9節 武闘祭と、本気のリザちゃんと、驚き怯えられる私

 はい、私です。最近アホ毛が謎の意思を持ち始めたエルシアです。


 現在は武闘祭に参加してナメた口をきくガキンチョにお灸をすえる所です。


 私は渡された木製のナイフを手に持つと、会場の上に登って例の少年を見ました。


 どうやらお父さんに何か小細工を教えられたのか、自信満々な顔で私を見ていますね。ポケットがパンパンだぞ。


 因みにナイフですが、私がお願いをして作ってもらった特製品になります。慣れた得物であればリーチなんて大した脅威じゃありません。


「おい!小さいお姉さん!ナメた事を言ってくれた礼、させて貰うからな!」


「そんな出来ない事を言う前に年上に使う敬語を学んだ方が良いですよ?」


 お互いに挑発が済んだ所で、ゴングが鳴り響きました。


「いけ!小僧!」「俺の息子なら女になんて負けるな!」「あんな部外者さっさと倒しちゃえ!」等々。


 ……うーん、この私の人気の無さよ!。


「エルシア!無茶はすんでねーよ!」「怪我したら怒るわよ!」「おねーちゃん……気を付けてね」


 あぁ……この家族に応援されたらやる気が出てきました。


「いつでもどうぞ?」


 私は両手を広げて挑発しました。


「ふざけるなぁぁぁぁあ!」


 ムキになった少年は、大剣を振りかざして大振りで私に斬り込んできます。


 バスッ。


 私のドレスに着いてるリボンを掠めた大剣は、直撃には至らずに地面を叩きました。結構良い踏み込みをしますね、自分で強いって言うだけはあります……でも。


 ガンッ。


「ぐぁ!」


 無防備になった頭に蹴りを入れました。なかなか良い音がしましたね……地味に指先が痛いのは内緒。


 立ち上がった少年は、目に涙を浮かべて怯えた表情で私を見てます。……最近怯えられてばっかな気がしてヘコんでます。まぁ追い打ちは掛けますけど……精神的に。


「どうしました?蹴られたのが痛くて泣いてるんですか?馬鹿にした相手が格段に強くて怖くて泣いてるんですか?そんなんで本当に最強を名乗れるんですか?」


「うる……さい!」


「なら黙らせてみては?因みにリザちゃんは泣かなかったですよ?」


 私が挑発を続けると、お父さんが大声で怒鳴り込んできました。


「いい加減にしろ!お前は俺の子だろ!そんな小娘にやられっぱなしで悔しくないのか!」


 その声に元気付けられたのか、少年は再び特攻を仕掛けてきました……学習しないですね。


 私はあっさりと避けると、ポケットを斬り裂いて足を引っかけて転ばせました。


「砂ですか……まぁそんな事を考えてるんだと思いましたよ」


「な……何でポケットが切れたんだ!?」


「私が斬ったんですよ。……木製だろうとその気になれば布の1枚や2枚、余裕で斬れます」


 私は会場から降りると、リザちゃんとバトンタッチしました。


「私……勝てるかな?」


「安心してボコッて下さい!万が一ヤバそうなら止めに入りますから」


 私は彼女にウインクしながら親指を立てて見送ると、立ち上がった少年と仕切り直しで勝負が始まりました。


「へっ!お前になら負ける気は微塵もしねぇ」


「本気で……良いんだよね?」


「えぇ!ボコボコでOKです!」


「ふ……ふざけるな!」


 フルスイングで大剣をぶん回した少年は、リザちゃんに近付いて行きました。



 はい、彼女の圧勝です。特に語る事もありません、優遇抜きで圧勝です。


 これは全員が認めざる負えない程に、少年は完敗でした。しかしこの結果に満足できない子供みたいな大人が一人……。


「ふざけんな!あの雑魚娘がこんなに強い訳無いだろ!」


「……彼女は人を殴るのが嫌で戦いを避けてただけです。本当に優しい子なんで戦うのは不向きですが、強さはダントツだと思いますよ」


「うるせぇ!……おいイカサマ女!俺と勝負だ!俺が勝ったら息子の勝ちにしてもらう!」


 随分と無茶苦茶を言ってますね……。というか親子揃って言動が同じって面白いですね。


「良いでしょう……ただし条件があります」


「何だ!」


「真剣勝負です……本当に命の取り合いなら受けましょう」


「ちょっと!?お姉ちゃん!?」


「あはは、やっとお姉ちゃんって呼んでくれましたね。……こんな可愛い妹が欲しかったです」


「ふざけてる場合じゃ無いよ!あの人は集落で最強の剣士で、魔物だって倒した事があるって言ってたんだよ!?」


「魔物位は私も倒してますよ……安心して下さい、お姉ちゃんは負けませんから」


 この人、もう完全にお姉ちゃん気取りである……本当に可愛い妹です。


 私はフルタングナイフを背中の鞘から抜くと、再び会場に上がりました。


 暫く待つと、彼のお父さんが大剣を持って現れました。さぁ……勝負といきましょうか!。


 ゴングが鳴り響き、私たちは間合いを測りながら少しずつ動きます。


「そう言えば、魔物を倒した事があるんでしたっけ?」


「あぁそうだ!試合が始まっちまった以上、やっぱ止めたは通用しねぇぞ!」


「そんな事しませんよ。……まぁ私も王都半壊事件の犯人を葬ったって自慢したかっただけですし」


「……はぁ?」


 ほぅ、戦う身だけはあって、その辺の大きな出来事はご存知な様です。


 徐々に青ざめていく彼を他所に、私は今まで戦ってきた相手を振り返りながら話し続けます。


「始まりの街に現れた死神と呼ばれる旧世界の英雄、ノヴァさんとも戦いましたね……まぁ勝てなかったんですけど、焦らせる事は出来ました。他にも魔物の大群と遊んだり、ネクロマンサーと戦ったり……あぁそうそう、この辺りだと、明るい国近くに現れた超大型の魔物をユナさんって人と一緒に、二人で葬りましたね」


 戦意を喪失したまま固まる少年のお父さん……いや、周りに居る人が何処かしらでどれかの話を聞いた事があるらしく、全員が固まっていました。


「金髪の蒼い瞳をした少女……。だ、だが少女はドレスでは無く白い無地のワンピースを着ていたと……」


「リザちゃん、私の荷物から服を出してもらえますか?」


「う、うん……はい」


 彼女が差し出して来たのは、間違い無く無地の白いワンピでした。


「……この勝負、止めません?」


「はい……」


 こうして私は、集落の人に恐れられながらも不戦勝で勝つことが出来ました……怖がられる事に対して精神的ダメージが爆発して死にたくなるんですけど、どうしたら良いか教えてもらえますかね?。


 ……まぁ何はともあれ、あの家族がリザちゃんに非礼を詫びる姿を見た私は、颯爽と集落を出ていきました。


 振り返る事はしません、涙は見られたくないんです。……ん?お前そんなに涙脆く無いだろって?……精神的ダメージが癒えて無いだけですよ!。


 その後、集落を後にした私は北を目指して飛び続けるんですが、その道中で悲しみに叫んでた私を目撃した誰かによって、付近の街や村で私の事が持ちきりになって、見られただけで危ない奴として怯えられる事になりました……死にたい。


 ま、まぁそんな事より……これから向かう先で、懐かしい顔に遭遇するんですが、それはまた次のお話で……。


 はぁ……つらい。

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