7節 偽物の私と、追い込まれる私たちと、心の歪んだ親玉

 はいどうも、私です。そろそろ別の挨拶を考え始めてるエルシアです。


 エレナさんと旅を始めて数日、私たちは着々と南の最果てに近付いて来ていました。何か大きなトラブルが無ければ良いんですが…。というか何で私はフラグを建てる様な事を口走ってるんでしょう……?。


「あれ?エルシアが二人います……」


「え?何言ってるんです?」


 私はエレナさんが指を指す方角を見ました。


 えぇ、確かに私です。挙動不審な動きをする私が二人います。アレって王都を出て直ぐに出会った私(敵)ですよね……何で増えてるんでしょう?。


「エレナさん……。アレに見つかると何故か殺そうとして来るんで、気付かれない様に迂回しましょう」


「分かりました。……あの動き、クネクネ感が凄いですね。怪異の域に達した動きですよ」


「えぇ、ちょっとキモいです……」


 私たちは無駄口を叩きながらも、気付かれない様にそっと離れてから、空に飛びあがりました。それでも気付かれる可能性を考慮して、出来るだけ低空飛行で飛んでいます。


 ふぅ、今回はアホな私(敵)を相手せずに済みそうですね……そんな事を思った瞬間でした。


 ――バシュン。


 何かが空を飛ぶ私たちの足元を通り抜けていきました。そしてその風圧で体制を崩した私たちは、地上まで落下していくのでした。


「今の何です!?」


「あれは……風の初級魔法ですね」


 滑空する私たちは、周囲を警戒しながら地上まで降り立つと、そのまま戦闘態勢に入りました。魔法が飛んで来たって事は、敵に私たちの位置がバレてるって事になります。面倒だし敵の戦力も把握出来ていない状況で戦いたくは無いんですが、魔法で遠距離攻撃が可能みたいですし逃げるのは得策では無いと判断したんです。


 少しすると、遠くから私(敵)が大斧や大鎌、大剣等の重量級の武器を持って突進してきました……また増えてますよ。


「エルシアって姉妹が多いのですか?」


「まさか……。私は一人っ子ですよ、多分」


 そんな風に話していると、大剣を持った私(敵)が斬り掛かってきました。


 私は斬撃を軽々と回避、魔道昆を振りかぶって勢い良く殴り掛かりました。


「あぁ!?しまった!剣が重すぎて斬り上げられませ――」


 ――ゴイ~ン。


「前にも同じ事言ってたでしょう!!学習して下さいよ!!私が馬鹿みたいじゃないですか!!」


 私が一発殴ると、私(敵)は行動停止、直ぐに溶けて赤い液体になっていきました。


「溶けた……?。まぁ生命力は低いみたいですね」


 エレナさんも私(敵)が溶ける事を確認すると、広範囲に多種多様な魔法を撃ち放ちました。


 爆音と共に残り二人の私(敵)が弾けながら液体に変化していくのが確認できます。凄い火力ですね……闘技場では手を抜いていたって事なんでしょうけど、どうして私の周りには強い人しか集まらないんでしょうか?。


「ふぅ!!久々に吹き飛ばしました……スッキリです」


「お疲れさまです。流石にもう居ないとは思いますが……あ」


 周囲を見渡す私の視界に、私(敵)とエレナさん(敵)の姿が映りました。……しかも大量に。まさか私以外にエレナさんも出て来るとは……もしかしてさっきの風魔法は彼女が飛ばして来たんでしょうか?。


「……まだまだ沢山居ますね」


 まぁともかく、私たちは偽物の私たちと戦わざる負えないみたいですね。


「はは……面倒ですねぇ。サクッと終わらせて先に進みましょう」


「そうですね。早くシャディと会いたいですし、蹴散らしましょうか」


 こうして私たちは、自分たちの偽物に魔法を撃ちながら、正面から突撃していくのでした。



 それから数時間後、私たちは未だに偽物と戦っていました。どういう訳か倒しても倒しても際限無く湧いて来るんですよね……。


 私は正面から飛んで来る斬撃を回避する為に、後ろに大きく飛びました。


「おっと!!」


 着地の際に体制を崩した私に、偽物が群れを成して突撃してきます。しかし私に斬撃が当たる直前に、エレナさんが魔法で助けてくれました。


「すみません、助かりました」


「はぁ……はぁ……どういたしまして。エルシアは……まだ戦えそうですか?」


「えぇ……ですが心身ともに限界ギリギリですけどね。エレナさんは?まだ行けます?」


「……正直、もう限界です。魔法も今ので撃ち止めですね」


「そうですか……」


 私たちが自分たちの状況を確認している間も、偽物たちは攻撃を仕掛けてきます。そろそろナイフが壊れそうですし、魔力がカツカツで弾き飛ばされた魔道昆も回収出来ない、ライフルも弾切れ、おまけにショーテルは倒した敵と一緒に近くの湖に沈んでしまっています。「絶」で止めようにも敵の数が多すぎて、動きを止める事は出来ないですし……詰んでません?。


 そんな時でした、エレナさんは死角から飛んできた攻撃を捌ききれずに、箒を弾き飛ばされてしまいました。そして敵の追撃……後ろに飛んで避けれた筈なのに、何故かエレナさんは避けずに、後ろを向いて背中を斬られてしまい、そのまま転がっていってしまいました。


「エレナさん!?」


 彼女の元に助けに行こうとした私でしたが、自分の事で手一杯なのに誰かを見る余裕はありません……。


「エレナさん!!起きて!!……ぐぁ!」


 エレナさんへの声かけに夢中になっていた私は、鋭い風魔法で腕を貫かれてナイフを落としてしまいました。そして武器が完全に無くなった私を見て、チャンスだと思った敵が、ここぞと言わんばかりに押し寄せて来て、あっという間に私は取り囲まれて、あらゆる武器で殴られたり斬られたり刺されたりしてしまいました。


「ぐはっ……あぁ!!、エレナ……さん!!…起きてっ!!」


 そんな時でした、突然左腕が動かなくなると同時に、激痛が私の左半身を駆け抜けました。


「ああぁぁあっ!!……腕がっ!!」


 色々と大変な体験はしてきましたが、流石にもう駄目だ……そう思った時、私に奇跡が起きました。なんと私に群がっていた偽物たちが、一瞬にして活動を止めて私に倒れ込むと、溶けて消えてしまったのです。


「……え?」


 私は痛みに意識を失いそうになりながら、目の前に立ってる人を見ました。


「ノヴァ……さん……?」


「酷くやられてんな……大丈夫か?今止血する」


 彼は私の左腕の方に手をあてがうと、治療を始めました。……怖くて見れていないんですが、この感覚……多分肘から下が斬り落とされたのかもしれないです。


「よし、とりあえず応急処置程度だが終わったぞ」


「ありがとうございます……どうして此処に?リンネさんは?」


「話は後だ……まずは雑魚を蹴散らす」


 ノヴァさんは蒼月刀を展開させると、ぞろぞろと迫って来る私の偽物を見て、小さな声で呟きました。


「これは……泥人形の類か?だとすると見える位置に親玉が居る筈だが……そこか!!」


 彼は蒼月刀を飛んで来た偽物に投げつけて倒すと、コートの裏の後ろ腰に手を回して銃を取り出し、湖の中に連射で撃ち始めました。


「ノヴァさん!?いったい何を……」


「黙って見てろ。そら、コイツが泥人形の親玉だ」


 彼がそう言うと、湖の中から大きな蜘蛛の様な見た目の怪物が現れました。


「お前、何者だ?この技術を何処で手に入れた?」


「僕はフェンズ・ベルギウス。この技術はベルギウス家に保管されてる禁書から得たのさ」


「どうしてエルを襲ったんだ?」


「彼女はベルギウス家から抹殺命令が出ている。だがそれとは関係なく、僕はこの容姿の人形が欲しかったんだ。出来れば暖かくて、瞳に光が差している、本物の人形がね。ついでに向こうで倒れてる女も人形の素体として見れば悪くない……だから泥人形に彼女達の四肢を奪えと命令したんだ。捕まえた後に抵抗されても嫌だしね」


「……どうやって私や彼女の分身体を作ったんですか?」


「簡単な事だ。DNAの一片でもあれば作れるのさ、その為には髪を奪うのが最も楽で、そこから数百体は作り出せる」


 数百って……マジですか。


「さて、今回は邪魔が入ったし、これにてお暇させて頂くよ。それじゃあね、僕のお人形さん」


 奴は私の事を見ながらそう言うと、溶けて消えてしまいました……。


「あの蜘蛛野郎……なかなか歪んでんな」


「ノヴァさん……助けてくれて、ありがとうございました……」


「気にすんなって……エル?」


「……」


「おいおい……死にかけてんじゃねぇよ。ちょっと待ってろ、今から本格的な治療を始める」


 こうして何とか奴を退く事が出来た私たちでしたが、私は意識を失ってしまいノヴァさんの腕の中で生死の境を彷徨うのでした……。

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