7節 久々の稽古と、暗殺の心得と、捨てられた子犬みたいになった私

 はいどうも、私でーす。リンネさんのアホ毛が私の頭に住み着いてしまって対応に困ってるエルシアでーす。……なんてこったい。


 私は今、王都の城下町の外れにある森の中で戦っていました。魔道昆とショーテルを連結させて鎌にして、戦闘態勢を取りながら息を切らしていました。


「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」


 私は息を止めて全身に力を入れると、魔力を解き放ちながら全力で正面に居る相手に斬り掛かりました。


 ガイィィン。


 金属の擦れる鈍い音を響かせた私の鎌は、強すぎる衝撃を受けて私の手から離れ、宙を大きく舞って地面に突き刺さりました。


 そして私の喉元にも……蒼く光る刀が当てがわれていました。


「前よりは随分と強くなってるみたいだが、まだまだ甘いな」


「うぅ……流石はノヴァさんって感じですね。……勝てる気がしないです」


 私がそう言うと、ノヴァさんは蒼月刀を降ろしてタメ息を吐きながら私の頭を撫でてくれました。


「そうやって諦めるな、勝てる気がしないなら勝てる方法を探し続けながら戦うんだ」


「そのつもりでやってますよ?でも頑張って戦略を練って来てもノヴァさんには全然通じないし……ちょっと自信が無くなってきました」


「ふてくされるなよ、確かにエルの戦略は俺に通じて無いが……驚きはしたぞ」


「え?」


「お前の成長速度は非常に速いな……まさか魔力に属性を乗せられるとも思っていなかったし、それを応用して感電させる為に俺を水辺に追い込むなんて想像もしてなかった。オマケに最後のアレ……凄いな、鎌の攻撃はブラフで本命はナイフだったんだろ?お前を強敵として見て無かった頃なら普通に刺されてたな。流石だ」


「魔力の属性はユナさんに教えてもらったんですよ。彼女に会った事ありますよね?」


「あぁ。それじゃあ結界みたいな必殺技もユナに教えてもらったのか?」


「「絶」の事ですか?えぇ、ユナさん直伝の必殺技です」


「ほぅ、瞬殺だったから気付かなかったが、ユナも結構強いんだな」


「瞬殺って……ユナさん超強いですよ?まぁ接近戦は苦手みたいですけど。私でも付け入る隙はありましたしね」


「そうだな、アイツは典型的な魔女の戦闘スタイルだから近接戦は苦手だろうな」


 はい、私は久々にノヴァさんから稽古を付けてもらっていたんです。やっぱり勝てないですねぇ……強すぎます。と言うか速すぎます。


 さて、稽古を休憩にした私たちは、近くの岩場に座って話しながら紅茶を飲んでいました。


 どうやらノヴァさんたちも北で探し物をしていたらしいですが、結局見つからなかったそうです。何を探してるのか気になったんで聞いてみたんですが、教えられないと言われてしまいました。


「そう言えばお前、噂で聞いたんだが国王から何か依頼を受けて無かったか?」


「え?あぁ……まぁ……目標二人の暗殺です。一人は闇夜に紛れて殺して、もう一人はその……幼馴染だったんで、一緒に寝て、その……女である事を利用して感電死させました」


「そうか……幼馴染相手なら良い殺り方だが……辛く無かったか?」


「ちょっと……悲しかったです。でも麻薬密売は許されないし、仕方無かったです」


「そうだな、いつの時代も麻薬は許されない。所でエル、お前はいわゆるハニートラップに近いやり方で幼馴染を殺したんだろ?」


「ハニートラップって……そんな大層な殺し方じゃ無いですよ。ただ抱き着いた時に電撃を浴びせただけですし」


「それもある意味ではハニートラップだ。……一応聞くがどこまでの関係を持ったんだ?」


 ……えぇ!?まさかノヴァさんからそんな事を聞かれるなんて思ってもいませんでしたよ。ひょっとして私に気が合ったりするんでしょうか!。遠回しに聞いてみましょう。


「うん?そんな事を聞くなんて……ノヴァさんもしかして私の事が気になっちゃいます?心配しちゃいます?好きだったりしてくれてます?」


 わくわく。


「気になるし心配もするが……好きだったりするのはエルの方なんじゃないのか?」


 おぉ!?これは脈アリと捉えても良いんじゃないでしょうか!。


「ふ……ふふふ……にへへへ」


「おーい、自分の世界に入り込んでないで帰ってこーい」


「んへ?あぁすいません。脈があったので嬉しくってつい……」


「そりゃあ……脈無かったら死んでるだろ。で?話が逸れてるが、幼馴染との関係はどこまで持ったんだ?」


「ただ裸で抱き合った位ですよ。でも安心して下さい!私はノヴァさんの物です!」


「いや要らん」


「ぐふぁ!?!?」


 ノヴァさんの一言に、私は精神的ダメージをとんでもなく受けました。恐らく今までで一番辛いダメージですね……もうやだ死にたい。


「俺が関係を聞きたかった理由は、暗殺とかの任務でターゲットと関係を持つと、相手に情が移って任務を遂行出来なくなる事がある。仮に感情を殺して任務を遂行しても、そいつは一生モノの傷を負ったまま生きていく事になっちまう……それが心配だったんだ。これからも暗殺とかの仕事を受けるなら、その辺は注意しとけよ」


「ぽけぇ~~」


「エル?聞いてるか?」


「あぁ……すいません……ちょっと死んできます……5分したら生き返らせてください」


「そんな昼寝みたいに言うなよ……お前は何にそんなヘコんでるんだ?」


 ノヴァさんは困った顔のまま、いつもの様に頭を撫でながら聞いてきました。


「どうせ要らない子の気持ちなんてノヴァさんには分からないですよーだ」


「あー、その事か。ありゃ俺の言い方も悪かった、ごめんな。だから捨てられた子犬みたいな顔をするのは止めろって」


 ノヴァさんは頭の上で手をポンポンさせながら謝ってきました。私そんな顔してたんですかね?。


「っつーかアレだな、エルって少し性格が変わったよな」


「……そうでしょうか?」


「あぁ。何て言うか……少し丸くなった」


「太った!?デカくなったのは胸だけですよ!」


「ちげぇよそうじゃ無ぇ!性格だって言ってんだろ!体の話はして無ぇから胸を押し付けて来んの止めてろって!」


 ノヴァさんは腕に抱き着いて胸を押し当てる私を振り払って、急にチョップをかまして来ました。痛い。


「さて!休憩は終わりだ!もう少し稽古すんぞ」


「はーい。お手柔らかにお願いしまーす」


「善処はしよう……所でエル、少し別の武器を使ってみないか?」


「え?どうしてですか?」


「鎌がお前の背丈に合って無いからな、それに折角機動力が高いんだから、その長所を殺すのは勿体無い」


「言われてみれば確かに……でも何を使えば?」


「普段はナイフで戦ってたよな?斬ったり投げたりしながらさ」


「そうですね、今でも相手や場所によってはバタフライナイフで戦ってますよ」


「バタフライナイフか……アレは実戦に向かないナイフだから使うのは止めておけ。投げる事も考慮するならクナイを使ってみないか?」


「くない?何ですソレ?」


「昔居た忍者って言う暗殺とかをする連中の使う武器の名前だ。簡単な話、投げて刺したりナイフの様に斬ったり出来る刃物だな」


「へぇ……ちょっと使ってみたいかも」


「そうか、そんじゃあクナイは俺が準備するから、次はクナイで掛かって来い」


「了解です」


 まぁそんな感じで、私はノヴァさんにもう少し稽古をつけてもらうと、家に帰っていくのでした……。

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