16節 私を導く親友の文字と、最後の晩餐と、思いがけない結果
ども、私です。自我を持ったアホ毛に洗脳され始めてる気がするエルシアです。
ジンとの戦闘で傷ついた私たちは、とりあえず応急処置で手当てを済ませると、今後の方針について作戦会議を始めました。
「まず、ジンは甲冑を着てる都合上、熱に弱くて小回りも効きにくい筈です。そこを突くしかないんじゃないでしょうか?」
「確かにね、後は持ち上げる事が出来れば、自重で圧死させられそうな気もするけど」
「いえ、ジンは魔法が使えますわ……最悪飛べるかもしれません」
うーん……何かノヴァさん並に弱点が無い気がしますね。
とりあえず現状で立てられる作戦としては、何とかして甲冑を脱がせるか蒸し焼きにする事で纏まりました。
奴のダメージが完治しない内に追撃を掛けたい所なんですが、何処に行ったのかが分からない為、私たちは馬の足跡をトラッキングするという地味な方法で捜索を始めるのでした。
〇
ジンを探して1時間程経った頃でしょうか、行商人の方が私たちに話し掛けてきました。
何でも茶色い短髪の王都騎士から、私たちに手紙を渡す様に頼まれたとかで……一体誰なんでしょうか?。
とりあえず手紙を受け取った私は、内容を確認してみました。
親愛なるエルシアちゃんへ
貴女の探し人は、貴女を庇った者が居た為に滅ぶ事になった場所の、小さな小屋に身を潜めてる。
今後の健闘を祈る。
貴女の親友、Yより。
という内容でした……彼女も随分達者な言い回しが出来る様になったものですね。
「Yって誰ですの?」
「彼女も随分達者な言い回しが出来る様になったものですね。
「Yって誰ですの?」
「……敵の罠かも知れないね」
「いえ……心当たりがあります。私の親友です」
私は手紙を胸の前で抱きしめる様に持つと、気持ちを切り替えてリザちゃんが居た集落に向かって移動を始めました。
少し飛んでは休憩しながら歩くという行動を繰り返して、魔力の消費を抑えて進む私たちは、あと少しで集落に辿り着く所で夜を迎えていました……きっと明日が決着の日になるでしょう。
この日の夕飯は、それぞれが持ち合わせている全ての食材を使った豪勢な料理を楽しみました。何だか最後の晩餐みたいですね……。
さて、料理を楽しんだ私たちは、テント付近に私の雷球で穴を掘って、そこにシラユキの水球で水を溜め、ユナさんの火球で沸かしてお風呂を作りました。
「ふぃ~温かいですね~」
「ふふっ、何だか露天風呂みたいで気持ち良いですわね」
「んあー……いつもは水風呂だから体にしみるなぁ」
腕を伸ばしたりストレッチを始めたりする二人…胸が水に浮いてますよ羨ましい。
「……二人共アレですね……発育がよろしいですね」
「わたくしは身長を犠牲にしましたわ」
「そんな事で胸が大きくなるんですか?」
「夜中まで起きていると身長の代わりに胸が大きくなりますわよ」
「私、夜更かししてボインになります!女のステータスを上げにいきます!」
「頑張って下さいまし!応援してますわよ!」
「何言ってるのか分かんないんだけど……まぁ良いか」
私とシラユキの良く分からない会話に苦笑いしたユナさんは、夜空を見上げて目を閉じました。
楽しい時間は過ぎるのが早い物で、そろそろ寝る時間になりました。名残惜しいですが寝る事にしましょう、今日は夜更かししません。
おはようございます。現在は早朝……朝日がギリギリ顔を出す前です。
この時間ならジンが寝てると踏んだ私たちは、奇襲を掛ける為に朝早くから行動を始めました。
ちょっと肌寒い空気が鼻に刺さる中、私は目に魔力を集中させて集落内を覗きました。
……確かに誰も居ない、滅んだ集落になってますね。……リザちゃんは生きてるんでしょうか?。
っと、そんな事を考えてる場合じゃ無いですね。改めて集落内を見渡します、すると、確かに小さな小屋の中に誰か居るのが確認できます……あのゴツさは甲冑ですね、着たまま寝てるんでしょうか?。これはチャンスです、寝首を掻きに行きましょう。
私は手で二人に合図を送ると、足音を立てない様に慎重に、集落内の恐らくジンが居るであろう小屋の前に移動しました。
「私がドアごと雷球で吹き飛ばします、正面にあるベットにジンは寝てる筈なんで、正面に二人の魔法をお願いします」
私は小さい声で二人に言うと、早速ドアを破壊する為に雷球を放ちました。
高速で飛んで行った雷球は、ドアとその周辺を粉々に破壊して、風通しを良くしました。
二人は最大火力で魔法を放ち、最初にシラユキの水球が命中、その後にユナさんの火球が大爆発を起こして小屋を木っ端微塵に吹き飛ばしました。
辺りを燃やしながら立ち上る煙が徐々に晴れていき、そこには甲冑のシルエットが寝転がったまま燃えてるのが確認できました。
……はい、まさかの結果ですが勝ったみたいです。
少々呆気なさを感じずにはいられませんが、目の前で燃えた甲冑がジンを倒した何よりの証拠なので仕方無いですね。
バトンタッチをする私たちは、何だか拍子抜け過ぎて微妙な笑顔になりながらも、脅威を排除できた事に喜びを感じていました。
……そう言えば、前回ジンと戦った時に、私シラユキに何て言ってましたっけ?。
確か……死んだのを確認するまで油断しちゃいけないとか言った気が……まさか!。
余りに呆気なさ過ぎる不可解さと、死体の確認が出来ない状況で、私はある事に気付いてしまいました。
「二人共!まだ終わってません!あれは――」
ザシュッ。
背中に強い衝撃が走った瞬間、激しい痛みに倒れる私の視界の端には、恐らく私から噴き出したであろう凄い量の血飛沫の奥に立つ、甲冑を脱いだ男性の姿が映り込みました。
「エルシア!しっかりして下さいまし!」
「お前……ジンか?何故生きている!?」
「何故?それは最初から甲冑を着ていなかったからだ」
「なに!?」
「貴様等が寝込みを襲うのは予想出来ていた」
「クソッ!シラユキ!エルシアを安全な場所まで!」
「ユナはどうする気ですの!?」
「コイツを足止めする!」
「そんな!」
「いいから行け!」
ここで私の意識が途切れたのか、二人の会話は聞こえなくなってしまいました……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます