11節 復讐と、揺らぐ感情と、ぶつかる思い(2)

 おはようございます……私です。


 さて、早速ですがこの街を出る支度を始めます。今日はミルセルさんの復讐日なんで、いつまでも居座れないです。


「それじゃ、お世話になりました」


「うん、久々に楽しかったよ……また来てくれる?」


「はい、近い内に必ず来ます」


 私はそう言い残すと、軽くお辞儀をして街を後にしました。



「さてと、この先どうするよ?」


 街を出て直ぐ、ノヴァさんが聞いてきました。私はそれにゆっくりと答えます。


「近隣の集落に行きましょう……。そして一週間後、ミルセルさんに会いに行きます」


「エルちゃん、それって――」


「……行きましょう」


 私は何かを察したリンネさんの言葉を遮る様に言い、歩き始めました。


「……えぇ」「おー!」


「エル……お前何を考えてる?」


 ノヴァさんが周りに聞こえない様な声で、私に聞いてきました。


「……何の事ですか?」


「いや、随分とお節介なこと考えてるんじゃ無いかと思ってな」


「……そうかもしれないですね。そして、残酷でもあると思ってます」


「あぁ……」



 それから私たちは集落で過ごしてるんですが、特にする事も無かったんで、霊装化と心象結界を自在に使える様にノヴァさんに訓練してもらっていました。……あ、お腹と胸の怪我は完治しましたよ。


 そして今日も、私はノヴァさんと魔力のコントロールの完璧にする練習を終えた所です。……私、魔女らしいですよ?。


 まぁ別に人間だろうが魔女だろうが私にはどうでも良い事なんですけどね。兎に角今は疲れたんで何か飲み物が欲しい所です、でも歩きたく無い程ヘトヘトです。


「ホラ、お疲れさん」


「うひゃい!?」


 私の全身火照った体の、割と無防備な首と肩甲骨の間に何かとても冷たい物が落ちてきました。


「そんな驚くなよ」


「あー、ノヴァさんでしたか。コレ何です?」


「アイスだ、今ある手持ちの材料で作ってみた。まぁ食える物にはなってる筈だ」


「はぁ、ありがとうございます」


 こうして私たちは、大きな木の木陰に座ってアイスを食べ始めました。


「コレ、普通に美味しいじゃないですか!」


「あぁ、一応及第点だな」


 それから私は、ノヴァさんに色々な事を教えてもらいました。


 私は魔女だけど、魔力がとても少ない事。


 霊装化すると、魔力が跳ね上がる事。


 私が使える魔法の属性は、雷である事。


 そして、魔力を使い果たした時……魔女は死ぬ事。


 今後私が魔法を使う際には、魔力の量に注意しないと直ぐ死んじゃうらしいです、怖いですね。


 ……それにしても、ノヴァさんは私の事よく分かってますね。私はノヴァさんの事何も知らないし、殆ど分からないのに……。


 この数日で分かった事と言えば普段は無口で、何か質問をしないと話をしない人。一見怖そうに見えるけど、実はとても面倒見が良くて優しい人。後は何故か魔女より強力な火の魔法が使える事……それ位です。


 ……知りたい。


 もっとノヴァさんの事を知りたい。色々な話を聞きたい。そう思った私の口は、ほぼ無意識にノヴァさんへ質問を投げかけていました。


「そういえばノヴァさん」


「ん?どうした?」


「考えてみたら、私ってノヴァさんの事何にも知らないですよね」


「まぁ俺の事は話してないからな、ってか別に知らなくても困らないだろ」


 まぁそうです。別にノヴァさんの事を知らなくても何も困る事は無い筈です。


 でも、何故でしょう。自分でも良く分からないのですが、ノヴァさんの事を知りたいと思ってしまったんです。


「術式や魔法が使える様になった時の事……聞いちゃ、ダメですか?」


 私がノヴァさんの顔色を窺いながら訪ねると、一瞬彼が困った顔をしたように見えました。……誰にでも話したくない事はありますよね、諦めましょう。


「すいません、やっぱり大丈夫です……」


「……世界大戦」


「……え?」


「俺は世界大戦が起きた時に、今の力……術式を手に入れたんだ。今思えば、これまでにあった出来事は全て、俺が術式を使えるようになったせいなのかもしれないな」


 世界大戦ですか……私は新世界に残った文献で世界大戦を聞いた事はありますが、ノヴァさんが生きてたのは旧世界ですし、もしかしたら旧世界でも世界大戦があったんですかね?。


「……辛い事ばかりだったんですか?」


「いや、そうでもない。沢山の大切な奴が死んだし、殺したりもした。確かにそれは辛い事なんだろうよ。だが、それでも俺はずっと仲間に支えられてきた、俺の無茶な理想を叶える為に何処までも着いて来てくれる奴らが居た。俺としては、それだけでも十分幸せな事なんだと思う」


「その無茶な理想って何ですか?」


「……当時は魔女と人間が対立しててな、しょっちゅう戦ってたんだよ。俺はそんな対立を無くしたかった。俺がある魔女に争いを無くすって約束しちまったからな……その時に、俺も魔法が使える様になったんだ。「魔女の呪い」の力でな」


「魔女の呪い?ノヴァさん呪われてるんですか?」


「正確にはコレは呪いじゃないんだ。ただ魔女自身が自分の魔力全てを相手に移す秘儀だ。だが魔力が膨大過ぎて、耐えられなくなった奴が死んだってだけの話……まぁ魔女達も殆どが呪いだと本気で思ってたみたいだがな」


 ノヴァさんはフッと軽く笑いながら話を続けました。最近ノヴァさんの無表情の奥にある小さな感情が分かる様になってきた気がします。


「魔力を全て移すって、その移した魔女は……」


「あぁ、死ぬ。その点で言えば、俺に懸けられたのはある意味では呪いなのかもな」


「……」


「さて、そろそろ日も暮れてきたし、宿に戻ろうぜ。……話の続きは、また今度してやる」


「……はい」


 ノヴァさんの生きた世界、どうやら私には辛すぎる世界なのかもしれないですね。


 まぁ一人でドンヨリてても仕方ないんで、気持ちを改めて、明日も頑張ろうかと思います。


 ……ん?ユズとリンネさんですか?。ユズは農園のお手伝いがてら味見と称して合法的につまみ食いをしてます。そうゆう所は凄い頭がキレるんですよね……。そしてリンネさんは宿で何か縫物をやってます。……何を作ってるのか聞いても教えてくれないんですけどね。


 その後も、私はノヴァさんに訓練を続けてもらって、幾つかの必殺技を使える様になるのでした。



 更に訓練に没頭して数日後、気が付くとついにその日は来ていました。


「ねぇエルシアちゃん?」


「どうしました、ユズ」


 私とユズは、リンネさんが集落で作っていたロングカーディガンに身を包んでいました。寒いだろうからって、1週間で私たちの分を作ってくれたみたいです。ポカポカですね、ありがとうございます。


「何で一週間後に会いに行こうと思ったの?復讐を見届けるならミルセルさんの家に居れば良かったんじゃ……」


 そうですね、まっとうな意見です。ですが経験上、復讐に駆られた人間は事が済んだ後に一緒に居ると危ないんです。まぁ言っても理解はしてくれないと思うんで言いませんが。


「さて、そろそろ着くわよ」


「そうですね……」


 私は胸に手を当て、ゆっくりと隣を歩いているユズを見ました。……とても心が痛くなります。胸に当てた手をギュッと握りしめて覚悟を決めると、横からノヴァさんが私の肩に手を当ててきてくれました、きっとこれは彼なりの優しさなのでしょう。


 そして今、私たちは街の門を通り抜けました。


 何だか中央広場の方が騒がしいですね……少し遅かったようです。


「なんだろう?騒がしいね」


「……行きましょう」


 私たちは人混みのある中央広場へ歩いて行きました。そしてそこで衝撃的な光景を目の当たりにしたのです。


「え……?。ミルセル……さん?」


 ユズが震える声で、目の前に横たわる女性に声を掛けました。それは紛れもなく、ミルセルさんだったものでした。しかしこれは酷いですね……ここまでとは予想していませんでした。


 服を破かれ全身をズタズタにされて、体中から血を流し、大きな血溜りを作って倒れています。目は見開いたまま縁に涙を溜めている所を見ると、抵抗したけど無理矢理殺されたようですね。しかも全て急所は外されています、まるで拷問の後の様です……まだ時々体が痙攣を起こし、その度に口から血を吐き出しています。


「ユズ、しっかり見ておいて下さい」


「そんな呑気な事言ってる場合じゃ無いよ!早く助けないと!」


 ユズはミルセルさんに駆け寄ると、自分の体に血が付くこともお構いなしに彼女を抱き上げて声を掛け始めました。


「無駄です、ミルセルさんはもう助かりません」


「何でそんな事言うの!?まだ生きてるんだよ!?」


「もう死んでます。彼女が動いてる様に見えるのはただの痙攣です」


 私の言葉が信じられないのか、ユズはミルセルさんの胸に耳を当てて心音を聞こうとしています。しかしその行動が無駄だと分かると、彼女の手を両手で握りしめながらユズは泣き出しました。


「おい、これはどういう状況なんだ?」


 ノヴァさんが後ろの方で街の人に状況説明を求めています。確かにこの死に様は異常です、これじゃまるでリンチじゃないですか。


「あぁこれかい?コイツは人を殺めたからね、皆で制裁したのさ。抵抗されて大変だったけどね」


「……その割にお前達は無傷だな」


「そうだねぇ、なんせ攻撃して来なかったから。はっはっは」


 そう楽しそうに笑いながら語る街の人に嫌悪感を抱いたのは私だけじゃない筈です。その証拠にリンネさんはナンパしてきた男性を裏拳で殴り飛ばしてますし、それに怒った男性をノヴァさんが蹴り倒しています。


 ……この街の人は皆異常です、内戦で何か人として大事なものが欠けてしまったのでしょう。


 ですが私たちはただの部外者、思う所はあっても、これ以上立ち入った事は出来ません。ならばさっさと用事を終わらせて街を出るのみです。


「ユズ、しっかりとこの光景を目に焼き付けて下さい」


 しかしユズは泣き崩れたまま彼女の死に顔から目を逸らしました。


「逃げないで!しっかり向き合って!これは貴女が辿るかもしれない末路なんですよ!」


「……なんでそんな事分かるの?」


 ユズが睨むように私を見返してきました。胸の奥が痛くなりました、彼女の表情に目を背けたくなりました、でもここで私が逃げたら、きっとユズもミルセルさんと同じ末路を辿る、それだけはさせたくなかったんです。だから正面からぶつかる決意をしました。


「……復讐だけを糧として、生き甲斐としている者の末路は皆こうなんです。師匠と戦場に居る時に嫌って程見ました。だから戦争等には仮初の大義があるんです、それを心の拠り所とする為に」


「……じゃあエルシアちゃんはミルセルさんが死ぬって分かってたんだ」


 彼女の声に怒りが混じってきました、私の胸は更にえぐられる様な痛みが増します。正直辛いです、私もミルセルさんが死んだ事は悲しいんです、泣きたいんです、でもそうする事は出来ないから我慢してるんです。


「……えぇ、分かってました。先に言っておきますが、彼女は既に私たちじゃ止められない所まで復讐心に浸かっていました。止めなかった訳じゃ無い、既に止まれなかったんです」


「……結局ミルセルさんを見殺しにして、エルシアちゃんは何を伝えたかったの?」


 その言葉に私の胸は更にえぐられます、意図せずに涙が目尻に溜まり始めました。私は気付かれないようにそれを拭い、彼女の質問に答えます。


「ユズにはこれを反面教師にしてもらいたいと思ったんです。復讐とは違う、何か別の心の拠り所を見つけてほしいと思ったんです。……誰か、大切な人を見つけてほしいと心の底から思ったんです。それが生きる為の大切な心の拠り所になるから」


 私の頭の中はもう無茶苦茶でした。ユズに言い寄られるだけで、怒りを向けられるだけで私の心はボロボロになっていました。こんな辛い思いをするとは思ってもいませんでした。


 実際、今の説明もチグハグすぎて伝わったかどうか分かりません、でも私の思ってる事は伝えたつもりです。


「復讐をするなとは言いません、ただそれだけに囚われちゃ駄目です」


 私がそこまで言い終わると、ユズは立ち上がり街の外へ出て行こうとしました。


「ユズ!」


「エルシアちゃんの気持ちは伝わったよ。……でも、少し一人にして」


 そう言い残すと、ユズは街の外に向かい、やがて人ごみに紛れて見失ってしまいました。……きっとユズにも考える時間は必要なんでしょう、そう自分に言い聞かせた私は近くにあったベンチに砕けるように座りました。


「リンネ、ユズの尾行を頼む」


「オーケー。エルちゃんは任せるね」


 そう言うと、リンネさんはユズの後を追って見えなくなりました。


 あぁ、そういえばこのベンチ、三人でアイスを食べた席じゃないですか……。


 思い返すと涙が私の頬を零れ落ちました、もう二度と三人でアイスを食べる事は無いと思うと余計に涙が溢れてきます。


 声を出さないように、ひっそりと泣いていると、ノヴァさんが私の隣に腰を掛けてきました。


「思ってたより高い授業料だったな」


 私は小さく頷きました。


「本当はエルも悲しかったんだよな」


 もう一度、今度はさっきよりも大きく頷きます。


「辛かったな、良く頑張った」


 そう言うと、ノヴァさんは私の肩に手を回し抱き寄せました。この時、私の中で何かが弾けました。


 これでもかって位、私の頬を涙が零れ落ちます。私はノヴァさんの胸にしがみ付く様な形で泣きました。声なんて堪えずに、肩を震わせながら、周りの人の目なんて気にせず全力で泣きました。ノヴァさんはそんな私の頭に手を置き、私が泣き止むまで優しく撫でていてくれました。



 気が付くと、私はノヴァさんの膝の上で寝てしまっていました。顔が寒いです、まだ外に居るようですね。


 寝ぼけたままベンチに腰を掛けると、私の肩から何かがバサッと落ちました。


 何でしょう……?。まだ寝ぼけているので落ちたものが何だか分かりませんね。


 落ちたものを拾い上げると、それはノヴァさんのコートでした。風邪を引かないように掛けてくれたのでしょう……ってか凄い重いんですけどコレ。


 私は何となく、横でウトウトしているノヴァさんの体に触れてみました。……とても冷えきって少し震えています、コートを返したい所ですが私も寒いんでどうしましょう……。


「……お前が着ておけ」


「ノヴァさん!起きてたんですか?」


「たった今目が覚めた。まだ夜明け前だ、暫くは寒からソレはお前が着ておけ」


「……」


 それはノヴァさんも同じ筈です。


 私たち二人が寒い思いをしない方法……これしか思いつかないです。


 私はノヴァさんにコートを掛けて膝の上に座りました、これで二人とも寒くは無いです……恥ずかしいですけど。


 私のローブですか?集落に置いてきちゃいました、すぐに帰れる予定だったんで。


「……ユズ、帰って来ないですね」


「ああ、だがもうすぐ帰って来ると思うぞ。足音が二人分聞こえる」


 聴覚いいですね……私には何も聞こえないんですが、これも術式の力なんでしょうか……凄いです。


 さて、ユズが戻ってきたらやりたい事があります。でも私の力では限界があるのでノヴァさんにも手伝ってもらうように言ってみます。


「あの……ノヴァさん、ユズが帰ってきたらミルセルさんを埋葬したいんです。手伝ってもらえますか?」


「ああ、分かった。埋めるのか?」


「……彼女を家と一緒に燃やします。最期くらいは家族や恋人との思い出がある場所が良いと思うんで」


「了解だ」


 それから暫く、私はノヴァさんとくっついて温まっているとユズとリンネさんが帰ってきました。……すごく気まずいです。


「……ユズ」


「エルシアちゃん、一方的に言ってごめんね」


「ユズ?」


 まさか謝られるとは思ってもいなかったんで驚きが隠せないです。


「でもね、私やっぱり復讐はするよ。ずっと考えてたけど、そこは譲れない」


「……そうですか」


 私がうつむくと、ユズは私の肩を掴んできました。


「でも安心して。エルシアちゃんの言う心の拠り所、大切な人、私はもう見つけてたんだよ」


「え……?」


 誰でしょう?。いつも付き添ってくれているリンネさんでしょうか。


「それはエルシアちゃんの事だよ!私はエルシアちゃんがだーい好き!」


「そう……ですか。光栄です……?」


 本当は嬉しいです、でも恥ずかしい気持ちもあるんでちょっと照れ隠しをします。


「ねえ、エルシアちゃん」


「はい、何でしょう」


「ミルセルさん、埋葬しようと思うんだけど」


「私も同じことを考えていました」


「「思い出のある家と共に火葬する」」


 なんと私とユズの考えは一緒だったようです。


 そこからの私たちの動きは素早かったです、火葬を済ませた私たちは早々に街を出ていき、外壁近くにひっそりとお墓を建てました。ここなら街の人にも見つからないでしょう。街の中ではボヤ騒ぎが大変な事になってますが、知った事では無いです。


 今回の出会いは私の中でとても特に印象深いものになりました。今までには無い、考えさせられるような出来事が沢山。


 その中で私はある事がずっと頭の中をよぎっています。


「私はエルシアちゃんがだーい好き!」……ユズの言葉です。


 私には好きの意味が分かりません、私はユズの事をどう思ってるんでしょうか?その答えを知りたくなりました。


 ユズもリンネさんもミルセルさんも、皆愛や好きを知っていました。


「……私も好きを知って、誰かを好きになってみようかな」


 それを知る事は、きっと私にとっても大切な事になる筈だと思えました。私にも心の拠り所が必要になる日が来るかもしれない、その日の為に好きを探そうと思うのでした。


「エルシアちゃーん!立ち止まってると置いてくよー!」


「すいません、すぐ行きます。ってなんで走り出すんですか!?待ってくださいよ!ユズ!!ちょっとぉ!?!?」


 色々とありましたが、それでも私たちの旅は続いて行きます。


 好きも探しながら……ね。























 このお話、ここで終われてたらどれだけ良かったんでしょうか。


 この時の私は……私たちは、大切な事を忘れていました。


 その大切な事を思い出させるように、集落に荷物を取りに行く私たちの前に1台の荷台が付いた馬車が止まりました。……全体的にボロボロで、所々に血の様な物が付着しています。


「あぁ?何だこの馬車。エル達の知り合いの物か?」


「さぁ……なんですかね?見覚えはあるんですが……」


 いきなり目の前に止まった馬車に困惑していると、荷台で何かが動きました。


「エル……シア……さん」


 ボロボロの馬車の中、その荷台から出てきたのは……。


「え……?。その怪我どうしたんですか!?リックさん!!」


 そう、馬車の持ち主は、リックさんだったんです。


「ユミ……リア……誰かが……襲って……」


「――っ!?」


 リックさんはユミリアに居たみたいですね……襲われたって、まさか……!。


「ノヴァさん、リンネさん……もしかして」


「あぁ……奴だろうな」


「……思ってたより動き出すのが早かったわね」


「ライオット……だね」


 すっかり忘れてたライオットが動き出した様です。……このまま放って置いたら、また私の命を狙ってくるに決まっています、これ以上後手に回るのはマズイです。


「みたいですね。リックさん、この先に街があります、そこまで自力で行けそうですか?私たちはユミリアに向かいます……リックさん?」


「……」


「うそ……リックさん?聞こえてますか!?。リックさん!!」


「……」


 私の呼びかけに一切の反応を見せないリックさん。そんな……まさか。


「え……?。まさか……死んじゃったの?」


「馬鹿な事言わないで下さい!!ほら、リックさん!!起きて下さい!!」


「エル、その辺にしとけ。息はあるみたいだが重症だ、応急手当てをしたら集落まで運ぶぞ」


 私をリックさんから引き離すと、ノヴァさんは直ぐに治療の準備を始めました。


「あたしはユズちゃんと先にユミリアに行ってるわね」


「あぁ、頼む。エル、馬車を頼んだ。荷物は全部端に寄せるか捨てるかして、コイツを寝かせるスペースを確保してくれ。移動しながら治療する」


「……」


「おいエル、聞いてんのか?」


「え?……はい、聞いてます……」


「気持ちは分からんでもないが、早く行動に移さないとコイツ死ぬぞ」


「すいません……行きましょう。二人共、どうかお気を付けて」


 突然な出来事に頭が追いつかない私は、とりあえず二人に別れを告げて馬車の荷台の物をどかし始めました。


「うん……エルシアちゃんも気を付けてね」


「……はい」


「よし、準備出来たな。縄は任せた」


「……はい!」


 私は勢い良く縄を引くと、集落に向かって全力で駆けて行くのでした……。

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