8節 小さな集落と、可愛い剣士と、露骨な挑発
はい、私です。
今日も当ても無くひたすら北に進んでいます。
最近思うんですが、私の魔力量……上がってる気がするんですよね。
ずっと飛んでるし、爆魔拳も普通に使えてるし。まぁ気のせいかも知れないですけど。
さて、特に何も決めずに飛んでると、何やら木々に囲まれた小さい集落が見えてきました。寄ってみましょうか。
地上に降りて集落に近付くと、小さな子供が剣の稽古をしてるみたいで、何処かから木を叩く音と可愛らしい「やぁ!」と言う声が聞こえてきました。
「稽古ですか……私も訓練してた頃を思い出しますね」
私は過去の苦い記憶を思い出しながらてくてくと集落の入り口に立ちました。
「あれ?おねーさん誰?」
見張りの人に挨拶しようと辺りを見渡していると、可愛らしい少女に話し掛けられました。
「ここに住んでる子ですか?見張りの人を探してるんですけど、知りませんか?」
「見張りさん?呼んで来るから待っててねー」
少女は集落内に走って行ってしまいました……何だかユズに似た子ですね。
暫くすると、少女が見張りの人を連れて来ました。私は自身の事を話して、集落内に入れて欲しいと伝えると、何の手続きもしないまま入れてもらう事が出来ました。普通は集落でも手続きを取るものなんですが、此処は随分とオープンな集落みたいですね。
さて、この集落には宿が無いみたいで、何処か腰を下ろせそうな場所を探していると、先程出会った少女に家に来るよう誘われたので、悪いとは思いつつもお邪魔させて頂きました。
私が彼女のご家族に挨拶をしながら名乗った時、少女の名前も聞きました。この少女はリザと言う名前で、両親と一緒に暮らす一人っ子みたいです。
このリザちゃんですが、どうやら彼女も剣士を目指しているらしく、日々剣の稽古に励んでいるらしいです。と言うのも、この集落では武で強い人が、その年の村長をする仕来りがあるらしいんですけど、それに備えた稽古らしいです。
暫くして剣の稽古に戻って行った彼女を見送ると、私はご両親と共に家の中に取り残されてしまいました。
「あの……何もしないのは悪いんで、何か家事を手伝わせてもらえないでしょうか?」
「いやいや、気にしないでのんびりしていってくんな。娘が増えたみたいで嬉しいしさ」
「そうですか……でも娘なら尚更何か手伝いたいです」
「そうさね……それじゃあ、エルシアは剣が使えるかい?」
「ちょっとお父さん!女の子に何聞いてんだい?」
「リザだって女だろ、それにそれに外を歩くなら魔物とも戦うだろうし」
「剣ですか……ナイフの方が得意ですけど、それなりには使えますよ」
「あら……貴女見た目より強いのね」
お二人は感心しながら私を見てました。胸は自信無いけど、それ以外はあるつもりです。
それから暫くして、お昼ご飯を食べに帰って来たリザちゃんと食事を共にした後、私は彼女の剣の訓練をする事になりました。
「所でおねーちゃん」
「うん?なぁに?」
「おねーちゃんは誰に稽古してもらったの?」
「んー……王都って分かりますか?私はそこ出身なんですが、王様に仕える騎士がお母さんなんですよ」
「あら!王都の騎士って強いって噂じゃ無い!。……最近は大変な事があったって聞いたけど」
「そうですね、王都が半壊しました。私も良く生き残ったと思いますよ……」
「あの王都が半壊か……なかなか物騒な奴が居たんだな」
「えぇ、それで話を戻すと、私のお母さんは王都の特殊部隊に所属するリーダーなんですよ。リザちゃんと同じ年の頃には剣の訓練をさせられていましたね」
「ふーん、よく分かんないけど、おねーちゃんも大変だったんだね」
「えぇ、だから私はその辺の騎士より強いですよ。覚悟は良いですか?」
「はーい!」
「それじゃ……いきます!」
こうして私は、リザちゃんに稽古をつける事になりました。
〇
それから私は数時間程リザちゃんと剣の稽古をしました。それにしても中々打ち込みが良いですね、しっかりと腰が入ってます。踏み込みも最適距離で来ますし、これは将来有望でしょう。
正面からの切り替えし、一瞬の不意を突いた視覚外からの奇襲、背面への反撃と、教えるのが楽しくなった私は、必要以上のスキルを叩き込んでしまいました。……後から思えばそこそこ本気で打ち込んでいて痛かった筈なのに、折れる事も無く、何なら食らい付いて来て直ぐに会得してしまいました……強い子です。
そして、遂に私が1本打ち込まれて、稽古は終了しました。……反応出来なかったです。今のが真剣勝負なら私は死んでますね。
さて、稽古を終えた私たちは、小さいながらに賑わってる集落内を案内してもらいました。
大人も子供も、皆楽しそうに生活していて、何だか微笑ましいです。
まぁ何処にでも居るとは思うんですが、この集落にも嫌な奴が居て、そいつがリザちゃんに遠くから声を掛けてきました。
「やーい!よわよわなリザ!何サボってるんだ!お前は一生稽古してないと俺達の足元にも追い付かないだろ!」
無駄にデカい声で叫ぶ男の子が、リザちゃんを馬鹿にしてきました。背中には木製の大剣が背負われていますね。
「こらこら、余り馬鹿にするものでは無い。人には個人差があるんだ……勿論成長が遅い子だっている」
「……」
「リザちゃん?どうして何も言わないんですか?」
「だって……本気でやったら皆に怪我させちゃうから。……おねーちゃんとしか本気で出来ないよ……」
……なるほど、戦いには向かない程に健気で優しい子ですね。しかしあのクソガキは気に食わないですね。彼の取り巻きの子供もそうですが、彼の両親と思われる人も、その両親の取り巻きも、人を馬鹿にした目をしています。
「何とか言ったらどうだ!よわよわリザ!」
「……失礼ですが、その辺にしてもらえますか?言い過ぎです」
私は彼女の前に立つと、威嚇する様にクソガキを睨みつけました。
「な、何だよお前!俺がこの集落で1番強い子供なんだぞ!」
「貴方の妄想の中ではそうなんでしょうね……「能ある鷹は爪を隠す」って知ってますか?」
「大人が割り込んですまないが、それはお嬢ちゃんがウチの子より強いと言ってるのかね?」
「そうですね、少なくともリザちゃんは私の威嚇で怯む事は無かったです」
「……それだけで強いと決めつけるのは可笑しな気がするが?」
「……試してみますか?彼女は本気の私から1本取りました。もしも彼が強いなら余裕ですよね?」
私が挑発すると、だんだんイラついて来た両親は私の提案を飲みました。
さて、ふざけた子供の根性を叩きなおしてやりますか……。
リザちゃんと彼女の両親、他にも集落全体の的になった私たちは、本来は年に1度の稽古祭というのを開いて戦うんですが、それはまた次のお話で……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます