7節 荒んだ私と、ブドウ畑と、暴れる私
うぇ~い、私でぇ~す。
明るい国を出てから数日経ったのに、若干人間不信気味なのが治らない私は、特に当ても無く北に向かってフラフラ飛んでいました。
この日は雲が一つも無く、良く晴れていて爽快な青空が広がっています。
「良いですねぇ……落ち着きます」
綺麗な青空と、足元一杯に広がるブドウ畑から漂ってくる甘い匂いが荒んだままの心を落ち着けて癒してくれます。
暫くブドウの匂いと太陽の温かさ、程よく駆け抜ける風に心地良さを覚えながら飛んでいた私ですが、その雰囲気をぶち壊すような怒声が聞こえてきました。
何事かと思って下の方を見ると、何やらワイン片手に怒鳴ってるオジサンが居ました。そのオジサンの対面にも別のラベルが貼られたワインを持って言い返すお兄さんが居ます……何だか関わる気が起きない私は気付かれない様に高度を上げて逃げようとしました。
「オメェさんいい加減にしろよッ!」
ブンッ。
オジサンが怒鳴った拍子に振り上げた中身入りワインボトルが、手が滑ったのか私に目掛けてぶっ飛んできました。
バリンッ。
「おぅふ!?」
ワインに直撃した私は魔道昆から滑り落ちて、ブドウ畑に落っこちていきました。
「そうは言っても、こっちだって引き下がれる問題じゃないのはアンタも分かるだろ!」
ブンッ。
落下中の私の顔面に中身入りワインボトルが飛んできました。
バリンッ。
「ぬぶぁ!?」
ひゅ~……ドスンッ。
「ぷげらぁ!」
そのままブドウ畑にダイブした私は、喧嘩の仲裁をしていた人たちに助けられたのでした。
〇
で、助けてもらったお礼に喧嘩の仲裁役を任されてしまった私は、全身ワインまみれになっていました……。
話を聞いてみると、どうやらこのブドウ畑、半分程は持ち主が違うらしく、その事で数年前から揉めてるみたいでした。
「あの……柵を作れば解決する問題じゃないですか?」
「……」「……」
「あ、このブドウ甘くておいしいです」
勝手にブドウを食べてのんびりする私ですが、どうやら二人は柵を着けるのは盲点だったらしく、別の事で揉め始めました。
「柵は立てるにしても、今回をどうするかが問題だ!」
「あぁ、こっちの取り分まで持って行かれちゃ黙ってられないからな」
「オメェさんの所よりウチのモチックスの方が美味いに決まってんだろ!不味いのがあったらそっちのもんじゃねぇか!それで売り上げが落ちたらどうしてくれるんだ!」
ほぉ、モチックスと言う名前なんですね。
「ただ渋みを追求したワインより甘さにも着眼したウチのバミュルスが不味い訳無いだろっ!」
ほぅほぅ、こっちはバミュルスですか。
「……今回の売り上げは山分けにしてはどうでしょう?」
「……」「……」
「あれ?ブドウに種が入って無い……不思議な事もあるもんですねぇ」
その後、私が仲裁を放棄してブドウを食べてる間に、何故かワインの美味しさ対決に発展していて、私が飲まされる流れが出来上がっていました。……私未成年なんですけど?。
「さぁお嬢さん、飲んでみてくれるか?」
「はぁ、まぁ良いですけど……いただきます」
ごくっ。
「おぉ!飲みやすいですね!甘くておいしいです」
腰に手を当ててドヤ顔しながらオジサンを見るお兄さん、美味しいのに雰囲気が台無しですね。
「嬢ちゃん!今度はウチのワインを飲んでくれ!」
「はい、いただきます……少しアルコール臭いのは私の口でしょうか?」
ごくっ。
「ん~渋い!でもお肉料理のお供はこのワインしか考えられないです!」
「へっへっへ」とお兄さんにドヤ顔で返すオジサンを他所に、私は別の街で買った干し肉を取り出して、食べながらワインを飲んでいました。
それから何度もテイスティングみたいな事をさせられてた私ですが、あるタイミングで言動がおかしくなっていきました。
「えへへ……おしゃけって美味しいんですねぇ」
「……お嬢さん?」「お、おい……顔真っ赤だが大丈夫か?」
「あちゅいですね~」
ぬぎぬぎ。
おもむろにドレスを脱ぎ始める私、頭の中では止めようとしてるんですが、頭がぽわぽわ~ってして行動をセーブできなくなってます……ひっく。
「おいおいおいおい!ちょっと待てって!服を脱ぐんじゃあない!」
「ふふ……ふふふふ」
私は新しいワインを開けて、一気に飲み干すと、お兄さんをぶん殴りました。
ブンッ。
「ぐわぁ!?」
「アハハッ!たのしぃれすねぇ~!」
何が起きたのかも分からず倒れるお兄さん……そのお兄さんを見て何かを感じたのは覚えてるんですが、残念ながら私の記憶は此処で途切れていました……。
〇
暫くして、夜の寒さで目が覚めた私は、全裸のお姉さん……多分仲裁を最初にしていた人に抱き着いて寝ていました。
「あれ……?私って何してたんでしたっけ……?頭がフラフラします……」
立ち上がった私は、自分の状態を見て絶句しました。
……全裸でした。正確にはロングブーツを履いてニーハイ穿いたまま、片足だけパンツを脱いだ状態で、後は全裸でした。
嫌な予感がした私は急いでドレスを着ると、頭から血を流して倒れるお兄さんたち全員を叩き起こして、私の貞操が無事かの確認を取りました。
結論から言えば、ぎりぎりセーフみたいです。ほぼ全裸の私が再び起き上がったお兄さんを殴り倒して、ズボンを脱がして跨ろうとした所でぶっ倒れたらしいです……危なかった。
酔っ払って豹変した私に恐れたままのお兄さんたちに「ごちそうさまでした、二つのワインを混ぜたら最高に美味しかったですよ」と告げると、恥ずかしさで真っ赤になった顔の私は逃げる様に飛んで行くのでした……。
〇
後日、暫く先の街でロネッサンという名前のミディアムボディのワインを行商人が運んでるのを見かけて、何となく見せてもらったんですが、なんとこのワインはお兄さんが作っていたワインとオジサンが作っていたワインを掛け合わせて出来たワインらしいです。
ラベルの後ろには、「金髪の少女に飲ませない様にしましょう!襲われます!」と書かれている辺り、間違いなくあの二人なんでしょうね……。
そんな感じで、ワインの美味しさとアルコールの怖さを体験した私は、北に向かって飛んでいくのでした……。
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