7節 慢心の私と、本気の戦闘と、蜂との決着
目が覚めると、私は彼岸花の花畑の中で転がっていました。
「そういえば、毒を受けたんでしたっけ……」
私は手を握ったり、足を振ったりして、体の状況を確かめました。どうやら異変は無いみたいです。
もしかしたら私は、針が貫通してたから毒を大して受けて無いのかもしれませんね。でも、そうだとすると針の先端が直撃してたアイは……。
そんな不吉な事を考えていると、少し離れた場所からアイがホフク前進して来るのが見えました。
「エル……おはよ」
「アイ!、無事ですか?、毒は!?」
「……別に体は変じゃ無い。傷も……何か塞がってる」
「そうですか、良かった……」
安堵の息を漏らした私は、今だに空中を飛んで私たちを探す虫を見つめながら、少し考えさせられていました。
最果ての向こう側に来てからというもの、私は心の何処かで油断の様なものが芽生えてたんだと思います。この蜂も警戒してれば気付けたでしょうし、街でも魔物に苦戦する事も無かったでしょう。全て、私の慢心が招いた結果です。
しかもこの結果、私が痛い目に遭うだけなら良かったんですが、私以上にアイが被害を受けてしまってます。
今すぐ自分を殴ってやりたいですが、不思議と自分自身を上手に殴る事って、出来ないんですよね。
しかし今は自分の殴り方じゃ無くて、蜂を退く方法です。……もう手は抜きません。
「アイ、あの蜂を倒します。動けそうですか?」
「私……エルと一緒なら動ける」
小さくガッツポーズを取ったアイ、どうやらやる気十分みたいです。ならば私も頑張らないと!。
「アイツには火が効く筈です。ですが羽の勢いが強過ぎて火球をぶつける事が出来ません。アイ……かなり危険ですが、アイに注意を引いてもらってる隙に、私が魔道昆で飛び上がって、背後から羽を斬り落とす作戦でいきたいんですが……良いですか?」
「……エルが決めた事なら、私は良いよ」
「かなり危険な蜂です、攻撃はしなくて構いません。当たらない様に全力で逃げてください」
「あぃ」
「よし……」
私は深呼吸をして心を落ち着かせると、立ち上がりながら「作戦開始です!」と言い放ちました。
アイが蜂に初手で奇襲を仕掛けます。ですが羽による風圧が強すぎて、しっかりと攻撃が通っていません。
アイに気付いた蜂は、怒り散らしながら針を刺そうと必死に飛び回ってチャンスを窺い始めました。
この時に私は上空に上がり、確実に取れるタイミングを探しました。
「……蜂、早く掛かって来て」
アイが煽る様にその場で飛び跳ね始めました。するとその煽りが効いたのか、蜂は勢い良くアイに近付いて、彼女を貫こうとしました。
しかし「直線的な攻撃は読みやすい」と私がアイと共に旅に出た初日に教えた事もあり、難無く回避。そして蜂は針が地面に突き刺さり、抜けなくなってしまった様でした。
「今……っ!」
私は魔道昆をショーテルと連結させて鎌にすると、火の魔力を刃に纏わせながら羽を斬り落としました。
「キシャァァァァ!?」
初めて聞く蜂の叫び、と言うよりは怒りでしょうね。どうやら効果抜群だったみたいです。
「……エル!」
「アイ、相手を確実に仕留めるまでは油断しないでください」
「……あぃ」
こうして再び蜂と向き合った私たちですが、やはりまだまだ元気でした。
針は羽が無くて使いにくくなったのか、凄い勢いで噛みつこうとして来てます。
ですが結局は昆虫、どれだけデカくても、直線的な動きは簡単に見切れます。
そして蜂は、世界がモノクロに見えて居る筈です。……だったら簡単に視界を奪えますね。
私は着ていた巫女服の上と、仕舞ってあったワンピースを放り投げて、蜂の視界を塞ぎました。
「さぁ!真っ白な世界でせいぜい戦っててください!」
私はアイに指示を出しながら背中側に回り込むと、尻の部分を鎌で引き裂きました。
痛みに反応した蜂が大きな腕で私を潰そうとしてきます。しかしそれを、アイが魔物の腕で弾きました。
――ブシャッ。
何だか熟した果物みたいな音を立てながら、蜂の腹は綺麗に避けました。
さて、可哀想ですしそろそろトドメとしましょう。
私は出来るだけ全力で魔力を溜めると、巨大な火球に変えて蜂に投げ飛ばしました。
――ボォォォォン。
「シギャァァァァ!」
火球に命中した蜂は、悲鳴を上げた途端に燃え尽きて、動かなくなってしまいました。
……一応生きてるかの確認の為に、魔力の弾を一発だけ撃ち出して、目に直撃させました。しかし反応はありませんでした。
良かった、普段の私なら確認なんてしないで、背後からムシャムシャされてた所です。……警戒って大事ですね。
「ふぅ、お疲れ様です」
「……おつかれさま」
しゃがんだ私は、アイとハイタッチをしました。
……あ、そう言えば服。
私があたふたしてると、探し物を察したアイが巫女服を差し出してくれました。
「……エルの服、取っといた」
「ありがとうございます……これはマジで助かりますよ。……所でもう1枚は?」
「……ん」
私の問いに、アイは体をクルクルと回しながら答えました。
「ふふっ、アイが着ると、白いドレスみたいですね」
その後、アイはワンピースが気に入ったのか、返してくれませんでしたが、まぁ巫女服のある内は構わないです。
「さて、安全になりましたし、もう少しのんびりしましょうか?」
「私……エルの膝で寝る」
「はいはい。それじゃあさっきの場所に戻りましょうか?」
こうして私たちは、蜂と言う脅威を排除して、再びノンビリするのでした。
「そういえば……エル、何読んでたの?」
「私の旅を書いた日記の様な物です」
「エルの旅……聞いてみたい」
「えぇ~、ちょっと恥ずかしいんですが……分かりました。ノンビリしながら話しましょう」
アイは嬉しそうに首を縦に振りました。
そしてさっきの休んでいた場所に戻って来た私たちは、早速日記の冒頭からアイに読み聞かせるのでした。
ユズと出会った事。レウィンさんにビビった事。ノヴァさんがバカみたいに強かった事。エレナさんと初めて会った時の事。幽霊屋敷の事。……カレンちゃんの事。ユミリアや古墳での出来事。ミルセルさんの事。王都での辛い戦いの事。
全て聞いてたのかは分かりませんが、私が思い出に浸りながら話してる内に、アイは眠ってしまっていました。
「……アイ?」
「すー、すー」私の返事に寝息と鼻提灯で答えるアイ。本当に鼻提灯を出す人、初めて見ました……。
「……まぁ、また聞きたくなったら話してあげますよ。おやすみなさい」
アイの頭を撫でながらそう言った私も、魔道昆に寄り掛かりながら夢の世界へと誘われていくのでした。
暫くの仮眠の後、元気になった私たちは、再び「魔女の研究所」を求めて出発しました。
……花畑を出る時に気付いたんですが、どうやらあの蜂、魔物の類だったみたいです。死骸が何処にも残って無いんですよ。
でも、それだったら魔力にも反応できたでしょうし、魔道昆で飛び立ち私たちに急反応したのも納得できますね。しかし魔物にも蜂の様な個体が居たとは……。
驚きを感じた私は、この思いが掠れない内に日記に残して飛んで行くのでした……。
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