街に来て2日目の朝、情報を集められそうな場所を考えている所です。


「うーん……やっぱり1番情報が集まりそうな場所はあそこしかないですよね。あまり行きたくないんですが仕方ないですね……行きましょう」


 妙にデカい独り言を呟いた私はベットから立ち上がると、情報が集まりそうな場所に出掛けて行くのでした。



 宿から出て数分、私は酒場の前に立っていました。情報と言ったら此処しかないですよね。


「……こんにちはー」


 未成年の私は人の目に着かない様にコッソリと入店し、泥棒の如くコソコソト端を通りながらカウンターに向かって行き、ちょこんと腰を掛けました。


 私が酒場に入ると、何処の店でもマスターは恐ろしい形相で見て来るんですが、此処のお店も例に違わず突き刺さる様な視線を私にブッ刺してきます。


「すいません、色々とお聞きしたい事があるんですが……とりあえずオレンジジュース下さい」


 マスターは嫌そうな顔をしながらもお金を受け取ると、オレンジジュースを持ってきてくれました。


「……で、聞きたい事って何だ?」


「この辺りに生息する危険な生き物の事とか、魔物とか、野党とかの話。後は近場に古い建物があるかどうか……それを聞きたいんですが」


 オレンジジュースを飲みながら訪ねると、マスターは1つずつしっかりと教えてくれました。


 この辺りには弱い魔物が出没する程度で、街を見張る騎士が居れば害が無いレベルらしいです。


 次に危険生物や野党なんですが、知る限りでは居ないと言ってました。


 最期に古い建物ですが、この付近には無いとの事です……ハズレですね。


 因みに余談としてマスターが話してくれたんですが、街中で最近変な噂を聞くそうです。興味の沸いた私は詳しく聞いてみる事にしました。


 何でも近々、力ずくで強引に街を乗っ取ろうとしている奴が居るんだとか。そしてその噂が広まり始めた頃から魔物の量も増えた気がする……との事でした。


 話を聞き終えた私は、オレンジジュースを飲み干すとマスターにお礼を言って迅速に退散しました。


「しかし街を乗っ取るですか……」私はマスターから聞いた事を考えていました。


 この街はかなり広い部類に入る場所です、つまりそれだけ見張りの騎士も多いという事、そんな場所を乗っ取ろうとするなんて狂った自信家か余程の馬鹿くらいです…何か気になりますね、時間もたっぷり余ってますし少し聞いて回ってみましょうか。


こうして私は、急きょ街を乗っ取ろうとする人の事を聞いて、街の中をぐるっと一周するのでした。



 それから1時間程聞き込みをして回りましたが、噂を知ってる人は全員似た様な事を言っていました。これはもう噂っていうか……宣戦布告にも聞こえてきますね、まぁ私には関係ない事でしょうけど。


 さて、特にする事も無いですし、宿に戻ってお昼寝をしたら、旅の支度でもしちゃいますかね。


「あんまり面白くない話でしたね、残念」


 そう呟いた私は、肩透かしを食らった気分になりながら宿に帰って行くのでした。



 街中が夜の闇に包まれた頃、旅の支度を終えた私は、ランタンに火を灯して手帳に挟んであった地図を広げて、自分の辿って来た道に羽ペンで印を付けていました。


「ふむ……次は何処に向かいましょうか、出来るだけ治安が良い街に行きたいですねぇ」


 がやがや……がやがや……。


「それにしても、酒場で聞いた噂は何だったんでしょうかね?」


 がやがや……がやがや……。


「……」


 がやがや……がやがや……。


「……うるさくないですか?もう夜中ですよ?何を騒いでいるんでしょう」


 あまりにも外が騒がしくて少しイラついた私は、注意してやろうかと思って窓に近付こうとしました。その時です。


 私の部屋のドアを誰かが全身全霊の力を込めてノック……というよりは殴りかかって来るような音が響きました。


 ダンダンダンダンッ。


 なにこれ超怖いんですけど。


「えっと……誰ですか?というかこんな時間に何してるんですか?」


 私は驚きを隠せないままヨレヨレの声でドアの向こう側の人に尋ねました。


「……」


 ……反応が無いですね、まぁ何でも無いならそれに越した事は無――ぬぁ!?。


 一体何が起こっているのでしょうか!?私の部屋の錠が少しずつ開いていくじゃないですか!。


 カチャ。


 完全に錠が外れました。いやいやいや何ですかコレ何の嫌がらせですかコレ!?。


 キィィィと甲高い音を立てながら、立て付けの悪いドアが開いていきます。ねぇ待ってホントに止めて下さい怖いですごめんなさい!。


 ドアの隙間から垂れてくる長い髪、その奥底で鈍く光る蒼白の顔面。


「いやああぁぁぁぁぁああぁぁあぁ!?!?」


 待ってください!私は作り物でも幽霊が苦手なんですトラウマなんです!それ以上近付いて来たらオシッコ漏らしますよ!良いんですか!?。


 ……冷静に考えてみると、私が漏らした所で誰も困らないですよね。私が恥ずかしいだけです。


 窓にもたれ掛かってドアを眺める私。足が震えてしっかり立てないです……泣きそう。


 そんな時でした。窓の外から何かの視線を感じた私は、思わず振り返ってしまいました。するとそこには沢山の顔が私の方を見て何かを語り掛けていました。


「きゃああぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁ!!」


 如何にも女の子らしい悲鳴を上げながら、あまり広く無い部屋の中をドタバタと駆け回る私でしたが、遂にベットの前に座り込んでしまいました。


 顔面蒼白の女性がドアの前から徐々にこっちへ近付いてきます、ホントに泣きそうだし漏れそう。


「ごめんなさいごめんなさい!コレといって何かやましい事をした記憶は一切ありませんがごめんなさい!お願いだからこっちに来ないでぇ!」


「……おい」


 女性の割には低いトーンの声が、私の耳元で小さく呟くように話しかけてきました。


「はいぃ!」


「……今は夜中だ」


「だから貴女たちは私を食べに来たんでしょう!知ってますよ!」


「……?。私は君に頼み事をしに来ただけなんだが」


「幽霊の仲間入りになる頼みなら謹んで遠慮させて頂きたく思う所存ですごめんなさい!」


「……とりあえず私は幽霊では無いぞ、人間だ」


「……ふぇぇ?」


 とうとう泣き出してしまった私は、フニャフニャの顔で恐る恐る女性の顔を覗き込みました。


「グスッ……あの……誰ですか?」


「その説明の前に、まず君に落ち着いて貰わないといけないな」


 女性は呆れた表情で私を見ると、暫くしたら出直すと言い、部屋を出て行ってしまいました。



 そして私が落ち着いた頃、再び女性が私の部屋まで来ました。


 彼女の名前はレウィンというそうです、この街の騎士隊長を務めている方だとか。


 で、そんな人が私に何の用なのか尋ねてみると、魔物の大群が迫ってきてるから腕の立ちそうな人を集めて防衛隊を結成、街を守るために戦うから力を貸してほしいと言ってきました。ちなみに私の名前を売ったのはリックさんだそうです……あんにゃろう。


 でも防衛なんてしたく無い私は彼女の申し出を拒否して部屋から追い出しました。そういえばレウィンさんは鍵を開けてきましたよね……念のためタンスや小物でドアを固めました。


 そして次の瞬間、真っ二つに裂けたタンスや小物が私の髪を霞めながら後方にすっ飛んで行きました。


 ガシャーンッ。


「ぬわあぁああああああ!?」


 私の後方で聞こえる悲鳴……恐らく窓際に居た誰かが飛んできたタンスに直撃でもしたんでしょう。


 状況が理解できない私はポカンとした顔のまま呆然と突っ立っていました。


 そんな私の前に抜刀した姿で現れるレウィンさん。あぁ……何が起きたのか大体分かりました。この人ヤバいタイプの人ですわ。


 その後も防衛隊にスカウトしてくる彼女に根負けした私は、仕方なく街を守る為に戦う事になるのでした。


 因みに私に拒否権はあるのか聞いてみた所、ハッキリ「そんなもの無い」と言われてしまいました……さいですか。



 はいどーも、私でーす。


 3日目の朝、優雅に朝食を取った私は、紅茶を飲んでゆったりした後に始まりの街を立ち去り、旅を続ける……そうなる筈でした。


 しかし因果が狂いまくった上に巻き込まれ体質の私は予定通りに街を出ること叶わず、どうして私が参加しなくちゃいけないのか分からない街の防衛に身を投じていました。


 目的地に馬車で連れて来られた私は、作戦説明の時間まで余裕がある事を利用して参加者を観察し始めました。


 どんな事にも言える話ですが、プロとド素人が組まされた結果、ド素人が足を引っ張って上手くいかない……という事は多々あると思います。戦場でそんな事されたら間違いなく死ぬんで、今の内に不安要素を抱えてそうな人が居たら切れるだけ切ってしまおうと、そういう訳です。


 えぇ、やるからには本気でやりますよ。……別に逃げる隙を探してる訳じゃ無いですからね?。


 そして観察を始めて暫く経ちますが、流石に場慣れした人が殆どですね。そういう事は顔つきや装備で大体図れます。しかしそんな屈強揃いの中、一人だけ不安要素を抱えてそうな人を発見しました。見た目は私と同い年位の子です、最悪手を引いてもらう為にも話しかけてみますか。


「こんにちは、防衛隊に志願されたんですか?」


「こんにちはー、そーだよ。貴女も?」


「はい、防衛に参加するエルシアです」


 参加させられるって言わない辺り、私って偉いと思います。


「私はユズだよ!よろしくねエルシアちゃん!」


「よろしくです」


 さて、ユズさんの経歴を聞いてみたんですが、意外にも騎士見習の資格を持ってるそうです。


 因みに彼女の家系は、13歳で騎士になる掟があったらしいですが、事故があったとかで1年遅れてしまってると話していました。ふむ……つまりユズさんは14歳って事ですね、私の1つ上のお姉さんです。


 それからユズさんに私の事を聞かれたので、旅をしている事を話したり、その旅の理由等の他愛ない話をしていると、魔物の襲来を知らせる鐘が鳴り響き、簡単な作戦説明をレウィンさんが行いました。


 死なない様に、迅速に殺し、街を無傷で守る……そんな感じの説明でした。


 そして遂に、魔物対人の、街の防衛を掛けた戦いが始まるのでした。


 しかしまぁ、何となく予想は出来ていましたが、大群になった魔物は弱い奴が固まって動いてるだけで実際には大した脅威では無い奴ばかりでした。


 予想通りの結果に完全にやる気をなくした私は、ワンピースのポケットに入ってるバタフライナイフで寄って来る魔物を斬るだけの簡単な作業にタメ息を吐きました。


「私、居なくても平気だったじゃん……」



 それから数時間後、万を超える程の魔物の大群はあっけなく討伐させて、誰がどう見ても完勝を収めた防衛隊の方々は勝利の雄たけびを上げていました……どうでも良いです、さっさと旅に出ましょう。


 私が街の中に戻って行く姿を見かけてたユズさんは、私に話しかけてきました。


「エルシアちゃんお疲れー!」


「えぇ……お疲れさまです」


「これから打ち上げをするらしいんだけどさ、エルシアちゃんも来る?」


「興味無いんで遠慮させてもらいます……それじゃ失礼しますね」


 私はユズさんに軽くお辞儀をすると、再び街の中に戻ろうと歩き始めました。


 その時です、背後から気持ち悪い程の殺気を感じました。


 思わず身構えながら振り返ってしまう程の殺気を放っていた人物は、意外にも太っちょなオッサンでした。


 オッサンは嘘くさそうに拍手をしながら防衛隊に近付いて行きます。


「……何です?あれ」


「あんな人……防衛隊に居たっけ?」


 ユズさんからしても、あのオッサンは気持ち悪いのか、ボウガンをホルスターから抜いて身構えています。


「いえ……私が見た限りではいませんでした」


「……何か気味悪いね」


「えぇ……」


 私たちがそんな事を話していると、防衛隊のお兄さんがオッサンに話しかけ始めました。


「おい!アンタ誰だ?」


「俺か?俺はライオット・ベルギウスだ」


「そんな奴知らねぇな……何しに現れた?」


「決まっているだろう、街を頂きに来たんだ」


「……テメェふざけてんのか!」


 ライオットと名乗るオッサンの胸ぐらを掴んだお兄さんですが、ライオットは余裕そうな表情を崩す事無く、不気味な笑みを浮かべながら金ピカの如何にもお金持ちが使いそうなボウガンを手に取ると「いいや?本気だとも」と一言だけ言いました。


 バシュッ。


 ライオットは手にしたボウガンでお兄さんの頭を撃ち抜きました。


 急な出来事に反応できなかったお兄さんは即死、周りにいる人たちも事態が把握できずにいました。


 この時に私は気付いてしまったのです、街で噂になっていた宣戦布告……街を乗っ取ろうとしていたのはライオットだという事に。


 あれは噂では無く本当の宣戦布告だった事に……。

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