8節 お茶会と、リンネさんの名前と、彼女の辛い過去
はいはい、わたしです。アホ毛と執筆で会話をする事に成功したエルシアです。
私は今、以前リンネさんと約束してたお茶会を近場のカフェでしている所です。ユズも誘ったんですが、騎士同士の集まりがあるらしくて断られてしまいました……彼女、騎士になってから天然さが消えかけてる気がしますね。まぁそうじゃなきゃ色々と危険なのかもしれないですが。でも師匠やレウィンさんがアレだしなぁ……うん、別に天然でも大丈夫なのかもしれないですね。
まぁそんな事はどうでも良くて、折角のお茶会なんですし楽しまなきゃリンネさんにも失礼ですよね。
それにしてもリンネさん、本当に物知りですよね。何となく聞いた事全てに分かり易く答えてくれるんですもん。
「へぇ、ブーメランが戻ってくる理由って結構簡単な事だったんですね」
「そうね。コレって他にも応用が効いて、物の動きをある程度固定出来たりもするわ。例えば……エルちゃんは銃って分かるかしら?」
「はい、弾を撃ち出す箱ですよね?」
「箱って……まぁ間違ってはいないけど、せめて弾を撃ち出す装置って言ってあげましょうよ」
「そうですね。この言い方だと箱が飛んで行きそうですし、言い方は改めます」
「うーん、亜音速で飛んで行く箱とかシュール以外の何物でも無いわね……。それで話を戻すけど、エルちゃんは銃の弾が回転しながら撃ち出されるって知ってた?」
「いえ……でも言われてみれば無限の弾丸も弾が右回転してた様な……」
「そうね、あれって何で回転させてるか分かるかしら?」
「えーっと……回転させて貫通力を高めてるとかでしょうか?」
「半分正解ね。でも弾に回転を加えようと思った最初の理由は、射程距離を延ばす為だったの。貫通力は、弾の構造上たまたま高くなっただけよ」
「え?回転すれば射程距離って延びるんですか?」
「えぇ。回転させると軸が安定して遠くまで真っ直ぐ飛ぶようになるの、ジャイロ効果とも呼ばれていたわね」
「なるほど……それじゃあ手裏剣が遠くまで飛ぶのもそう言った理由なんですね」
「え?いや手裏剣が遠くまで飛ぶのは、どちらかというとブーメランと同じ理由なんだけど……と言うかエルちゃん何で手裏剣なんて知ってるの?」
リンネさんが驚いて前のめりになりながら聞いてきました。別に私が知ってても不思議な事は無い気がしますが……私に変な知識を付ける犯人は大体ノヴァさんですし。
私はテーブルの上に3枚の手裏剣をポシェットから取り出して置きました。
「先日、ノヴァさんにクナイを使う事を進められたんです。で、もっと遠くまで飛ばせる武器が欲しいとお願いした所、忍具という意味で平行線上に存在する武器として、手裏剣を5枚貰ったんです……まぁ2枚は投げる練習中に明後日に飛んで行ってしまったんですけどね」
「あ、あぁ……なるほど、彼の入れ知恵だったのね……ビックリした」
何故かビックリしたリンネさんは、安堵のタメ息を吐きながら紅茶を飲み始めました。
……あー、そう言えばノヴァさん、忍者は旧世界に居た暗殺者って言ってましたっけ。それじゃあ私が知ってる事にリンネさんも驚きますか。
そう言えば旧世界繋がりでリンネさんに聞きたい事があるんでした……でも答えてくれますかね?嫌な思いさせちゃったら嫌だなぁ……でも気になるなぁ。よし、聞いてみちゃいましょう。
「あの~、リンネさん?他にも聞きたい事があるんですが……もし言いたく無かったら答えなくても良いんで、聞いてみちゃっても…良いですか?」
私も紅茶を飲みながら恐る恐る尋ねてみました。
「えぇ……でも本当に嫌な事なら答えられないわよ?」
「それで構いません……リンネさんって、アリスなのかロゼリエッタなのか、どっちが本名なんですか?」
「――ッ!?」
カシャァン。
驚いたリンネさんはカップを落として固まってしまいました。……やっぱり聞いたのは失敗だったんでしょうか?。
店員さんが駆け寄って来てリンネさんに呼びかけますが、平然を装いながら話す彼女の姿は何処か不自然な感じがしました。
そして店員さんが去って行った後、リンネさんは恐ろしい表情をしながら私に質問をして来たのです。
「エルちゃん……その事、誰から聞いたの?」
「先に言っておきますが、ノヴァさんでは無いですよ?」
「分かってる、彼があたしの事を話す訳が無いもの……。で、誰から聞いたの?」
私はリンネさんの怒りにも似た表情から少し目を逸らしながら……多分かなり怯えながら正直に答えました。
「あの……えっと……北の最果ての更に先……そこで出会った創造神に……色々な人の記憶を植え付けられて……ごめんなさい」
ちょっと泣きそうになった声で私が答えると、ハッとなったリンネさんは自身の顔をグーで殴り始めました。えぇ!?てっきり私が殴られるのかと思って覚悟を決めてたんですが……。
そしてリンネさんは、悲しそうな顔をしながら私の事を抱きしめに席を立って来てくれました。
「ごめんね……怖かったでしょう。ごめんね……だからそんな泣きそうな顔をしないでちょうだい」
「大丈夫です……。すいません、やっぱり聞かれたくない事でしたよね」
「いいえ、別に聞かれたくない事って訳じゃ無いの。思いがけない質問だったから、ついつい警戒しちゃった……ごめんね」
「そう……ですか」
「それじゃあ、まずはどこから話すべきかしらね……。あたしの育ての親ってノヴァなのは知ってる?」
「いえ……ただリンネさんが旧世界の人間だって事は知ってます。どうやったらこの時代まで生きていられるんですか?」
「それはコールドスリープとか色々な事を駆使したけど、そうじゃ無くエルちゃんが聞きたいのはあたしの名前でしょ?」
「まぁそうですね。すいません、気になった事は直ぐに聞かないと落ち着かない性格なもので……」
「気持ちは分かるわ。それで話を戻すけど、あたしが生まれた時……その頃はロゼリエッタと呼ばれていたわ。でも10歳の頃に家族を盗賊に殺されて、生き残らされたあたしは奴隷として売られたの……そしてあたしを買い取った男性がね……結構酷い人でね……沢山痛い思いをしたし辛い思いをさせられた。それで耐えられなくなったあたしは死にたいと思って、男性の家から逃げ出して、こんな酷い人間が居る世界を……そして人間を呪いながら崖から飛び降りたの……それまでが呪いも妬みもしないで生きてきたから、相当強い呪いだったと思うわ」
「……」
リンネさんの過去……私はしっかりと彼女の記憶を見ていませんでしたが、今はそれが正解だと思っています。色々な人の記憶は、私の体験した事の様に頭に入ってくるんです……そんなに苦しい記憶、考えただけで耐えられる自信が無いです。
「でもね……飛び降りたのは良かったんだけど、尖った岩肌とかにぶつかりながら落下した所為で死ねなくてね……あまりの激痛と吐き気、悪寒とか……他にも色々と辛過ぎて、徐々に視界が歪みながら暗くなっていく事がたまらなく怖くて……今度は死にたくないと思っちゃったの。勝手な話よね、自分から死のうとして今度は死にたくないなんて」
「……仕方ないと思います。私だって、同じ目に遭ってたら……きっと同じ事を思う筈です。命を捨てるのは良くない事かもしれません……でも、だとしても、リンネさんの選択はおかしくない。少なくとも私はそう思います」
「エルちゃんは優しいのね、ありがとう。それで、結局死ねなかったあたしは、たまたま通りかかったノヴァに治療してもらって助かったの。そして全てを捨てて新しい人生をやり直していく為に、彼から新しい名前……アリスと名付けられて、彼の娘として生きてきた……。とまぁ、名前の話はそんな感じかしらね。結局の所あたしはロゼリエッタであってアリスでもあるって事よ」
「なるほど……でも今はリンネさんで良いんですよね?アリスさんとかロゼリエッタさんとか呼ばなくても良いんですよね?」
「むしろ今はリンネ以外で呼ばれたく無いわね、結構この名前も気に入ってるし」
「分かりました、確かにリンネさんはリンネさんです。……所でどうしてノヴァさんの事をお父さんと呼ばないんですか?」
「彼とは一応……旧世界で縁を切ってるからね、今は他人同士って事になるのよ。まぁ縁を切った理由も複雑だから話しにくいんだけどね。そう言った理由で、あたしは彼を父では無く仲間として接しているのよ」
「へぇ……やっぱり頭の良い人の考える事は難しくて良く分からないですね」
「それこそ同じ境遇に遭ったら分かる事よ。さてと!紅茶も冷めちゃったし、新しいのをもう一杯飲んだら家に戻りましょうか?」
「そうですね、ついでにクッキーも頼んじゃ駄目ですか?」
「別に良いけど……夕飯入らなくなるわよ?」
「大丈夫ですよ!私は食べ盛りな年頃なんですから!」
そんな感じでリンネさんの過去話を聞いた私は、改めて暖かい紅茶を飲み直しながら他愛無い話を楽しんでから家に帰るのでした。
そしてリンネさんの予想通り、私はお腹が空かずに夕飯が少ししか食べられなくて、夜中にお腹が空くのでした……。
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