15節 甲冑と、三人の魔女と、死力の戦い
はい、私です。
私たちは今、シラユキを処刑しようとしていて、私を狙ってる存在でもある黒い甲冑と対峙した所です。
「シラユキ、やはり貴様は我々を裏切るのか」
低めの声でシラユキに問いかける甲冑、何だか処刑しようとしてた時と雰囲気が違いますね。
「え、えぇ……。わたくしは決めましたの!ベルギウス家は……貴方達本家は敵であると!」
「私からしても、ベルギウス家は敵です……此処で殺させてもらいますが、文句は無いですよね?」
「君達殺意高めだね……ま、あたしもアンタ達の悪事を聞いて内心怒りで煮えくり返ってるから全力でぶっ飛ばすけどね」
戦闘態勢を取る私たちを見て鼻で笑った甲冑は、腰に着けた長めの剣を抜くと、構えもせずにもう片方の手で私たちを呼ぶ様に煽ってきました。
「俺はジン・ベルギウス……本来なら貴様等に剣を抜くまでも無いんだが、折角だ……圧倒的な力の前に絶望させて死なせてやろう」
「……随分と言ってくれますね、これでライオットより弱いとか言ったら拍子抜けですよ?」
煽り返してはみた物の……シラユキの話では、彼は魔法も旧世界の武器も使えるんですよね。下手に近付くと危険な気がします。
二人も同じ考えなのか、構えたまま攻撃をしようとしません。……此処は強引にでも戦局を動かすべきだと判断した私は、雷球を飛ばしながらショーテルで斬り掛かりました。
「笑止!」
彼はそう叫ぶと、私の魔法を覇気で消し飛ばして、剣を斬り返しながら反撃してきました……上手い体捌きです。
「うぅ!」
避けきれなかった私は、魔道昆で防ぎながら吹き飛ぶと、反撃の隙を与えない様に魔法陣に着地してもう一度斬り掛かりました。
ガキィィン。
金属のぶつかる音が周囲に響き渡り、私たちはそのまま鍔迫り合いにもつれ込みました。
「ほう……聞いていた以上に戦えるみたいだな、貴様」
「貴方こそ、さっきの煽りは口からの出任せでは無いみたいですね」
私たちが鍔迫り合いで硬直していると、背後に回ってたシラユキが左手を伸ばして近付いてきました。
「海塵!」
無防備な背中に海塵を当てる事に成功したシラユキは、ジンを拘束すると槍で滅多刺しにし、一言だけ吐き捨てました。
「ごきげんよう、ジン叔父様。いや……ジン!」
シラユキは「爆」でジンを爆発させると、謎の決めポーズを取り始めました……。彼女は多分戦闘慣れしてないんでしょうね、死亡確認が取れるまでは警戒を解かないのがセオリーなのに……。
「馬鹿!油断するんじゃない!」
ユナさんが叫びながら最大火力の火球を飛ばしました、私も合わせる様に最大火力で雷球を飛ばして同時に直撃させました。
「成程……シラユキ以外は場慣れしてるみたいだな」
私たちの全力を受けた筈のジンは、膝を着く事無くその場に平然と立っていました。
「うそ!?「爆」が聞いて無い!?」
動揺するシラユキに、ジンは剣で問答無用の突きを繰り出しました。
「シラユキ!」
彼女の前に飛び出して絶を発動させた私は、何とか防ぐ事に成功しました。
「滅!」
小威力とは言え、何も反撃しないよりはマシだと思った私は、滅で目眩まし程度の攻撃をして、シラユキと共に撤退しました。
「ごめんなさい、助かりましたわ」
「死んだのを確認するまで油断しないで下さいね」
さて、状況は振り出しに戻ったと思えるこの状況でしたが、空中に飛んでるユナさんが爆発音と共に落ちて来た事で、状況は寧ろ悪くなってる事を悟りました。
「ユナ!大丈夫ですの!?」
「平気……今のは?」
「……旧世界の武器ですかね、恐らくアレは散弾銃と言われる奴です」
身体の数カ所から血を流しながら立ち上がるユナさんを、シラユキが支えながら持ち上げています。
そこに、ジンは銃を向けて引き金に指を掛けていました。
「マズい!」
私は再び絶を使って銃撃を防ぎましたが、初段だけ足に命中してしまいました。
痛い、焼ける様に熱い……しかも体の奥まで弾がめり込んでて直ぐには治療出来そうに無いですね。
しかし10発以上の攻撃を絶に溜める事が出来た私は、活で魔力を増やしつつ
ギギギギギギギギン。
甲高い音を立てながら甲冑を削る弾丸でしたが、特にダメージが入ってる様には見えません。
シラユキは魔力を海塵で枯渇させて、ユナさんも満身創痍、かくいう私も初撃が今になって効いて来て結構ピンチです。……一か八か、奴の目に見えてる弱点を突いてみましょうか。
「ユナさん、ありったけの魔力でジンを拘束します。その間に蒸し焼きにしてもらえますか?」
「分かった、頼んだよ」
「わたくしはエルシアが拘束をするまでの時間稼ぎをしますわ」
ジンに聞こえない声で作戦を立てた私たちは、シラユキが走り出すのと同時に行動を開始しました。
「ジン!わたくしが相手ですわ!」
「……貴様一人では足止めにもならんぞ」
かなり押されながらもジンに食らい付くシラユキ。彼女が体制を崩して、ジンの攻撃が直撃しそうになったその時、彼の体は私の放った
「ユナさん!」
「分かってる……シラユキ!避けて!」
そう言いながら放ったユナさんの火球は、今までの物と比べ物にならない程に大きくて大量の魔力が込められた魔法になってました。
「焼け焦げろ!
飛んで行った火球は弾速が遅く、先に鎖の弾丸を解かれてしまいました。
「くぅ!」
「残念だったな。あれ程遅い攻撃なら、歩いてでも避けきれる」
「まだ……ですわ!」
倒れていたシラユキがジンにしがみ付きました、私も便乗して彼を羽交い絞めにします。
「……貴様等正気か?あれ程の火力、貴様等では即死だぞ」
「「……あんまり、魔女を」」
「舐めないで下さい!」「舐めないで下さいまし!」
そのまま火球の渦に呑まれた私たちは、自身の体に魔法で障壁を作って極力ダメージを削ろうとしました。
しかしそれはジンも同じで、彼も魔法で体を保護し始めました……させない!。
自身の障壁を解いて絶を発動させた私は、体中を駆け巡る激痛に似た熱さに耐えながらジンの魔法を吸収しました。そして……。
ドオォォォォォォォォン。
辺り一帯を焼け野原にして、燃え盛る火の中に残っていたのは……ジンでした。
私とシラユキは爆破の衝撃で火の無い所まで吹き飛ばされ、ユナさんも安全な場所で倒れていました……魔力の使い過ぎでしょう。
「クソッ……してやられた!」
そう言いながら剣を掴んで私に近付いて来たジンは、トドメを刺そうとして、手を止めました。
「……誰かが近付いて来る?何奴だ?」
そう言うジンの肩に、矢の様な何かが飛んで来て、甲冑の隙間に突き刺さりました。
「ぐっ!増援か……やむを得ん、今は引かせてもらおう」
そう言うと、ジンは何処かから馬を読んで、颯爽と何処かに撤退していきました……。
〇
「……行きました?」
「……イキましたわね」
「……逝ったな」
……おかしいです、同じ言葉の筈なのに意味が違って聞こえてきます。
さて、脅威が去って死んだふりを解いた私たちは、その場に座って傷の手当てを始めました。
「……そう言えばさっき誰か助けに来ました?」
「そんな気はしたけど……誰も居ない」
「……きっと世界の平和を守るのに忙しいヒーローなんですのよ」
「それは無いです」「そりゃ無いね」
「……夢が無いんですのね」
こうして何とか無事だった私たちは、今度こそジンを倒す為の作戦を練りながら、傷を癒して眠るのでした……。
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