10節 復讐と、揺らぐ感情と、ぶつかる思い(1)

 はい、私です。


 いきなりなんですが、此処は何処でしょう?。


 私は何だか妙に思い体を起き上がらせて周りを見渡しました。


 どうやら何処かの家の様です……微妙に生活感が有りますが、到底人が住んでるとは思えない位に暗い場所でした。


「あ、起きた!」


 私の耳元で響くこの声はユズですね……無事だったようです。


「おはよう……ございます。此処は何処ですか?」


「おはよー。此処はミルセルさんの家だよ。それよりエルシアちゃん、体は大丈夫?」


「えぇ、全身が痛いです。お腹の中なんてグチャグチャに描き回されたような痛さが残ってます……正直痛すぎて泣きそうですよ。……所でミルセルさんって誰です?」


 私はベットから立ち上がると、そのミルセルって人を探す様に再び部屋の中を観察し始めました。


「それは私の事だよ、エルシアさん」


 すると私の背後から聞き慣れない女性の声が聞こえてきました、とっても綺麗な声ですね。


「貴女がミルセルさんですか?とても綺麗な声ですね」


「そうだよー!この綺麗な声の人がミルセルさん。重症だった私たちにベットを貸してくれた親切な人なんだよ!」


 ほぅ、とっても気前の良い方なんですね。私だったら見ず知らずの人が血塗れの女の子二人を引き連れてきたら、お医者さんだけ紹介して家には入れないんですけどね……絶対に面倒事抱えてそうだし。


「そうでしたか……すいません、お世話になっちゃって。痛ててっ!」


 私はミルセルさんに軽くお辞儀をしながら感謝の言葉を口にしたんですが、体を曲げた瞬間に激痛が走ってその場にうずくまってしまいました。口では「痛ててっ」なんて軽く言ってますが、冗談抜きで痛かったです。息が止まりました。


「無理しなくて良いよ。それより、あんな怪我だったのにもう歩けるなんて、凄いね」


 あんな怪我?怪我だったらユズの方が危険だったと思うんですが……。


 所がどっこい、実はユズよりも私の方が重症だったみたいですよ?そんな馬鹿なって思いません?思いませんかそうですか。


 まぁ、その怪我もお腹以外は殆ど直ったんでどうでも良い事なんですがね。傷跡も残らないらしいです。


 さて、そんな感じで3人で話していると、リンネさんがドアを開けて何処かから戻ってきました。そして驚き、彼女の背後にはノヴァが居るじゃないですか!。


「――ッ!」


 私は反射的に自分の纏められた荷物の中からナイフを取り出して構えると、ユズとリンネさんが私を止めてきました。


「待って待ってエルちゃん!彼は敵じゃないわ!」


「……え?」


 私は意識が途切れる直前の記憶を思い返してみました。あの時の会話の内容から考えるに、ノヴァは恐らくライオットから離れて今はリンネさんの元に居るのでしょう。……そういえばユズを抱えてるのもノヴァだった様な気が。


 兎に角、ノヴァはもう敵では無くむしろ味方らしいです。……気乗りはしませんが挨拶はしておきましょうかね。


「えっと……とりあえずよろしくお願いします、で良いんですよね?ノヴァ……さん?」


「あぁ、よろしくな。エル」


「……貴方もその呼び方するんですね、まぁ良いですけど」


「そうか、所で怪我の容体はどうだ?胸部と腹部以外は完治してると思うんだが」


「……刺した貴方からそんな言葉が出るとは思いませんでしたよ」


「流石に刺されてるのにそのまま突っ込んで来るのは予想外でな、腹部の怪我だけ治りが遅いのがその証拠だ」


 ……何だかノヴァさんが治療したような言い方に聞こえますが、だったら何で最初っから怪我なんてさせたんでしょうね?。


 まぁ、もう過ぎた事なんで気にしませんけど。そんな事より私はリンネさんとノヴァさんにある事を尋ねてみました。……例の霊装と心象結界についてです。


 正直アレが何だったのか全く分かりません。ですが私が無意識にアレを使ってしまっても危険な気がするんで、一応聞いておこうと思います。


 まず霊装についてなんですが、これには2種類あるそうです、というのも、相手が生者か死者かで変わるそうです、生者は「魔装化」死者は「霊装化」だそうです。


 そしてこれを発動する条件は武具になる方が魔女であり、お互いの心が通じてる者としかできないらしいです。私は知り合いに魔女が居ないんですが、これはどういう事でなんでしょう。


 そして心象結界は、なんでも心に最も深く刻まれた記憶が基本的には出て来るそうです。つまりトラウマを具現化するって事ですね。


 後、リンネさんがノヴァさんといつ契約したのか、改めて聞いてみました。


 リンネさん、ネクロマンサーじゃ無いらしいですよ?ネクロマンサーの技術を持った呪術師だそうです。強そう。


 そして、術師が死者と契約するには、簡単な話、術師が契約者募集を掛けて、死者が何らかの形でその募集を受ける。リンネさんの場合は体に触れる事だったらしいです、そして術師がそれを了承した瞬間に契約が完了するらしいです。


 そして、ノヴァさんは初めからリンネさんとの契約を狙っていたとか何とか。


 ちなみに私たちを攻撃したのは、私を覚醒させる為らしいです。私、彼に初めて会った時に気に入られたみたいです。ワンパンでダウンしましたけどね……いや、その後無意識に攻撃を入れたんでしたっけ?。まぁ何か見込みがあったんでしょう、知らないですけど。


 さて、今さっき起きたばかりですが、もう夜なんで寝る事にします。おやすみなさい。



 ……とは言ったんですが寝れない、全く眠く無いです。


 横ではユズが暴れながら寝息を立てています。……いつも思うんですが、あんなにゲッタンして朝疲れないんですかね?。


「エルちゃん、寝れないの?」


 私がユズをボーっと眺めていると、私の向かいでノヴァさんと一緒にソファで寝てたリンネさんが声を掛けてきました。


「はい、全く眠く無いです」


「……少し、夜風でも当たりに行く?」


「そうですね、そうします」


 こうして私とリンネさんは外に出て、近くのベンチに腰を掛けました。


「まぁ、エルちゃんは5日も眠ったままだったし、眠く無いのも仕方ないのかもね」


 ……え?。


「待ってください、私……そんなに寝てたんですか?」


「ユズちゃんから聞いて無いの?」


「……何も」


 リンネさんの説明によると、私が意識を失った後、リンネさんとノヴァさんは一旦ユミリアに向かったそうなんですが、急遽ユミリアの隣街である、月の街と呼ばれる此処に来たそうです。


 その理由は、ライオットがユミリアを襲撃するかもしれないとノヴァさんが睨んだからだとか。


 で、この月の街でミルセルさんと変わった出会い方をして、彼女の家で療養する事になったとの事。


 本来であれば、ユズの様に1日で目が覚めるのに対し、私は5日間もの間眠り続けていたらしいです。


「……何でそんなに私は寝てたんでしょう?ここ最近、寝不足が続いたからでしょうかね?」


「いやいや、そんな単純な理由じゃ無いわよ……エルちゃんって時々凄い天然よね」


「え?そうですか?そんな自覚は無いんですが……と言うか、私が起きなかった理由って何ですか?」


「魔力の使い過ぎ、後は腹部と胸の怪我が体力を劇的に奪ったと考えられるわ。目が覚めて本当に良かった……」


 ……何か私が思っていたよりも、かなり危険な状態だったみたいですね。半分位ノヴァさんのせいな気もしますが……過ぎた事なんで、まぁ良いですけど。


「……それにしても、ノヴァさんって何なんですか?。人間離れした強さ持ってますし、速いし、何考えてるか分からないし、何か不気味ですよ」


「……エルちゃんは、彼が嫌い?」


 何というか、急な質問ですね……私、彼の事良く知らないんですが。


 うーん、まぁ本音を言えば一緒には居たくないですが、とは言えそれはリンネさんにも失礼な気がしますし……なんて答えましょう。


「本音で言って良いのよ、彼は結構嫌われる立ち振る舞いをするから」


「……本音を言うのなら、一緒に居たくないです。二回も殺されそうになってる訳ですし」


「そうね、前から手加減が苦手なのよね」


「それに、ユズだって酷い目に遭わされてるんです。私が嫌う理由としてはそれで充分でしょう」


「……ええ。でもね、彼って本当はとても優しい人なの。でも人間的な所で不器用だから嫌われるし恨まれる……本当にもったいない人なの」


「……」


 人を串刺しにする人が優しいんでしょうか?恨まれて当然の様な……。


 しかしノヴァさんの事を話すリンネさんって、とっても楽しそうに、そして切なそうに話しますね。


「リンネさんは、ノヴァさんが好きなんですか?」


「え!?え……えぇ、大好きよ……愛してる」


 私の急な質問に驚きながらもリンネさんはそう答えました。


「エルちゃんもユズちゃんの事は好きでしょ?」


 私がユズを好き……?。そんな事考えた事もありませんでした。そもそも好きの定義って何でしょう、愛や恋とは何が違うんでしょう……頭が痛くなってきました。


「……昔、師匠と麻薬を扱う悪人の討伐に行ったことがあるんです」


「え?急にどうしたの?」


 私が急に昔話を始めるもんですから、リンネさんはかなり驚いてます。まぁ当然の反応ですよね。


「まぁ聞いて下さい。悪人のアジトを突き止めた私たちは、彼らが寝静まるのを待ってから奇襲をかけたんです。というのも、そのアジトには何人もの女性が監禁されている恐れがあっての行動でした。出来るだけ死人は出したくなかったんです。人質にされたら見捨てるしかありません」


「うん」


 リンネさんは小さく頷いきながら私の話を聞いています。


「結果、ほぼ全ての女性は救出できました。後は頭を倒し、麻薬園を焼き払うだけです。師匠は私に頭を任せて、麻薬を燃やしに行きました。辺りに煙が立ち込めて警報の鐘が響き始めた頃、私は頭の居る所に着いたんです。」


「……それで?」


「実際、この頭は凄く弱かったんです。私がとどめを刺そうとしたその時、唯一発見出来ていなかった、監禁されていた筈の女性が私の前に飛び出して来たんです。そして頭の盾となる様に私に刺されました。」


「……」


「私はその時聞いたんです。どうして身代わりになったのか……そうしたらその女性はこう言いました。「私が彼を愛していたから」と……私には分かりませんでした。だから次にこう聞いたんです……「愛って何ですか?」って、すると女性は「愛は与える物で、求める物じゃない、相手に好意を抱いた想いが溢れ出したのが恋の究極系、それが愛」って言いました。……やっぱり私には彼女が何を言っているのか分かりませんでした。だからもう一度聞こうとしたんです。好意、恋、愛、この違いは何なのか、何処を基準に分けているのか……。しかし彼女は既に事切れていました。」


「……そう」


「その後、直ぐに頭が彼女の亡骸を抱き抱えながら泣いていました。だから私は「何で道具の様に扱っていた人の為にわざわざ泣くんですか?」って聞いてみたんです。そしたら彼は「彼女は俺にとって特別な存在だったんだ、愛していたんだ」って言いました。これ以上聞いても無駄だと思った私は、彼を殺して燃えるアジトから脱出しました。……これだけの事があっても、私には好きとか愛してるとかは分からないんです」


「……いつか、分かる様になると良いわね」


 リンネさんは悲しそうに私を見て言いました。でもわざわざ分かろうとは思わないんで、きっと一生分からないままなんだと思います。


「で、何でこんな話になったんでしたっけ?と言うか何の話でしたっけ?」


 そうです、何で昔話をしてるんでしょう。


「えーっと、エルちゃんはノヴァが嫌いなの?って話かな」


「あぁそうでした、私は嫌いです」


 私はリンネさんに色々ノヴァさんの愚痴をこぼしました。リンネさんは黙って聞いてくれているんですが、何で困った表情をしてるんでしょう……?。


「あの白髪の真っ黒黒助め、いつかあのロン毛抜いてやります」


「黒助で悪かったな」


「いぴぃ!?!?」


 私が大きな愚痴をこぼした瞬間、背後からノヴァさんの声が聞こえてきました。変な声出ちゃった……。


「はは、お前面白い声出すな」


 笑いながらノヴァさんは、私の頭をワシャワシャしてきました。セクハラですね。


「えっと……いつからそこに?」


「リンネが困った顔し始めた頃からだ」


「……」


 それって愚痴を零し始めた最初から居るって事じゃん。


 私がアワアワしていると、ノヴァさんは家に戻る様に言ってさっさと戻って行ってしまいました……この人苦手です。


「さて、眠れないとしても、そろそろ家に戻りましょ?」


「……分かりました」


 そんな感じで、私たちはミルセルさんの家に戻って行くのでした。


 ……所で、ミルセルさんとは変わった出会い方をしているそうなんですが、一体どんな出会い方だったんでしょうね?、明日聞いてみたいと思います。今度こそ、おやすみなさい。



 はい、おはようございます。もう昼ですけど私は今起きたんで、おはようございます。


 私が起きると、リンネさんとノヴァさんは街の情報収集に出掛けて行った後でした。


 体の痛みも殆ど消えて、療養を含めて特にする事が無くなった私は、暇を解消する方法を探していました。


 とは言っても、ミルセルさんの家ってお世辞にも生活感のある家とは言えない位に何も無いんですよねぇ……どうしましょう。


 何か出来そうな事を考えてみるんですが、特に何も浮かばず、何かこう……何もしてない時に何かしたくなるムズムズ感に囚われ始めていた私は、リンネさんたちが帰ってきたらとりあえず街を見て回る事にしました。


 まぁそれまでの間はミルセルさんに街の事を少し聞いておきましょうかね。


「ミルセルさん、街の事を聞いても良いですか?」


「構わないけど……本当につまらない所だよ?多分面白くないけど良い?」


「お願いします」


 こうして私は、ミルセルさんから街の事を色々と教えてもらうのでした。



 ふむ……ミルセルさんの話によれば、この街には長が居ないようです。しかも近隣の集落より寂れているらしいですよ。街って何だっけ状態ですね。


「なるほど、何となく街の状態は分かりました……後一つだけ聞いても良いですか?」


「うん?私に答えられる範囲であれば、何でもどうぞ」


 私はこのタイミングで、ノヴァさんたちとの変わった出会い方を聞いてみました。


 どうやらノヴァさんたち、門が閉まってるって理由で、壁を飛び越えて入って来たらしいです……いきなり言ってる事がぶっ飛んでて意味分かんないですね。


 で、何かが上空から降って来る事に気付いたミルセルさんは、落下物が何かを確認しようとしたみたいなんですよ。


 そして、その落下物が人間と気付いた時には、既に回避不能な距離で、思わず叫んだそうです。そしたらノヴァさんに「うるせぇ」と言って蹴っ飛ばされて吹き飛んだ……と。しかも蹴られた拍子に「ヘブゥッ!」と、自分でも聞いた事が無い声が出たそうです。本人は未だに笑いのツボになってるそうなんですが、何から何までごめんなさいですね。


 ただミルセルさんが言うには、ノヴァさんが蹴っ飛ばさなかったら、自分は下敷きになって大怪我してたとの事です。既にある意味大怪我なのは黙っておきましょう。


 それから暫くした後、リンネさんたちが帰ってきました。街の状況は概ねミルセルさんから聞いた情報と同じ事を言ってました。因みに人口は数千人程度らしいです。


 さてと、私も少し外に出てみましょうかね。


「少し外に行ってきます。私も外の様子見ておかなくちゃ」


 一瞬、ユズとミルセルさんが心配そうな表情を私に向けてきました。怪我の事ならもう平気なんですがね。


「エルシアちゃん一人だと心配だし、私も行くー!」


 ユズがぴょんぴょん跳ねながらついてきました、まぁ良いでしょう。


「なら、私は二人を案内します。リンネさんとノヴァさんはゆっくりしていて下さい」


 そう言い残し、ミルセルさんもついてくることになりました。



 さて、軽く街を一周した訳ですが、控えめに言って本当に寂れてますね。使って無い建物ばかりです。と言うか街全体が不穏な空気に包まれていて喉に詰まりそうです。


 街を回り終えて、私たちは今中央広場でベンチに座りアイスクリームを食べながら、ガールズトークを交えてのんびりしていました。


 彼女の歳が21という事もあって、私とユズには理解出来ない様な話もいくつかありましたが、私たちと同年代の頃には家族とケンカした話や彼氏がいた話などを、面白おかしく話してくれました。ミルセルさんにも好きな人がいたんですね、しかも同居してたとか何とか。皆好きを知ってるんですね……ちょっとうらやましいです。そして私たちもこんな風に大人になっていくのかなぁと淡い夢を抱いたものです。


 そして私は、この話の流れで街の事について少し踏み入った事を聞いてみました。


「そういえば、何でこの街はこんなに寂れたんですか?」


「ちょっと前に内戦があってね、発端は何だったかよく分からないんだけどそれで沢山の死者を出したの」


 なるほど、その時に戦死した人の家があの空き家ですか。


「でもね、街の外への配慮はしっかりされていて、門は閉め切って戦ったんだよ。まぁ街の外へ逃がさないようにする為とも言われているけど」


 ふぅむ、この街で感じる不穏な空気はこの一連の出来事が関係しているみたいですね。


 私は何となく納得してアイスを一口舐めました。他の街で食べたアイスよりも味は少し薄い気がしますが、それでも美味しいです。


「んひょー!ウマー!」


「口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ、ユズ」


「あーい!」


 というかいくつ食べる気なんでしょう。既に十個くらいは食べてるんじゃないですか?お腹壊しますよ?。後お金出してるの私なんですから少しは遠慮してほしいものです。


 さて、のんびりしている私たちの前をちょっとおっかなめのオジサンが歩いて行きました。一瞬私たちを睨んでいた様な気がしますが、気のせいでしょうか?。


「今の人、何か嫌な感じですね」


「……そうだね、嫌な奴だよ」


 うん?何かミルセルさんの雰囲気が変わった気がします、あのオジサンとの間に因縁でもあるんでしょうか。


「……私ね」


 かなり暗い声でミルセルさんは語り始めました。


「アイツに家族を殺されてるの」


「はい!?」


 突然なカミングアウトに驚いて、私はアイスを落としてしまいました。仕方ないんでユズがまとめて買ってきたアイスを一つ頂ましょう。とっても切ない表情で私が持って行ったアイスを見つめていますが気にしません。


「まぁ内戦中の出来事だから、仕方ないと言えばそれまでなんだけど、それでも私はアイツが許せない……!」


「ミルセルさんのその気持ち、私には分かるなー」


 今までアイスを食べ続けていたユズが急に声を出して喋りました、しっかり話を聞いていたんですね。


「私もね、家族を殺されてるの……一番上のお兄ちゃんに」


「そうなんだ……」


 あー、何か私置いてけぼり食らってますね。まぁ興味のある話なんで口は挟みませんが。


 因みにミルセルさんの彼氏さんも、内戦で亡くなっているそうです。


「ユズさんは……復讐したいとかは思わないの?」


「思ってるよ。その為に騎士を目指してるんだから」


「……」


 まぁ、そうですよね。その為だけに頑張ってる様にも見えますからね……悲しい話です。


「ミルセルさんはどうなの?」


「私は……するよ、復讐」


 暗い話が続く中、私も話を聞くのに夢中になり、溶けだしたアイスが太ももに落ちてきました。


「ひゃあ!」


「うわ!」「うおぅ!どしたのエルシアちゃん?」


 二人は私を見て、そして私の太ももを見て小さく叫んだ理由を分かってくれました。


「……そろそろ家に戻ろうか?」


「そうしましょう」「おー!」


 そん感じで私たちはミルセルさんの家に戻るのでした。



「おう、お帰り」「三人共お帰りなさい」


 ミルセルさんの家に帰ると、リンネさんとノヴァさんが迎えてくれました。


 とりあえず洗濯カゴに靴下をポンッと投げ入れたのですが、長すぎて上手く入りきらず結局かごの前まで歩いて行って靴下を入れました……恐るべし長さのオーバーニーソックスですね。


 素足のままっていうのも落ち着かないんで新しく別の靴下を取り出すと、座りながら穿きました。



 さて、落ち着いた事ですし、さっきの話の続きでも聞きましょうか。


「ミルセルさん、さっきの復讐の話なんですが……彼は何者なんですか?」


「アイツはカルロス、この街で内戦が起こった時にアイツが口火を切ったって言われているけど、内戦を終結させたのもアイツなの」


 ん?どういう事でしょう?彼の意図が見えませんね。


「……何でそんな事をしたんでしょう?」


「さぁね、でも私にはそんな事は関係ない。アイツは私の家族を殺した、それだけ分かれば十分」


 そう語るミルセルさんの顔は、彼女と出会ってから始めてみる、狂気に満ちた復讐だけを目標とする人の表情がありました。しかし私はこの顔を過去に何度も見ています。戦場とはそういう場所なのです。


「えっと……ミルセルさん?」


 ユズが心配そうに声を掛けると、彼女はハッとして今までの表情に戻りました。


「ごめんねユズさん、大丈夫だよ」


「……ミルセルさんは、いつ復讐するんですか?」


 何か聞いちゃいけない事の様な気がしますが、きっと彼女は聞こうが聞くまいが復讐はすると思うので聞いてしまいます。


「……本当は今日にでもするつもりだったんだけど、もう夕方だし、明日にしようと思ってるよ」


「そうですか……」


 その後すぐに会話は途切れてしまい、非常に気まずい空気が辺りを包みました。


 ミルセルさんの提案もあって、今日も彼女の家に泊まる事になりました。しかし特にする事も無かった私は早々に布団に潜り、ぬくぬくしようと思います。今日は多分寝られると思います。


「ねぇ、エルシアちゃん」


「どうしました?ユズ」


「……ミルセルさん、怖かったね」


「……そうですね、ユズは何か思う所がありましたか?」


「うーん……よく、分からないや」


 まぁ、いきなり言われたらそうですよね。……この時、私の中である決心をしました。もしかしたらそれが原因でユズに嫌われるかもしれません、でもこの先必ず知っておかなければいけない事でもあるんです。


 そして私は、深い眠りに落ちていきました……。


 これから先、私とユズはお互いに辛い経験をする事になります。でも、いずれユズがお兄さんに復讐をするのであれば……この辛い事を乗り越えて行かなければなりません。私は……復讐を終えたユズを殺したくないんで、彼女と共に苦しくて悲しい思いをする選択をするのでした……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る