5節 明るい国と、嫌な感じと、奇跡の灯

 どうも、私です。


 私は今、ユナさんから教えてもらった「夜も明るい国」と言う場所に向かって飛んでいます。しかし夜も明るいとはどういう事なんですかね?。


 夜の明かりと言えば、松明かランタンか……その位しか思いつきませんが。


 さて、そうこう言ってる内に目的の国が見えてきました。空が少し暗くなっているお陰で国全体が明るい事が確認できます。


「おぉ……本当に明るいですね。特に明るい所……あそこは教会でしょうか?何か大きな十字架がありますね」


 私は光に吸い寄せられる虫の様に、フラフラと国の中に入っていきました。ピラミットから此処まで飛びっぱなしで疲れたんですよ。


 入国して最初に感じた事、それは極度の怠さでした。最初は疲れてるのかとも思ったんですが、国内と国外でこんなに疲労感が違うのは初めてです。……気持ち悪いですね。


 何か嫌な予感を感じた私は、体の周りに薄く魔法の障壁を張りました。ノヴァさんとかヒロキさんが防御に術式を使ってたのの応用のつもりです。小さな怪我程度は防げるんじゃないですかね?あと魔法の攻撃とかも。


 そんな感じで下準備を終わらせた私は、早速宿に泊まりました。今日は疲れたんで買い出しは明日にします、おやすみなさい……。



 おはようございます。今日は買い出しと例によって例の如く、酒場で情報収集します。


 特に面白い事も無いんで省きますが、危険な魔物は昔現れたデッカイ魔物だけ(ユナさんと倒したデッカイ奴)で、古い建物は特に無し。最近の出来事として、この国の王様が亡くなったそうです……しかも昨日。最悪のタイミングで来ちゃいましたね……。


 ……ん?大変な事が起こってるじゃないかって?私には思い入れも無い人が亡くなったって大した話題にはなりませんよ。


 さて、何だかんだで国王様の葬儀に強制参加させられる事になった私は、大して知りもしないオッサンの亡骸に花を添えました。


「(……ん?この死体、何かおかしい気がする……)」


 変な違和感を感じた私は、葬儀終了後に国民に聞き込みをしてみました。


 結論から言うと、ただの胡散臭いお話ばかりが蔓延してました。


「国王様は3度死に、3度蘇った」とか「国王様は神の授けた奇跡を扱える唯一のお方だ」とか「国王様が触れた者は、たちまち傷が癒えていき、国王様の振う剣は、何であれ灰燼に帰す事が出来る」とか……アレですね、旧世界の資料に出て来る神話の類に似た事を此処の王様はやってた事になります。


 因みに国王様の葬儀だというのに、誰一人として泣いて無かった事が疑問だったんですが、今回も生き返ると信じて疑わない国民たちは「王が神にお告げを聞きに行っただけ」と思ってるそうです。随分とアクロバティックにお告げを聞きに行きますね、肉体捨ててるじゃないですか。


 まぁそんな胡散臭さてんこ盛りの国民たちと話してる時、私は興味本位で明かりに近付いてみたんですが……これ、魔法の類ですね。


 近付く私から魔法の障壁を吸収してきたんですよ。入国した時に感じた怠さは、ひょっとすると生命力を吸われてたのかもしれませんね……。その証拠にこの国の平均寿命は30代後半だそうです。


「これって月光花の巨大な魔法版……みたいな感じがしますね。王族は何か知ってるんでしょうか?」


 気になった私は、こっそりと王城に侵入して国王の寝室を窓から覗き込みました……そして衝撃的な出来事を目の当たりにしたのです。


「何ですか……あれ……?」


 外と同じ光源を持つ装置が王様の寝室にありました。そしてその光源の中から……王様が現れたのです。


「……お父様、おかえりなさいませ」


「うむ……国民の様子はどうだ?」


「変わりありませんわ。ただ……先日から旅の少女が入国してるとの情報が入っています」


 あ、私の事ですね。


「それがどうした?入国者が多いのは昔からだろう」


「ですがこの少女……本物の魔法使いかもしれませんわ」


「……どういう事だ」


 私からしてもどういう事なのか説明してほしいです。入国してから目に見える魔法は使用してないですよ?。


「先日急に現れた超大型の魔物……アレを討伐する為に奇跡を使った二人の少女を見たという報告が何件も上がっておりますの。その内の片方の少女が……入国して葬儀にも参堂したとか」


「……マズいな、本物の魔女なら私の奇跡の正体に気付くかも知れぬ」


「えぇ……ですから、この魔法使いと思われる少女を国から追い出すべきでは……」


「いや、殺せ。私の奇跡を……今まで築き上げて来た力を無駄にする訳にはいかぬ!」


「で、ですがお父様……」


「……殺せと言ったのが聞こえぬか?」


「……はい、兵にはそう伝えさせて頂きます」


 あれ?何か私とってもピンチな感じですか?。それにしても国王の焦り方……普通じゃないですね、それにこの装置が本来の魔法では無い事も何となく分かりました。更には自分だけが知る模造品の魔法で国を良い様に牛耳ってるみたいですし……まともな奴でも無いみたいですね。


 そんな事を考えるのに夢中になっていた私は、窓の方に娘さんが近付いて来てる事に気付きませんでした。


「そこに居るの!誰だ!」


 その声にハッとなった私は周囲を確認しました。……やってしまった、ロングカーディガンの裾が、窓の前で風に揺れてました。


「ヤバッ!」


 私はその場から飛び降りると、魔道昆を使って遥か上空まで逃げました。


「……流石に見られてないですよね?」


 本当に気付かれてないかの確認の為に、私は目に魔力を集中させて国全体を見ました。


 そして私は、恐らく気付いてはいけない事に気付いてしまいました……。


 国民の寿命が短い理由……魔法の様な何かを稼働させる動力……その双方に気付いてしまったのです。


 この後の私は、無駄に命を消耗させられてる国民の為に、真相を暴こうとして酷い目に遭うんですが、それはまた次のお話で……。

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