10節 騎士と、ワイバーンと、私を狙う刺客

 へい!私です!。


 私は今、ハンモックの上に座り昼食のインスタントラーメンを食べていました。


「うーん……ラーメン美味しいんですけど、何と言うか……飽きてきましたね」


 ズルズルとラーメンを啜りながら呟いた私は、次に訪れた場所ではラーメン以外を買おうと、長期保存が効きそうな物を頭の中に思い浮かべていました。


「カンパン、レトルト、干し物、燻製……どれも持ち運びに向かないかコスパが悪いですね。おとなしくラーメンでも啜っておきますか……」


 特に食べたいものが浮かばなかった私は、諦めた表情でラーメンを食べて、スープまで飲み干すと、近場の川で軽く水洗いをして、再びハンモックに座りながら本を読み始めました。最近始めた読書タイムです。


 読んでる本は様々で、行く先々で読み終わった本と別の本を物々交換しながら新しい物語を楽しんでいるのです。今読んでるのはミステリー小説です。


 余り目を向けない様にしてるんですが、うっすらとページの端にネタバレが書き込まれているのが鬱陶しいですけど、気にしなければ面白いです。書いた奴は絶対に許さん。


 さて、暫く本を読んでお腹も落ち着いた事ですし、そろそろ出発しましょう。


 荷物を纏めた私は、魔道昆に横向きに座ると、一気に高度を上げて飛び立ちました……扱いにも慣れたもんですね、初めて乗ってから余り時間は経って無い気がしますが。


 殺風景な景色が広がる林道の上空を、何も考えずに飛んでいた私は、王都の騎士が検問をしてるのを見つけました。此処は王都の国外の筈ですが……何してるんですかね?ちょっと見に行ってみましょう。最悪面倒事に巻き込まれそうだったら飛んで逃げれば良い訳ですし。


 誰にも見られない様にコッソリと降り立った私は、騎士たちに近付いて行きました。何やら殺気立っていられるご様子。


「あの……どうされたんですか?」


 私は目の前に居た女性騎士に話し掛けました。


 私の声に振り返った女性……それは始まりの街で出会ったレウィンさんでした。


「おぉ!エルシアか!」


「レウィンさん!お久しぶりですね!……こんな所で何を?」


 首をかしげる私に、レウィンさんは不思議そうな顔で聞き返してきました。


「いやいや、君こそ何でこんな場所に居る?」


「私ですか?今は世界の最果てを見たくて旅をしてる所です」


「そうか……ユズから聞いたぞ、君が王都を救ってくれたそうだな。感謝する」


「私だけじゃないですよ、ユズやノヴァさんやリンネさん、それに師匠が居たから解決できた問題でした」


「そうか……。しかし君には悪いんだが、暫くは此処は通行止めなんだ」


「え?どうしてですか?」


 私の質問に、レウィンさんは顎をヒョイと動かして先に続く道を見させてきました……何も無いんですが?。


「この道を夜な夜なワイバーンが徘徊してると言う話でな、近隣の兵士達では手に負えないと判断して私達に討伐を依頼してきたんだ」


「ワイバーンですか……よりによって戦いたくない魔物が出てきたもんですね」


「あぁ……あれは悲惨だったからな」


 私たちは始まりの街の防衛戦で散って逝った人たちの事を思い返しながら黙り込んでしまいました。


 そんな時でした、まだお昼過ぎだと言うのに、大きな鳴き声と共にワイバーンが現れたのです。


 戦闘準備が整いきっていない騎士たちは、慌てて準備を始めましたが、恐らく魔物が攻撃してくる方が先でしょう。


 私は簡易的なバリケードを飛び越えて前に出ると、ショーテルを抜刀して構えました。


「私が相手をします。その間に準備を整えといて下さい」


「エルシア……あぁ、頼んだ」


 私の事を良く知るレウィンさんは、何の疑いも不安も持たずに任せてくれました。


「……行きます!」


 私は魔物の顔に小さな魔法の玉を権勢として幾つか飛ばし、視界が塞がったのと同時に足元に急接近、関節を狙って斬り裂くと速攻で背後に離脱しました。


 魔物は態勢を崩しながらも、大きな尻尾で薙ぎ払ってきましたが、狙いが正確で無かった為に頬を霞める程度しか命中していません。


「いてて……やっぱり丈夫ですね」


 態勢を崩した様に見えた魔物は、そのまま四歩行で大きな口を開けて突進してきました。


 思いがけない行動に対処が遅れた私は、見事に魔物に食べられてしまいました。


「クッサ!何かベトベトしてます!気持ち悪いです!」


 必死に口を閉じて私を噛み砕こうと踏ん張る魔物ですが、口の中に魔道昆を突き立てたお陰で何とか食われずに持ちこたえています。


「……それにしても妙ですね、魔物は本能でしか動かない筈ですけど、コイツにはそれを感じないです。まるで誰かに遠隔操作でもされてるかの様な反撃速度でしたし……普通はあんなに早く切り返しで攻撃をしてこない筈なんですが」


 口にの中で魔力を溜めながら考える私は、いい加減臭い環境に居るのが嫌になったので、ショーテルに魔力を流してリーチを伸ばすと、下顎を斬り裂いて脱出しました。


 どんな生き物であっても、下顎を破壊されると身動きが取れなくなるものです。ですが油断をするのは危険と判断した私は、とっさに魔物から距離を取りました。


 ブォン!。


 大きく風を切る音が真後ろで鳴り響きます、やっぱり動いてきましたが。


「エルシア!すまない、待たせたな」


「レウィンさん、この魔物は誰かに操作されてる可能性が高いです。私は犯人を捜すんで、魔物は暫くお任せしますね」


「……まぁ君が必要だと思う行動ならすれば良い、よく分からんが取りあえず任せたぞ」


「任されました」


 私は目に魔力を集中させてみました。ビンゴです、魔物から魔力とは少し違う糸の様な物が伸びています……近場の岩の裏からですね。


 私はショーテルを魔道昆に連結させて鎌にすると、大量に魔力を流し込んで雷を纏った魔力の刃を形成しました。


「エルシア!?何だそれは!」


「ちょっと集中してるんで、後でお願いします」


 私は最大まで威力を高めた魔力の刃が付いた鎌で、岩ごと向こうに居るであろう操作していた犯人を斬り裂きました。


 魔物の動きが急に止まって、暫くすると岩の切れ目から血が流れてきました。


「……どういう事だ?何が起きてる?」


 状況を理解できていないレウィンさんに、私は今回の犯人は魔物では無く、それを操っていた人間だという事を説明しました。


「成程な。こんな場所で魔物を操っていた理由は分からんが、危険な相手である事は変わりなかった……また助けられたな」


「気にしないで下さい。それよりもレウィンさん、この死体の服……見覚えないですか?」


 死体を探っていた私は、レウィンさんに死体が来ていた服の装飾を見せました。


「アイツの服に似てるな」


「えぇ……この人は恐らく、ベルギウス家の使いでしょう。もしかしたらライオットを倒した私を狙って放った刺客かも知れないですね……」


 さて、魔物が暴走してる理由、ついでに魔物を操ってる奴を見つけたレウィンさん率いる騎士たちは、魔物討伐の報告ついでに、今見た事の報告もすると言って、王都方面へ帰っていきました……もしライオットを倒した人全員が狙われてるのだとしたら、ユズが心配ですね……無事だと良いんですが。


 まぁきっと彼女は平気でしょう。何も出来ない事を心配するよりも、今後の私の事を心配しないといけないかもしれないですね……。


 取りあえず目の前で起こった事を解決した私は、辺りを警戒しながら飛んで行くのでした……。

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