4節 魔法の羽と、鎌と、渾身の一撃

 はい、私です。


 現在私とユナさんは、超デッカイ魔物と交戦中です。


「エルシア!右手が来るぞ!」


「見えてます!腕の軌道を逸らして下さい!」


「全く、無茶を言うな……」


 ドドォォン。


 私の傍を、爆発して煙が上がったデッカイ腕が通り過ぎていきます。


「とか何とか言って、やってくれるのがユナさんの凄い所ですよね」


 私は魔物の眉間に急接近して、魔力を纏わせたショーテルで突き刺しました。しかし魔物は怯むだけで、致命傷を与えるまでには至らなかったようです。


 私を振り払おうと、魔物が頭を大きく振りました。


「うおぁぁぁぁ!?」


 見事に吹っ飛んだ私は、魔道昆に掴まって何とか体制を整えました。しかし魔物の追撃が私の眼前に迫ってきています、これは避けられそうにないですね……ちょっと試してみますか。


 魔物の攻撃が当たる直前、私は魔道昆を大きく蹴っ飛ばして攻撃を避けました。しかし空中に浮かぶ為に使ってた魔道昆を失った私の身体は、地面までまっしぐらに落ちて行きます。


「背中に羽……背中に羽……」


 全力で念じると、急に背中が熱くなった気がしました。そして……。


「おぉ!浮けました!」


 私はユナさん同様に、魔力で羽を作る事が出来たのです。しかし魔力が少ない所為か、空中浮遊では無く少しずつ高度が落ちてきています。


「シバキ棒!戻って下さい!」


 私が声に出して叫ぶと、魔道昆は吹っ飛んだ先から私の手元に戻って来ました。


「……シバキ棒?まぁいい、大丈夫だった?」


「はい、次で決めます!ユナさんは魔物の注意を引いて下さい!」


「また無茶な事を言うな、君は……。分かった、任せて貰おう」


「お願いします!」


 私は急加速すると、はるか上空……雲の上まで飛んでいきました。


 最初は私に攻撃をしようとしていた魔物ですが、ユナさんの妨害のお陰で注意が逸れました。


「よし……行きます!」


 私は魔法の羽を背中に展開させると、魔道昆とショーテルを連結させて鎌にしました……パッと見た感じ、宙に浮く死神みたいですね……私。


 さて、そんな事はどうでも良くて、準備の整った私は背中の羽を消すと、魔物目掛けて急降下しました。


 雲が晴れて、少しずつユナさんと魔物が見えてきます。


 その時でした、魔物の攻撃を受けたユナさんが地面に叩き付けられたのです。


 叩き付けられた衝撃で彼女の体が数メートル程高く跳ね上がると、魔物は追撃の蹴りで崩れかけのピラミットの残骸に吹き飛ばしました。


 ピラミットは更に崩れてバラバラになりました、蹴りの強さは尋常じゃ無いみたいです。


「ユナさんに、何してるんですかっ!」


 私はフルタングナイフに魔力を纏わせて魔物の頭部に投擲しました。直撃した魔物は私の方を見ると、すぐさま反撃に出てきました。


 魔物の腕を間一髪で避けながら鎌に魔力を宿した私は、更に出力を上げて雷属性を付与すると、魔物の眉間を全力で突き刺しました。


「グオオオオオオオオ!」


 眉間に鎌が刺さったのが痛かったのか、魔物は遠吠えを上げながら苦しんで暴れ始めました。


「これで……っ!」


 更にリーチを伸ばした魔力の刃は、魔物の後頭部を貫通、そのまま全力で引き裂きました。


「死んでっ!」


 頭を真っ二つに引き裂かれた魔物は、紫色の血をそこら中に撒き散らしながら、絶命してその場に倒れ伏しました。


 一方で地面に真っ逆さまに落ちる私は、空中を飛んでいたナイフを回収すると、背中に羽を出現させてユナさんの元に向かって滑空して行きました。


「ユナさん!」


 見つけたユナさんは重傷で、既に意識は無くなっていました……。



 その日の夜、ユナさんはやっと目が覚めました。


 現在は私のテントの中で状況の説明をしている所です。


「ごめんなさい……無茶をさせてしまいました」


「結果的に何とかなったんだし、気にしなくて良い……それにしても魔法の羽を見よう見まねで作るなんて……凄いな」


「イメージしたら出来ました……それより、傷は平気ですか?」


「あぁ、君は応急処置が上手いんだな。お陰で助かった」


「まぁ今まで酷い目に遭ってきましたからね……それよりも、魔物の素材の取り分なんですが……」


「あぁ、あたしは要らないからエルシアが好きなだけ持って行って良いぞ」


「え?良いんですか?」


「あぁ……どうせあたしは街や村には行かないし」


「そうですか……ではお言葉に甘えて頂きますね」


「そうしてくれ、もし売りたいなら少し先にある「夜も明るい国」に行くといい」


「夜も明るいんですか……?。まぁ分かりました、そうしますね」


 こうして、魔物の素材を剥ぎ取った私たちは、その日を終えて眠りにつきました。



 次の日の朝、私が目を覚ました時には、ユナさんは何処にも居なくなっていました。


 ただ置手紙がある以上、彼女は私の見た幻では無くて、実在した魔女だったのでしょう。


 手紙の内容ですが、傷は治ったし行きたい場所があるから先に出発するという事がお礼と共に綴られていました。


 テントを畳んだ私は、崩れたピラミットに小さくお辞儀をすると、ユナさんが話してた「夜も明るい国」を目指して出発しました……。


 しかしこの「夜も明るい国」……此処は私がもう二度と訪れたくないと思ってしまう嫌な所なんですが、それはまた次のお話で……。

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