13節 処刑と、焦りと、ベルギウス家との戦闘準備
はい、私でぇす。飛んで行ったアホ毛が帰って来てテンションが上がったエルシアでぇす。
シラユキと出会ってから数日後、私はいつも通りにフワフワと漂いながら北に進んでいました。
そんな時です、特に寄る予定も無かった街の中心地で、何やらお祭り騒ぎが起こってるみたいで、騒がしい声が上空の私の所まで響いてきました。
何となく気になった私は近場に降りると、門兵に挨拶をして街に入りました。
「あの、このお祭り騒ぎは何事でしょう?」
私の近くを楽しそうに歩く二人の青年に話し掛けると、彼等は少し興奮した様子で答えてくれました。
「今から処刑が行われるんだよ!」
「処刑?」
「あぁ、何でも可愛い女の子らしくてな!最近は処されるのを恐れて誰も悪事を働かなかったから楽しみなんだよな!」
「楽しみ?処刑が?」
「あぁ、善人には悪人の処刑を娯楽として楽しませるエンタメ性を確立した地域だからな。外から来たであろう君には分からないかもしれないが、これは俺達にとっちゃ当たり前の行事なんだよ」
「はぁ……因みにエンタメ性とは?殺し方ですか?」
「そうさ!簡単には殺さず1週間掛けて弄って殺す!更に殺し方の投票まで取るんだ!」
「……部外者から見るとイカれた行事ですね」
「あぁ、だから商人もさっさと用を済ませて街を出て行っちまう」
「でしょうね……因みに今日は何日目の何をする日なんですか?」
「今日は3日目だ!今日は大銅鑼の刑だったかな。初日に衣類を没収してるから痛々しい筈だ」
私は楽しそうにいつまでも語るお兄さんたちに、軽くお辞儀をするとその場を立ち去りました。
善意とかでは無いんですが、何となく放っておけない気がした私は、処刑場に足を運びました。
するとそこには、悲惨な光景が広がっていました。
辺り一帯に飛び散って引きずられた様に伸びた血の跡、焼け焦げた丸太に付く赤黒い何か、びっしりと血が刃にこびり付いた投げナイフ……本当に悲惨です。
そんな物騒な物を投げ捨てて、処刑を娯楽として楽しむ集団の中心には、全身をボロボロにさせて、両手を上に拘束されて跪く全裸の女の子が居ました……何だか見覚えのあるのは気のせいでしょうか?
そんな事を思っていると、黒い甲冑に身を包んだ男性が、大銅鑼を持った部下を連れて女の子に近付いて行きました。
「これより、この悪人、シラユキ・ベルギウスの処刑を始める!」
その言葉を聞いて喚起を上げる人々を他所に、私は驚きを隠せずにいました。
だって……前にあった時とは比べ物にならない程に痩せこけて、全身がボロボロで……。
「――ッ!」
何としても彼女を助けると決めた私は、直ぐに作戦を練りました。
まずは衣類全ての回収。恐らく見張りが居るでしょうが構いません、全員叩きのめします。
次に彼女の回収。これ自体も周囲を魔法で吹き飛ばせば何とかなるでしょう。
問題は脱出です。彼女の回収したまま走るのは得策じゃないです、その場で飛んでも撃ち落とされる可能性は非常に高い……ありったけの魔力で障壁を作って全速力で離脱すればギリギリ死なずに済むかもしれないですね。それで行きましょう!。
早速行動を起こした私は、衣類の回収に向かいました。恐らく甲冑を着た奴が出て来た場所にある筈だと踏んだ私は、奴が出て来た小さい小屋に飛び来み、地下の階段を下って牢獄の奥に無造作に置かれてたシラユキの衣類と槍を回収しました。
次に彼女の救出です。小屋から出た私は魔道昆に跨り、上空に飛ぶと、周囲が私に注目するのもお構い無しに、甲冑や周りの人間に魔法をぶつけました。
降下した私は、彼女の槍で拘束していたロープを切ると、背中にもたれ掛からせて魔法陣を展開し、街の中を爆走しながら門から出て行きました。その間に何度も弓で撃たれましたが、魔法陣のお陰で右足のふくらはぎを貫かれただけで済みました。
「シラユキ!しっかりして下さい!」
「エル……シア……」
「もう少し頑張って下さい!今安全な場所に向かってますから!」
全速力で魔道昆を飛ばす私も、既にかなり疲弊していますが、彼女の容体は深刻なんで死に物狂いで進んでいきました。
「確か……この方向から行けば近い筈!。……シラユキ!聞こえてますか!?」
「……えぇ」
「何か話して意識を保ってて下さい!」
「……えぇ」
力なく返事をした彼女は、私の首元に手を回すと、急に泣き出しました……そりゃあんな目に遭えば泣きたくもなりますよね。
さて、私の意識も朦朧としてきましたが、やっと目的地が見えてきました。
「お願いです……気付いてっ!」
私は誰かに気付かれる様にありったけの魔力を放出しながら、ピラミットの残骸がある場所に突っ込みました。
急いで魔道昆を降りた私は、テントを速攻で建てると、その中に彼女を寝かせて治療を始めました。
幸い急所になりそうな場所は全て外れているんですが、内出血や脱臼などが至る所に確認できます。足の指も何本か折られてるみたいで変な方向を向いてますね。
さて、ある程度の応急処置を終わらせた私ですが、魔力の使い過ぎで瀕死になっていて、そのまま彼女の横に転がると、死んだように眠ってしまうのでした……。
〇
次に目が覚めた時、私の目の前には赤い髪を垂らした女性がぼやけて映りました。
「……気付いたか。全く、君は無茶を言うだけじゃ無くて、本当に無茶をするんだな」
私の頬を優しく撫でる柔らかい手を何となくつかんだ私は、甘える様に手繰り寄せると胸の前で抱きかかえて再び眠ろうとしました。
「待て待て、ちょっと離して」
声の主にチョップされた私は、一気に脳が覚醒して起き上がりました。
「おはよう、エルシア」
「ユナさん!気付いてくれましたか……助かりました」
「あぁ……彼女の中途半端だった応急処置も済ませたよ。今は近場の川に体を洗いに行ってる所」
「そうですか……良かった」
「彼女……結構重症だったけど、何があったの?」
私は事の経緯をユナさんに話しました。
険しい顔をしながら聞いてた彼女は、私の頭を撫でながら褒めてくれました。
「最悪の街だね、エルシアの行動は正しい物だと……あたしはそう思うよ。良く頑張った」
「ありがとうございます」
そんな事を話してると、シラユキがテントに戻って来ました。
「エルシア!良かった……気が付きましたのね!」
「ご心配をおかけしました。ユナさんもありがとうございます」
「あの魔力の放出量は尋常じゃ無いからね、そりゃ心配もするよ」
「……さて、シラユキ。どうして貴女は処刑されそうになっていたんですか?」
私が質問を投げかけると、彼女はその場に座って、ゆっくりと口を開きました。
「……わたくし、ベルギウス家を裏切ったんですの」
「えぇ!?どうしてですか?」
「……やはり叔父様の事は意図的に隠ぺいしてたんですの。エルシア達を本当の悪として認識させる為に。それが許せなかった!エルシアが叔父様を討ったのは当然の行動ですわ!だから……」
「つまり君は、自身の家族を敵にするって事かな?」
ユナさんがそう聞くと、少し表情を暗くしながら頷きました。
「成程ね……大した子だよ」
「えぇ……」
「後一つ、エルシアに話さないといけない事がありますの」
「何でしょう?」
「ベルギウス家の本家、叔父様の兄が貴女の命を取る様に命令されて、追い掛けているという話を聞きましたわ。……わたくしを処刑しようとしてた黒い甲冑の方がそれですわね。あのお方は一応魔法も使えますし、旧世界の武器も所持している……危険な人物ですわ」
「あの甲冑が……だとすると私の魔力を追って此処まで来るのも時間の問題ですね……。受けて立ちましょう。ベルギウスの本家は私の敵です!」
「なら、あたしがもう一度特訓してあげるよ。二人同時にね」
「え?」「わたくしも?」
「覚悟してな、度肝抜く程の必殺技だから」
こうして、私たちは来るべき日に備えてユナさんに訓練してもらうのでした……。
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