6節 探偵と、外道な国王と、殺意に駆られる魔女

 ども、意味深な不正を暴く探偵、エルシアです!。


 ……お前はいつから探偵になったんだよって?ただの魔女だろって?うっさいですね!私が探偵と言えば探偵なんです!。さぁ今日も張り切って国民を騙す嘘を暴いていきますよ!。


 ……とは意気込んだものの、私って実質指名手配されてる状態なんですよね。とりあえず変装で誤魔化してみますか。



 という事でお洋服屋さんに来ました、何なら良い感じの服を買って更衣室で着替えてる最中です。


「うぐっ!?く……苦しい。何でリボンってこんなに締めなくちゃいけないんですかね?」


「その方がスタイル良く見えるからですよ、特に貴女は綺麗な髪を持ってるからとっても美しくなると思います」


 ぐいぃぃ。


「うげぇぇ!?」


 その後、更衣室から店員さんと共に出て来た私は、死にそうな顔をしてたと思います……。


 とはいえ、このドレス、結構好みな感じですね。ここだけでしか着ないのはもったいない気がします。因みにこの服をチョイスした理由は、若い女性の多くがこの服を着用してたからです。


 現在の私の恰好は、髪を後ろでお団子に結んで、カラコンで目の色を赤くして、ドレスの上からチュールスカートを穿いて、ハイヒールの靴を履いた感じのスタイルです。……別にパーティーに行く訳じゃ無いですよ?。


 さて、着付けに散々苦しんだ訳ですし、そろそろ探偵を始めましょう。


 まずは兵士の前に立ってみて、私が誰かバレないのを確認すると、魔力を目に集めて色々と確認してみました。


 魔力を宿した目には、空気中に漂う魔力の残滓が見えます。そして魔力の残滓は、人の体から別の何かを吸い出しながら、あの光に吸い込まれていました……普通の人が持つ魔力に変わるエネルギーと言えば生命力です……。


「やっぱり……。あの光に国民の生命力が吸われてる……後はどうして国王が復活したのかを確かめて、魔法モドキの装置を破壊するだけですね」


 最初に国王の復活した理由を探る為に、私は再び王城に近付きました。


 でも今回は不法侵入では無く、正面から堂々と入ります。この国では昼間の内は王城を開放しているので、結構侵入は容易いんですよね。


 さて、王城内に潜入した私は、国王の秘密を探る為に彼の寝室を見張ってた兵士を気絶させると、バレない場所に隠してこっそりと入りました。


 そしたら何と、国王の野望を書き連ねた日記がデスクの上に置きっぱなしになってるじゃないですか……罠ですかね?。……というか野望ノートって安直すぎません?。


 まぁ罠だとしても見るしかないんで手に取りますが、警戒は一切緩めません。


「えっと、なになに……うわっ!」


 私が国王のノートを手に取ってページを開いたその瞬間、大量の魔力が溢れ出してきました。


 魔力を目に集中させなくても見える程の魔力の残滓……これは国王に気付かれるのも時間の問題ですね、さっさと読んで撤収しましょう。


 一通り目を通した私は、動揺を隠しきれないまま城を脱出しました。一応まだ気付かれて無いみたいですね。



 その後の私は、こっそり宿に戻ると、国王が大々的に生き返るのを待ちました。


 ノートに書かれた事が本当なら、国王は今まで何度も生贄を自身の姿に似せて殺し、奇跡と称して生き返っていた事になります。……実際国民も王は何度も生き返るみたいな事を言っていましたし、これは事実なんでしょう。


 そして国王が持つ伝統的な杖には、魔法モドキを行使する機能が埋め込まれているらしく、その杖を使って光や色々な奇跡を起こしていたんだとか……寝室に置きっぱなしになっていた杖は見たんですが、あんまり趣味が良いデザインでは無かったですね。


 しかもこの国王、あろう事か国民を魔法で催眠術にかけて、自身の行動が万が一バレても正当化できるように準備してるみたいです。


「……そんな事の為に国民の命を使うなんて……やっぱり許せないですよね」


 部屋で国王の寝室にある魔法モドキを破壊して、国民の催眠を解いた後に、彼を王の座から降ろす作戦を考えていると、何やら外が騒がしくなっていますね。……始まりましたか。


 私は部屋を出ると、誰にも気付かれない様に国王の寝室に侵入し、魔法モドキを破壊しました。その際に何人かの兵士を蹴散らしましたが、命に別状はない筈です。


 さて、外では国王の復活を称える声から、急に明かりが消えた事に対する不安の声に変わっている様です……仕上げに国王をの悪事を暴露して国を出て行きましょうかね。


 鎌を手に持った私は、寝室の窓を突き破って近場の尖がった天井の上に着地して、ゆっくりと顔を上げて国王を見ました。


 おぉ、国民全員が私を見てます……中でも国王の表情は、鬼の形相と言う言葉が似合う程おっかない顔をして見てますね。


 そんな国王に、私は勝利宣言をしました。


「魔女を……私を殺せなくて残念でしたね。貴方の負けです」


「貴様が……魔女か!」


「えぇ、あんな偽りの魔法を奇跡と呼ぶなんて片腹痛いです。それに……人の命を使って魔法を発動させるとか、貴方ふざけてるんですか?」


 国民の中でもざわめきが生まれ始めてます、後もう一押しでしょうか。


「国民の寿命が短い理由……それは貴方が部屋に隠してる魔法を発動させる装置のエネルギーを取る為に国民の生命力を吸ってるからでしょう?貴方の下らない復活劇も無駄にエネルギーを消費して奇跡を演じてるだけで、身寄りの無い人を殺して自身の姿に似せる魔法を使って死を偽装しただけです」


 国民から王にブーイングの嵐が起きてます。しっかりと催眠が解けた証拠ですね。


「でも、そんな下らない事は終わりです……装置は破壊させてもらいました。魔法の使えない貴方は無力です、さっさと国民に懺悔してボコられてきて下さい」


 それだけ言って飛び去ろうとした私の耳に、何やら不敵な笑い声が響いてきました。


「ウハハハハ!それがどうした!?此処は私の国だ!私が国民をどう使おうが勝手だろう!」


「……貴方、本気でそんな事言ってるんですか?」


「当たり前だ!降りて来い!私直々に斬り捨ててやる!おい、そこのお前!」


「はっ!」


「私の為に死ね!」


 国王がそう言うと、杖の先から兵士の命を吸い取るのが見えました。あの杖にも魔法モドキを使える機能があるみたいですね……。


 命を吸い取られた兵士はミイラ状態になって死亡、国王はその生命力で剣を作り出し、私に剣先を向けてきました。


「貴方……正真正銘のクズですね」


 私は空中から鎌で国王に斬り掛かりました。


 ガキィィン。


 金属がぶつかって弾け飛ぶ音が鳴り響くと、国王の剣はバラバラに砕けてしまいました。


「まだだ!」


 他の兵士から生命力を吸い取った国王は、振り上げた手に斧を作り出して、勢い良く振り下ろしてきました。


 私は爆魔拳で斧を粉砕すると、吹き飛んだ国王にトドメを刺そうと鎌を振りかざして接近しました。


「今度こそ、これで終わりです!」


「止めてっ!」


 あともう少しで国王の首を取れそうな所で、誰かが私の前に飛び出してきました。


 驚いた私は、とっさに手を止めたんですが、間に合わずに胸に鎌の先端が食い込んで血が垂れてきていました。


「貴女は……王女様?急に出てきたら危ないじゃないですか」


「お願い……お父様を殺さないで」


「……そいつは我欲の為に人の命を弄んだ悪人ですよ?」


「だとしても、私の父親なの」


 彼女の声に感化されたのか、国民も私から王を遠ざける様に立ち塞がると、敵意を剥き出しにしてきました。


「そうだ……どんな奴だとしても、この人は俺達の王なんだ!」


「寿命なんてどうでも良い!俺達に寄り添ってくれるこの方こそ俺達の王だ!」


「なっ……!正気ですか?貴方たちを利用してたんですよ!?」


 私の声は誰にも届いて無い様で、皆ブツブツと呟くと、その内の一人が私に石を投げてきました。


「コイツは敵だ……殺せ!」


 その声に便乗する様に、他の国民たちも私に石を投げつけてきます。


「コイツは王を陥れようとする悪の魔女だ!殺せ!」


「殺せ!」「悪の魔女に鉄槌を!」「処刑だ!コイツを処刑するんだ!」


「ちょっと待って下さい!このまま無意味に殺されても良いんですか!?」


「うるさい!王の為に命を捧げるなら本望だ!死ね!悪の魔女め!」


 彼の投げた石が私の頭部に命中しました……額の右側を血が流れ出ていきます。


 そんな中、私は人間に対する絶望と怒りに震えて、その場で俯いたまま立ち尽くしていました。


 この人たちは逃げているんです……。自分の王がいたずらに命を奪ってた事実から、逃げる為に真実を突き付けた私を殺そうとしてるんです……。


 ……本当にそんな人たちを救う事に、意味なんてあるんでしょうか?。


 いっそ国王諸共、彼等を殺してしまった方が後の為になるのではないでしょうか?。


 そんな殺意に駆られていると、王女様が国民に大声で話し始めました。


「皆の思い、私が聞き入れた!しかしこの魔女は他所の国の者だ!我々に裁く事は出来ぬ!……よって魔女をこの国より追放して終いとさせて貰う!」


 そう言った王女様は、立ち尽くす私にハンカチを持って近付くと、殺気を帯びた私の視線に怯えた顔をしながら血を拭いてくれました。


「ごめんなさい……こちらへ」


「……えぇ」


 私は荷物を纏めた後に王女様に連れられて国を出ると、再び王女様に謝られました。


「本当にごめんなさい……魔女様のしてくれた事は正しいんだと思います。でも父を殺してほしく無かったんです」


「……因みに貴女たちは王の野望を知ってるんですか?」


「私は知っています……。先日父があの装置から出て来た日、たまたまノートの中を見てしまったのです。父は自信を不老不死にして大きな国を作ろうと画策していたんですよね?……最終的に反対するであろう私を殺してでも」


「えぇそうです……貴女は死にたいんですか?」


「そうでは無いのですが……魔女様に父を殺される訳にはいかなかったのですよ」


 王女様は私に怯えた表情のままそう言いました。……もう関わりたくありませんし、私は王女様に名前を聞かれましたが、答える事無く魔道昆に乗って国を後にするのでした……。

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