18節 決着と、後悔と、見出せた希望

 はいはい、私です。


 気力切れみたいなのを起こした私は、比較的安全な建物で寝かせられていました。何だか毎回術式を持った相手には1回で勝てない気がしますね……。


 外では凄い爆発音と、地面から強い衝撃が伝わって来ます。


「早く……起き上がらなきゃ」


 私は体に鞭を打って起き上がると、外の状況を確認しながら例の謎スイッチを取り出しました。私の好きなタイミングで使って良いんですよね?ちょっと様子見をしてから使いましょう。


 そして外を覗いてみると、どうやら人形のスペアが居たみたいで大混乱が起きていました……まさに大乱闘状態です。


 安全な場所に居た筈のリノリスも、何処から上がって来たのか複数の人形と戦っていて、殆ど神がフリーな状態になっていました。という事は私がダウンしてから今までの間で神に与えられたダメージはほぼ0という事でしょうね……。


「仕方ないですね……何故かこのスイッチを押す事に躊躇いを感じるんですが、今はそんな事言ってる場合じゃ無いです」


 私は外の様子を窺いながらスイッチを押しました。……押してしまいました。


 カチッ。


 安物の機会が発しそうな音を立ててスイッチが起動した瞬間、周囲の明かりが全て消えて、あらゆる場所で爆発が起き始めました。


 そしてその爆発は北ブロックの壁を吹き飛ばし、私には馴染み深いお天道様が顔を出したのです。


「コレってまさか……爆弾のスイッチだったんですか?」


 私は日の光を見ながら呟きました。


 しかし、これが爆弾のスイッチでない事が直ぐに分かりました。


 人形が……残骸と化したアンドロイドが……外と同じく爆発し始めたのです。……そしてリノリスも。


 バァン。


 破裂音を立てながらリノリスの胸部付近が爆発しました……このスイッチってまさか、爆弾じゃ無くて機会を……。


 自身のしてしまった事に呆然としていると、無線に連絡が入って来ました。


「エルシア……最高のタイミングだったぞ。……これで神は術式が使えない、人形もウイルス混入で各パーツが爆発、北ブロックも同じ原理で崩壊を始めた……君の勝ちだ」


「ごめんなさいっ!これじゃあ貴女たちまで……!」


「良いんです、エルシア様……初めから覚悟の上で、この作戦に参加していたんですから」


「どういう……事ですか?。リノリスはこうなる事が分かっていたんですか!?」


「このウイルスを作ったのは私だ……アンドロイドにはデータ送信で作戦の内容を伝えていた。だがリノリスの提案で機械を破壊するウイルスの存在を君に隠す様に頼まれていたんだ。……今になって理由がわかったけど、君は優しすぎるのかもな」


「そんな……リノリス、貴女は私の家に来るって言いましたよね。ミュエールと共に私の素行を見張るって……そう言いましたよね。……嘘、だったんですか?」


「……貴女と共に行きたかった、それは本心です。ですが、どんな形であれ主の成すべき事をお手伝いするのも従者の役目なんです。だから……此処でお別れです。人間の様に言うなら、天国で見守っていますよ……と言った所でしょうか」


「駄目です!許しませんっ!命令ですリノリス!お願いだから……逝かないで……!」


 私はスイッチを起動させてしまった事を後悔しながら、彼女の名前を呼び続けました。


 しかしブロックが破壊されて空が広がってくるにつれて、徐々に通信環境も悪くなっていき、最終的に何も聞こえなくなってしまいました……。


 本当はもっと泣いていたい……自分の浅墓な行動を呪いたい。でも、ずっとこのままじゃ本当にリノリスから怒られそうなので……辛いけど立ち上がって、最後に1発神にお見舞しに行きました。


「エルシア!何をした!?」


「答える気はありません……そして申し訳ないですが、私の八つ当たりでブッタ斬られて下さいっ!」


 私は心象結界に神を閉じ込めて、ありったけの魔力で雷球と無限の弾丸を飛ばしました。


 私の異常なまでの殺気に気付いた神はその場から離れようとしますが、逃がす訳無いです。鎖の弾丸で両足を固定して地面に叩き落しました。


 そして大量の攻撃で動きが鈍くなった神に対して、魔力を纏わせた鎌を振りかざした私は……。


 ザシュッ。


 一気に振り下ろしました。


 ザシュッ、ザシュッ。


 何度も何度も振り下ろしました。


 ズシュッ、グシュッ。


 悲鳴が聞こえますが、構わず振り下ろしました。


 そして気が付くと、私の両手は真っ赤に染まっていました。


 神から飛び散る鮮血が私の顔に掛かります。


 私は腕で目元を拭くと、心象結界を解除、これ以上攻撃したら殺してしまうので逃がしてあげる事にしました。殺さない理由は、既に彼女は戦意を喪失していて、私の障害にならないと判断したからです。


「神様……1つ忠告です。人間を舐めない方が良いですよ」


 私はそう言い残すと、リノリスだったアンドロイドの残骸を抱き上げて、他のお世話になった彼女たちの残骸に対してお辞儀をすると、その場を去るのでした……。



 この出来事から1週間後、私は北の最果てだった場所に出てきました。


 想像以上に魔力を使ってヘトヘトだった私は、休みながらリノリスを修理できるパーツは無いかと探していたんですが……どれも駄目みたいでした。


 そしてリノリスの修復を諦めた私は、今此処に立っている訳です。


「さて、王都に戻ったら情報を色々と整理しないと……。沢山の出来事があったから纏めるのが大変そうですねぇ……」


 大きくノビをした私は、深呼吸をすると気合を入れて頬をペチッと叩きました。


「よし!それじゃあ帰りましょうか……リノリス、ミュエール」


 私がそう呼びかけますが、返事をする者は何処にも居ません……しかし。


 ガチャ……。


 私の背中で蠢く何かがありました。それは紛れも無くリノリスとミュエールの姿でした。


 内部を直す事は出来なかったんですが、せめて外見だけども直そうと思って修理したら、私の声に応えて動くようになったんです。


 その事に希望を見出した私は、ノヴァさんに頼んで修理をしてもらおうと、そう思って連れて来たのでした。


 背中がかなり重いですが、それでもこれは嬉しさや希望の重さだと思うと、なんて事は無い気がしてきました。


 こうして私は……いや、私たちは、王都に家に帰る為にボロボロの魔道昆に座って飛び立って行くのでした……。

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