14節 特訓と、必殺技と、襲来する脅威

 はいどうも、アホ毛が分裂して2つに増えたエルシアです。


 シラユキと共にユナさんに特訓して数日が経ちました。今の所は良い感じに技を使えているんですが、片手で使えないとマスターしたとは言えないみたいで、現在は実戦も兼ねてシラユキと摸擬戦をする所です。


「さて、準備はいい?」


「はい」「いつでもいけますわ」


 緊張した空気が私たちを包みます。強風が集中力を削ごうとしますが、それを気にしない様にしながらシラユキを見ました。彼女の集中力も大したものですね、微動だにしません。


「……始め!」


 その声を聞くや否や、私はショーテルを抜刀して魔力を纏わせると、シラユキに斬り掛かりました。


「くっ!」


 私の攻撃を避ける事が不可能と判断したシラユキは、槍で受け止めましたが、三日月の様に反った刀身が彼女の体に傷を付けました。


 今が攻め時だと思った私はナイフを取り出して魔力を込めながら刀身を伸ばすと、怒涛の連撃を浴びせました。


 ナイフを槍で、ショーテルを魔法陣で防ぎ続けたシラユキは、左手を私の胸に押し当ててユナさんから教えてもらった必殺技を叫びました。


「海塵!」


 次の瞬間、私はシラユキの水属性の魔法で作られた球体に閉じ込められてしまいました。


「爆!」


 そう唱えると、一気に水が私の体に集まって、弾け飛びました。


「ぐぁ!」


 吹き飛ばされて、口から血を吐き出しながらうずくまる私に向かって、シラユキは水魔法で追撃を掛けてきました。避けきれないし防げない量の攻撃……私もユナさん直伝の必殺技を使うしかないみたいですね。


 口元の血を拭った私は、体の前に両手の親指と人差し指を繋げて三角形を作ると、そこに魔力を放出しました。


「いきます……絶!」


 私の手から放たれる魔力を破壊する様に、シラユキの攻撃が全て私に命中します……しかし痛みは全くありません、寧ろ心地良さを感じる程です。……言っておきますがマゾでは無いです。


 私の体から魔力が完全に消えた頃、彼女の攻撃も止まりました……随分息を切らしてます、本気で撃って来たんでしょう。実際「絶」を発動させてなかったら致命傷になってたと思います。とういうかアレですね、シラユキって魔女だったんですね……まぁ確かに飛んで追いかけて来てましたけど。


「活!」


 私が唱えると、体中の傷を癒して、魔力を爆上げしてくれました。


「絶」はただの防御魔法ではありません。攻撃全てを防ぐ絶対防御でありながら、受けた攻撃を全て蓄えて、攻撃の「滅」か回復の「活」に派生できるトンデモ魔法なんです。マジで必殺技でした。


 ただ発動条件が微塵の狂いも無い魔力の操作をしながら、正面に展開させるという想像を超えた取得難度でもありました。


 さて、私の体の周りには、シラユキから奪った魔力が溢れ出しています。


 因みに私の魔力の量が少ない理由は、恐らく魔法を使わない時間が長すぎて退化したんだろうとユナさんに言われました。なので本来は普通の魔女同様に魔力を持ってるんですが、外的刺激が無いと活性化しないみたいで結局は使えないんだとか。


 で、「活」で魔力を外部から急激に補充する行為が外的刺激になっているらしく、本来の持てる量を越えた魔力が、溢れ出しているんだと。コレを越えて魔力を補充しようとすると、肉体が吹き飛ぶから注意と言われました。……ノヴァさんが話してた魔女の呪いと同じ原理ですかね?。


「止め!」


 私がありったけの魔力で作った、無数の雷球をシラユキに向けて飛ばそうとした時、ユナさんが止めに入りました……摸擬戦終了ですね。


「エルシア……その物量を仲間に向けるのはマジでヤバイ。……撃たないのは分かってるが見てて怖いから止めて」


「はい」


「そしてシラユキ……君も「爆」を全力で撃ち込むのはマズイ。エルシアがタフだし「活」の身体活性化で無傷みたいな状態で判断しにくいけど、アレは多分内蔵潰れてた」


「す、すいません。エルシアは大丈夫ですの?」


「お腹がグチャってした感覚は残ってますが……平気そうです」


 そんな事を話してる内に、私の体から溢れてた魔力は消滅し、元の状態に戻ってしまいました。


「ふぅ……とりあえず今日の練習は無しでいい、ゆっくり休んで」


「はい」「分かりましたわ」


 さて、そんな感じで特訓を終えた私たちは、ガールズトークに花を咲かせながら体を癒していました……。



 そして次の日の朝、ユナさんに叩き起こされた私とシラユキは、寝ぼけたまま挨拶をしました。


「お二人共……おはようございます。ふわ~~……」


「ユナ、エルシア……おはようございます」


「そんな呑気に挨拶したる場合じゃ無い、さっき横を通った行商人が黒い甲冑男の話をしていたんだよ」


「え!?」「もう追いついてきたんですの!?」


 一気に眠気の吹っ飛んだ私たちは、急いで起き上がって寝間着から着替えると、戦闘準備をしてユナさんの話を聞きました。


「話を聞いてみたんだけど、近くの集落にエルシアが逃げ込んだと思っていたらしくて、そこを消滅させたって話だった。そこの集落の連中もエルシアを庇うような発言をした所為で滅ぼされたみたいだね」


「……酷い話ですわね」


「そんな……リザちゃんが……殺されたって事ですか?」


 余りにも唐突な展開に頭が追いついていない私ですが、そんな状態の私を待つ事も無く、全身に纏った金属音を響かせた存在が、私たちの前に立ち塞がったのでした……。

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