9節 古墳と、孤独と、覚醒する私(2)
ノヴァとの戦闘が始まってからどの位の時間が掛かったんでしょうか?。既に私たちはノヴァに負けそうになっていたんですが、リンネさんが助けに来てくれたみたいで、現在はノヴァの視線が彼女に向いている今の内に体制を整え始めている所です。
その後も私たちが大勢を整えてる間にリンネさんの矢が3連射、2連射と降ってきて、とうとう打ち止めになりました。
「はあああああ!」
次の瞬間、リンネさんがノヴァに斬りかかりました……今、ノヴァみたいに瞬間移動してきませんでしたか?。
よく見ると、リンネさんのアレ、剣じゃ無くて扇ですね……鉄扇でしょうか?。しかも二刀流。
「二人とも無事?」
「はい、なんとか」「リンネさーん助かったよー!」
「あ?知り合いなのか?」
「えぇ、まぁね」
「……そうか」
「もし殺してたら、あたし怒ってたよ?」
「いや、もう怒ってんだろ」
「えぇ、勿論」
雑談を終えると、リンネさんがノヴァに向かって走り始めました。
「ユズ!」
「うん!私たちも行こう!」
私たちはリンネさんに続いてノヴァに仕掛けに行きました。
「リンネさん!微力ながら私たちも援護します!」
「エルちゃん……!。うん、お願いね二人共!」
リンネさんからノヴァと同じような蒼い電撃が現れました、きっと術式でしょうね。……あれ?私たち居なくても全然平気だったりします?。
とまぁ、考えてても始まらないんで、出来る限りリンネさんに合わせて斬り掛かります。
しかし、リンネさんはノヴァの攻撃を全て躱しながら攻撃してますが、ノヴァもリンネさんの攻撃を躱して攻撃してます。ここは私たちでノヴァの体制を崩した方が良さそうですね。
「ユズ!お願いします!」
「あいよー!」
ユズの矢がノヴァに直撃、しかし術式に阻まれてダメージは無いようです。ですが一瞬リンネさんから視界が逸れました。もっと攻撃すればリンネさんの攻撃が通るかもしれません、私も2本のナイフでラッシュを掛けます。
流石にノヴァといえども私とリンネさん、合わせて4本の武器で攻撃されたら全て防ぐのは無理でしょう。さっきみたいに瞬間移動して逃げてもリンネさんが追うでしょうし、今度はユズの乱射が飛んできます。そして、全て防げないのなら、危険度の低い攻撃はあえて無視するしかなくなります……そう動いてくれたら「チェックメイト」です。
そしてノヴァは、私の思惑通りにリンネさんの攻撃を防いで、私の攻撃は無視しました。勝ちました!。
私は右腰に付けてある斧を取りだし、ノヴァに斬り掛かりました。この斧にはリンネさんの魔法が付与されています、これならノヴァの術式を突破できるらしいです。
本来の術式の特性は以下の通りです。
〇魔法を破壊する事に特化している。
〇人間が使う武器には脆く設計されている(人間を裏切る事への対策)。
〇人によっては本来、予想しえない特殊能力が付く事もある。
〇ノヴァの特殊能力は
〇術式発動後には何かしらのリスクがある。
大切な部分だけを上げるのなら、こんな感じです。
しかし、全反転ですか……つまり人間の武器に強く、魔法に弱いって感じでしょうか。
何にせよ、今は悩んでる場合じゃ無いんで、リンネさんを信じて斧で攻撃します。
――ザシュ。
斧がノヴァに命中したその瞬間、蒼い電撃が弾け飛び、ノヴァの肩に斧の刃が食い込みました。
その瞬間にユズとリンネさんも総攻撃、これは流石に勝ちでしょう……そう思った途端、リンネさんがこっちに吹っ飛んできました。
「ぐぅ……!。大丈夫ですかリンネさん!」
「ごめんね、大丈夫よ」
「良かったです、なら直ぐに体制を立て直してノヴァへ総攻撃を――」
ノヴァが居ないです……まさか!?。
「流石に分が悪いんでな、崩させてもらうぞ」
「ユズ!」
私は全力で叫びながらユズの方に駆け出しました。するとユズの前に現れたノヴァが刀を振りかざしました……させません!。
私は斧をノヴァに投げ、再びナイフを持ち直しながら更にノヴァとの距離を詰めました。
するとノヴァは左手で私の投げた斧を掴み、私の前へ瞬間移動。斧で斬り掛かってきたのです。
「――ッ!?」
ユズの元へ到着する事を最優先にしていた私は、躱す事も防ぐ事も出来ずに左肩に斧が直撃。そのまま吹き飛ばされて、近くにあった旧世界の武器……A・Aに激突しました。
「がぁ……!がふっ……」
激突した時に骨が折れたのでしょう、吐血しました。更にノヴァに斬られた左肩からも血が止まりません、左腕も動かないです、骨ごと斬られみたいですね。
私がぶつかった衝撃で再びA・Aが台座から外れ、私の真横に落ちてきました。
「エルシアちゃん!!!」
ユズが私の元に駆け寄ってきましたが、視界がボヤけて表情がよく見えないです。
「エルシアちゃん、待っててね、アイツを倒して直ぐに治療するから!」
「駄目です!逃げて下さい!!」……そう言いたかったんですが、上手く声が出ずにユズを見送る事しかできませんでした。あぁ……徐々に視界が狭くなってきました。
……そしてそのまま、私の視界は暗闇に閉ざされていくのでした。
〇
ふと、肩の痛みによって私は目が覚めました。意識が飛んでいた様ですね。……あれからどの位の間、気を失ってたんでしょうか……?。何か夢の様な物を見た気がします。
私に似た女性が、私に向かって何かを話しかける夢……何か大事な事を言っていた気がしますが、よく思い出せないです。
それにしても体がとても怠いですね。例えるなら、いつも以上に寝過ぎた時の気怠さに似てます。
というか、私は本当に気を失っていたんでしょうか?もしかしたら今までの事が全て夢で、私はまだ街の中に居るんじゃないでしょうか……?。そんな気がしてきました。
ユズやリンネさん、情報屋のお兄さんからノヴァの話を聞いて、前に戦った時の恐怖感が夢に出てきたんじゃないかって……そう、思いたかったんです。そうであれば良いと願ったんです。
でも、その願いも目の前の光景が全て壊しました…。
ふと見上げた先……私の眼前には、ちょうどユズが、ノヴァの刀で胸を貫かれている光景が広がっていました。
「ゲホッ……」
ダバダバと大量の血を吐き出すユズ。尋常じゃ無い量の血を吐き出しています、このままじゃユズは……。
「ユ……ズ……!」
この光景が信じられない私は、ユズの元に駆け寄ろうとして立ち上がろうとしました。しかし体がうまく動きません、一気に視界がグラつきました、吐き気がします、全身が痛い……それでも私はユズの元へ行こうと、這いながら進みました。
「ノヴァァァァァァ!!」
リンネさんが今までに聞いた事の無いような怒りの声を発しながらノヴァの方へ駆け寄っていくのが見えました。
「……馬鹿が」
ノヴァは小さく呟くと、胸に刺さった刀ごとユズを私の方へ蹴り飛ばしました。
「ユズ……!しっかりして下さい!」
「エ……ル……シア……ちゃん……良かった……生きて……た」
「私は平気です。それよりも今はユズの手当の方が先です」
「それ……は……いいから、リンネさんに……手を……貸してあげ……て」
「いいわけないでしょう!?今自分がどれだけ重症か、貴女分かってるんですか!?」
「重症なのは……エルシアちゃんも……一緒でしょ……?」
「でも……!」
「ぐ……あぁ!」
私が困っていると、向こうの方で戦闘していたリンネさんが、ノヴァに喉元を掴まれていました……私はいったいどうしたら良いんでしょうか、もう分からないです。
「なるほど……そういう事ね。それでも、あたしは貴方を許さないわよ」
リンネさんが一瞬、こっちを見て小さく呟きました。
「あぁ、そういう事だ、だから少し寝てろ。後そんなに怒るな」
ノヴァはリンネさんの腹部に手を添えると、黒い竜巻の様な物を起こしてリンネさんを吹き飛ばしました。
ドォォン。
大きな爆発音を立てながら吹き飛ばされたリンネさんはピクリとも動かなくなり、地面に接してる腹部付近からは黒い煙が上がっています。いくらリンネさんでも、もう立てないでしょう……。
「さて、最後はお前だ」
ノヴァが私の方に近づいてきます、私は……どうしたら良いんでしょう。もう駄目なんでしょうか……?。
全てを諦めかけたその時、私の頭の中で不思議な声が聞こえました。
「(本当に……此処で諦めて……良いの?)」
だって、どうしようも無いじゃないですか!。ユズも何とか息がある状態で、今はもう意識も無いし。ノヴァと同等に強かったリンネさんも立ち上がれないほどボロボロで、私は片腕動かないんですよ?。一体どうしろって言うんですか!?。
「(まだ……何とかなるかも……しれないよ?)」
だから腕が動かないって言ってるでしょう!そんな状態で勝機なんてある訳無いじゃないですか!。
「(なら……私が片腕でも……彼を倒す力の使い方を……教えてあげる。さっき教えた事を……思い出してみて?)」
さっき教えられた事……?。貴女は何を言ってるんですか!それに貴女誰ですか!?。
「(私が誰かは……今はいいの。それとも……此処であの子を……見殺しにする?。助けられる力が……貴女にはあるのに)」
それは……それだけは……!。
「それだけは、絶対に嫌です!!」
どうしてでしょう、不思議と体の奥底から力の様な何かが溢れてきます。
そして思い出しました。この声の正体は、気を失ってるときに現れた女性の声です。じゃあ思い出せっていうのは、その時に聞いた大切な気がする何かって事でしょうか。
えっと、何て言ってましたっけ?確かこんな感じのフレーズだった気がしますが。
「霊装!!その力を私に貸して下さい!」
言葉を発した瞬間、私の意識はふっと遠い場所に飛んだような感覚になりました。
そして私の服装は、さっき夢に出てきた女性が来ていた、ドレスの様な物に早着替えしていました。……控えめに言うと、どういう状況か全く分からない、どうしてこうなった状態です。
でも、不思議とこの力の使い方と、A・Aの使い方は理解出来ていました。
「霊装化!?誰とだ?」
「ノヴァ……貴方だけは、絶対に許しませんっ!」
一瞬、私の頭の中に月光花の花畑の光景が浮かびました、どうして今この光景が頭をよぎったのでしょう……?。
するとあら不思議、実際にその光景が私とノヴァを中心に広がっていました。まるで心の中の光景を具現化させたような感じです、凄いですねこの力。
「……心象結界か、よくもまぁいきなり出来るもんだな」
ふむ、心象結界と言うんですねコレ。詳しく聞きたい所ではありますが、時間が無いんでさっさと決めます。
「心象結界:終焉の世界」
ノヴァが唱えると、私の景色と混ざり合う形でノヴァの景色が構築されていきました。
「な……!?」
「ソレを使えるのが自分だけだと思ったのか?甘いんだよお前は」
マジですか……コレを使えるのは私だけだとは思いませんけど、ノヴァも使えるなんて……。
「(大丈夫……貴女を信じて。この力は……貴女自身をどれ位信じれるかで……強さが変わって来るの)」
私自身を信じる……ですか。あまり自信は無いですが、今はユズを助けたいです。私のその思いは絶対に信じれます!。
信じる力が強さに変わるのなら、今の私はきっと神だろうと倒せる筈です。
とはいえ、こっちは満身創痍……短期決戦で勝負を決めます!。
私は地面に落ちたA・Aを拾い上げて銃口をノヴァに向けながら一言だけ言い放ちました。
「……行きます!」
「いいぜ、来な。本気で遊んでやる」
……なんか凄いノリノリじゃないですか?この人。
まぁいいです、手早く仕掛けます。
「
私が唱えると、辺り一面に無数の魔法陣が浮かび上がり、そして弾が大量に放出するようにノヴァめがけて飛んでいきます。
ん?弾丸が何か分かるのかって?そんなん知りませんよ、鉄の塊じゃないんですか?。
無限の弾丸……さすがのノヴァでもまず躱せないでしょう。さて、どう切り抜けて来ますかね、それによって私の行動も変わるんですが。
ところがどっこい、ノヴァは避けもしないで結界に展開された無数の剣を呼び寄せ、それを遠隔操作しながら弾き飛ばしていました。
「結界ってのはただのフィールドじゃ無い、固有能力がある物なんだ。それを理解してなきゃ俺には勝てねぇぞ」
固有能力、あの剣を自分の周りに展開させてるアレのような物の事でしょうか?。もしかしたら結界内の武器を全部操れるのかもしれないですね。何ならそこの崩れかけの建物も使えるのかも……だとすれば月光花の能力は1つしか思いつかないです。
とはいえ、本当にそんな簡単な事なのかが疑問です。実際に例えがノヴァの結界しか無い訳ですから、検証もへったくれも無いんで、まぁやるだけやってみましょう。
さっきの女性は言いました、この力は私の信じる強さで決まると。つまり私の意思でこの結界内を自由に出来る、そういう事で良いんですよね?……多分。
「月光花よ、私たちの命を吸って下さい!」
私が囁くと、辺りの花々が光り始めました、命を吸う時の前兆です。
「……正気か?」
「勿論です。さっさとユズを治療しないといけないんで、今すぐにでも決めに掛かります」
「上等だ……来い」
私は無限の弾丸を展開しながら
これは私が敵と認識した対象に自動追尾する弾丸です。鎖は弾丸の後ろからくっついていて、根元は魔法陣の中にあるので、当たれば拘束できる代物です。
しかし流石ノヴァ、いとも容易く私の弾丸の雨を掻い潜ってきます。でも、私には近接攻撃がまだ残っています。
ぎりぎり動く右腕でA・Aをブレードモードで起動、ノヴァへ斬りかかります。
しかし見切っていたノヴァが1本だけ剣を私の前に設置しました。でもその行動は読んでいます、鎖の弾丸を1発だけ剣に向けて飛ばし、相殺してそのままA・Aのブレードをノヴァの胸元に突き立てようとしました。しかし当たる瞬間に躱されてしまいます。
「まだまだ使い方が成ってねぇな」
そう言うと、ノヴァは剣を振り上げて、そのまま私めがけて降り下ろしてきました。
まぁ攻撃が1発で通らないのは分かってるんで、別の策を用意してます。
「――っ!?」
ノヴァの動きを鎖の弾丸で封じました。確かにコレは相手に刺さればその場で拘束できますが、鎖をグルグル巻きにして拘束しても良い訳です。そして、再びA・Aのブレードで突くと同時に、無限の弾丸も合わせて撃ち込みます。無限の弾丸は魔法属性みたいなので、ノヴァの術式も簡単に破壊できる筈です。
ダダダダダダダダダダン。
爆発音を立てながら飛んで行った弾丸がノヴァの術式に命中。蒼い光が弾け、その後の弾丸は全てノヴァに命中し彼の体がら出血が確認できました。このまま押し切ります!。
しかし、一体どうやったのか、鎖の弾丸を自力で破壊し、彼にA・Aのブレードが当たるより先に私のお腹に剣が突き刺さりました……動き速すぎません?。
「が……はぁっ……」
「あぶねぇ、間一髪だった」
あぁ、また負けました……。でも、今諦めたらユズが死にます……諦めてたまるものですか!。
私はA・Aをその場に捨てて、剣で刺されてるにも関わらず、そのままノヴァの方へ前進しました。
グシャ、ビシャビシャ。
無理矢理歩みを進める私の足元には、血の道が出来ていました。
刃が更にお腹の中に食い込んで痛いです、刺された時よりも圧倒的に出血量が増えてます、でもあと一歩でノヴァに手が届く所まで来ました。そして私は……彼のコートの襟を掴むことに成功しました。
「もう……逃がしません……。次は絶対に……当てる……!」
無限の弾丸を展開、私ごとノヴァを蜂の巣にしようとしたその時、背後から強い衝撃が走りました、胸が痛いです、一体何が?。
私は自分の胸元を確認しました、するとそこには黄金の矢が刺さっていました。……この矢って、まさか。
「がはっ……!あ……ぁぁ……」
想像以上の吐血、流石にもう駄目です、体が動かないです。私はノヴァに抱き着くように倒れました。
「全く!何時まで遊んでいるつもりだ!?」
「…………」
あぁ、やっぱりライオットでした……そういえば居ましたね……完全に忘れてました。
「何とか言ったらどうだ!?この死神風情が!」
「……悪いが、俺の主はもうお前じゃない」
「はっ何を言ってる。契約を切られて冥界へ帰りたいのか?」
「ならやってみると良い」
「ふざけやがって!主が従者へ命令する、地獄に帰れ!」
「……」
「……」
「満足か?」
「嘘……だろ!?いつ誰と契約したのだ!?」
「ついさっきだ。リンネ、そろそろ起きて良いぞ」
リンネ……さん……。無事……だったんですね。
「ごきげんよう。あたしがノヴァの主のリンネよ、以後お見知りおきを」
「いつ……契約したんだ……」
「俺がさっきリンネの腹に触れたときだ、そのタイミングで契約した」
「そんな……たった一瞬だぞ!?」
「一瞬あれば十分だ。さて、この二人を治療がてら街に戻るかな」
「そうね、あたしはエルちゃんを担いでいくわ」
「了解。俺はこっちのボウガン娘だな」
「リン……ネ……さん」
「ごめんねエルちゃん。もう少し頑張って」
「よし、撤退だ」
「ま……待て!」
「うるせぇよ、俺はもうお前の従者じゃねぇ。次に会った時は殺す」
ノヴァが元主に吐き捨てて歩き始めたタイミングで、私の意識は完全に途切れました。
この出来事から5日後、私は目を覚ますんですが、それはまた次のお話で……。
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