6節 闘技場と、厄介な空中戦と、私の奇策
はい、私です。アホ毛が大人しくって暇すぎるエルシアです。
現在私たちは、シャディさんを探しながら南の最果てを目指しています。目指しているんですが……なにこれ?。
「おぉっと!エルシア選手!余裕なのかっ!?一切構える事無く佇んでいるっ!」
国内最強決定戦とこれでもかって程にでかでかと掲げられた看板を中心に、大きな円形状の観客席が築かれています。そしてその中心は、決闘者が汗水流して戦い競い合う闘技場があり、何故か私はその中心で、むさいオッサンの相手をさせられているのです。
「あの……エレナさん?私は何をさせられているんでしょう……?」
「まぁまぁ、優勝賞品が欲しいのですよね?私は商品のついでで付いて来る賞金が欲しいのですよ」
「いや……こんな面倒な事をしてまで欲しい訳じゃ無かったんですが……」
私は入場口付近でお子様ランチの旗を持って応援してくれているエレナさんに問いかけましたが、痺れを切らしたオッサンが私に攻撃を仕掛けようと突っ込んで来ました。というか何でエレナさんはお子様ランチの旗を持っているんでしょうね?。
「はぁ……仕方ないですね。とりあえず後で話を聞くんで、今はこの人をぶっ飛ばします。……ぶっ飛ばして……良いんですよね?」
「えぇ!ドカンとやっちゃってくださいっ!!」
何だか楽しそうで何よりです。あんなに輝いてニコニコと笑ってるエレナさんは初めて見るかもしれないです。可愛らしい顔をしてますねぇ。
「さて……ぶっ飛ばしますか」
私は正面から突っ込んで来るオッサンの懐に飛び込むと、相手の勢いを殺さないまま受け流して、更に体制を崩させて地面に埋め込んでやりました。これは武伝さんから教わった合気の応用です……多分成功してるんですよね?オッサンは地面にめり込んで動かなくなったし。
「し……勝負ありーっ!!エルシア選手、1撃で仕留めたぁ!!強い……強すぎますっ。14歳の少女とは思えませんっ!!」
周りの観客からも歓喜の声が上がっています。まぁこれ位は問題無いですね……どう考えてもノヴァさんやユズの方が強かったですし。
さて、1試合目を終えた私は、さっさと裏方に戻って、どうして闘技大会になんか出場してるのか思い返してみました……。
〇
あれは数時間前、私たちは食料の補充にかなり大きめな国に寄ったんでした。大きな国って事もあって品揃えは良く、何を買うか迷っていました。まぁレトルトうどんを買ったんですけど。
そんな時、私はある物に目が留まりました……ライフルです。どうやらこの国は地下資源が豊富らしく、かなりの数の石炭が積まれた荷車が行き来してるほどでした。恐らくこのライフルも、地下資源と共に掘り出された物なんでしょう。しかし骨董品の割りに状態も良く、少し手入れすれば撃てるんじゃないかと思える程に綺麗な状態でした。
「ライフル……ですね。エルシアはあれが欲しいのですか?」
「えぇ……ですが売り物では無いんじゃないですか?」
「いえいえ、もしかしたら手に入るかもしれないですよ?行きましょう」
「え?ちょっとエレナさん?引っ張んないで下さいよ」
そんな感じで連れて来られたのは、この闘技場の受付口でした。
「二人参加でお願いします。えぇ……彼女は優勝賞品が……私?……私は賞金が……」
窓口のお姉さんと話し始めるエレナさん。おーい……私が置いてきぼりだぞー。
しかし私の心の声に気付く事無く、エレナさんは数十分に渡って、お姉さんとお話を続けるのでした……。
暫くして戻って来たエレナさんは、私の腕に謎のブレスレットを巻き付けてきました。何かの番号が書かれているんですが、この時の私には、この番号がエントリーナンバーだなんて微塵も予想が付きませんでした。
「ふぅ!!説得に苦労しました!!」
「はぁ……お疲れさまです?」
「さて!!ライフルの取得とお金を目指して頑張りましょー!!」
「お?おぅ……頑張って下さい」
何を頑張るのか分かっていなかったんですが……この時にしっかり何を頑張るのか聞いていたら、こんな事にはならなかったのかもしれませんが……まぁ起きちゃった出来事は仕方ないですね。
そんな感じで、私は闘技場に決闘者として出る事になってしまったのでした。
〇
「あれ?まだここに居たんですか」
フッと我に返ると、エレナさんがそこには立っていました。闘技場方面からは歓声が聞こえてきます、そしてエレナさんに塵の1つも付いて無い所を見ると完勝だったようですね。
「お疲れさまです……どうしてこんな目に遭ってるのかを考えてたら、随分と時間が経っていたみたいですね」
「ふふ……すいません、何だか無理に付き合わせちゃった見たいで」
「別に良いですけど……今度からしっかりと説明して下さいね?」
「はい、気を付けます」
そんな感じで話を終えた私たちは、次々と相手を地面にめり込ませて、とうとう決勝戦まで勝ち進んできました。そんな私の相手は……勿論エレナさんでした。彼女の戦い方は至って魔女らしいものです、空を箒で飛びながら、風で押し潰したり吹き飛ばしたり、時々凍らせたり燃やしたりしてました。要は空中戦になりそうです。
「さぁ!!これにて試合もクライマックスだっ!!青の陣……エルシア選手っ!!」
その声を聞いて入場した私は、慣れ切った歓声に手を振って答えると、エレナさんの入場を待ちました。
「そして赤の陣……エレナ選手っ!!」
エレナさんも笑顔のまま入場、観客には目もくれずに私の前までやって来ました。
「エルシア。私、殺し合いは嫌いですけど……戦うのは結構好きなんですっ!!ついでにお金も好きです!!」
「えぇ、見てれば何となく分かりますよ。それにお金は裏切らないですからね……私も好きです」
「だから!!手加減抜きで精一杯戦いましょうっ!!」
「お、おぅ……お手柔らかにお願いしたいもんですが」
そんな話をしていると、遂に試合のゴングが鳴り響きました。
さてと、彼女との戦いですが、地上に居ては不利なんで私も飛ぶとしましょう。ですが飛んだ後の攻撃手段が雷球か
そんな事を思いながら上空に魔道昆で飛んだ私は、思いがけない風の流れに振り回されて地面に落ちてしまいました。幸いにも魔法の羽で降下したんで無傷ですが、今のは違和感のある風でしたね……まさか!!。
私はエレナさんを見上げました。そこには満面の笑みで戦いを楽しむ姿のエレナさんが、箒に座りながら右手で小さな杖を持ってる姿が映りました。そしてあの小さな杖、あれに魔力を少しですが感じますね……って事は今の風はエレナさんが起こした物で間違いないでしょう。つまり私は飛んで戦えない……。
そこからの戦闘は、もはや戦いとは呼べない程に一方的な攻防が続きました。地上に居ても私の攻撃は届く事は無く、空中に飛べば風の魔法で速攻落とされて、ぶっちゃけ成す術無しって状況です。
ですが1つ分かった事もあります。エレナさんの魔法は連射が出来ないみたいで、私を空中から落とす時、若干ですが溜める時間が発生してるんです。ですがそれが分かったとして、結局何も出来ないんですが……。
でも諦めたく無かった私は、もう一度空中に飛んで、エレナさんが再び風を巻き起こすのを待ちました。そして彼女が溜めの動きに入った瞬間、私は手の平に魔法陣を展開し、そこから1発の弾丸を射出しました。
私の放った弾丸は、彼女の杖に直撃。しかしその瞬間、私の前には風が発生して再び落っこちてしまいました。ですが今回は、ただでは落ちませんよ。
「――っ!?」
体がフラついたエレナさんは、私と共に地面に落下。幸いにもお互いに滑空する術があったんで無傷ですが、ようやくエレナさんを地上に下ろす事に成功しました。
「腕に……鎖が巻き付いてる!?」
「ふふっ……ようやく捕えました。ここからは私の得意なインファイトで勝負です!!」
私がさっき飛ばした弾丸、それは
周囲を取り囲んで、飛べない様に無限の弾丸を展開した私は、鎖を引っ張りながらナイフで斬り掛かりました。
さぁ、超魔法型のエレナさんは近接戦闘は出来ないでしょう……。この勝負はもらいました!!。
――カシャン。
「……え?」
エレナさんは箒を私の方に向けると、穂先の方から散っていき、中から中心に槍の付いた銃口の様な物が沢山出てきたんです……うっそー。
「照射っ!!」
彼女がそう叫ぶと、私の視界いっぱいに白い光が溢れ出し、気が付いたら倒れていました。今のは魔法の類でしょう……結構強い魔力を感じました。
「し……勝負ありっ!!勝者はエレナ選手です!!何が起きてるのか分からず、実況が出来ませんでしたっ!!」
周囲からは歓声が上がっています。エレナさんを褒め称える声だけかと思いきや、意外にも私に対する慰めや褒める言葉もチラホラと聞こえて来て、何だか嬉しかったです。
暫く転がっていると、エレナさんが近付いて手を差し伸べてくれました。
「随分とせっかちな実況ですね……エルシアはまだまだやれたのでしょう?」
「えぇ……ですが奇策はアレしか無かったんで、結果は同じだと思いますけどね」
私はエレナさんの手を取って立ち上がると、共に賞状や賞金、商品を貰ってその場を後にしました。
〇
「はい、これあげますよ」
闘技場の国から出て、戦利品を整理しながら歩いていた私たちでしたが、急にエレナさんがライフルを投げ渡してくれました。
「……良いんですか?」
「えぇ、欲しかったのは賞金だけですし。それに私は銃が好きじゃないので」
「そうですか、ありがとうございます」
私はライフルの弾丸が入っていないのを確認すると、魔法の弾丸を作り出して装填し、斜めにベルトを通して背負うと再び歩き始めました。
さて、変な道草を食ってしまった私たちですが、エレナさんの強さも確認出来たし、お金もライフルも手に入ったんで、無駄な道草では無かったですね。そろそろ先に進みましょう。
こうして私たちは、南に向かって飛び去って行くのでした……。
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