11節 尾行と、ゴスロリ少女と、悪夢の末裔

 はい、私です。最近ドレスの胸周りが苦しくなって喜んでるエルシアです。


 私は今、同い年位の女の子をロープでグルグル巻きにして、木にぶら下げています。


「で?。結局の所、私が聞きたい事に答えてくれるんですか?」


「くっ……殺しなさい!この卑怯者!」


「卑怯者って……貴女が仕掛けて来たんじゃないですか」


「いいから殺しなさい!殺しなさいよ!これ以上わたくしを辱めても何も教えませんわよ!」


「別にパンツが丸見えになってるだけじゃないですか、と言うか何でゴスロリ衣装なんて着てるんですか?趣味?」


「これは……叔父様の趣味であって……わたくしの趣味では断じてありません!」


「はぁ……何でこんな面倒くさい人を捕まえちゃったんでしょう……」



 今から約30分程前の事です。私はいつも通りに空を飛んでいました。


 今日は晴れてるのに少し雨が降っていて、幻想的で美しい空模様を眺めながら飛んでいます。


「本当に綺麗な空ですね……狐の嫁入りって、こんな天気の事を言うんでしたっけ?。……どうして狐なんでしょう?」


 私の頭の中には、擬人化した白狐(♀)がイケメンお兄さんの元に嫁ぐ風景が広がっています。絶対に違うと思う。


「うーん……まぁ場合によっては泣けるかもしれませんが、空が無く程の事でも無い気がしますけど……」


 だからそれは絶対に違うと思うの。


「さて、そんな事より……誰かに尾行されてますね」


 そうなんです、いつからでしょう……向こうも低空飛行で飛んでるのか、どれだけスピードを上げても付いて来るんですよね。特に何をするでも無いんで放置していましたが、いい加減に不気味なんで止めていただきましょう。


 私がわざと低空で飛行すると、一気に距離を詰めてきました。仕掛けて来るつもりなんでしょうか?。


 暫く待ってみると、私を付けていた何者かは、予想通りに攻撃を仕掛けてきました。何か小さい槍の様な物が、私の髪を掠って飛んで行きました。


 直撃しなかったのが悔しかったのか、後ろで何者かが舌打ちをするのが聞こえます……そろそろ反撃しましょうか。


 私は魔道昆から飛び降りると、足元に魔法陣を展開させて着地し、追って来た何者かにドロップキックを炸裂させました。


「ぷぎゃー!」


 面白い声で鳴いた何者かは、そのまま地面に落下して気絶したのか、身動き一つ取らなくなりました。


 私は魔法の羽で降下すると魔道昆を呼び寄せて、袋の中に入ってたロープで、私を攻撃してきた何者かをグルグル巻きにして、逆さ吊りで放置してみました。



「ん……あれ?」


 暫くして目覚めた少女は、緑色の綺麗な目をキョロキョロさせながら周囲と自分の状況を確認し始めました。


「……おはようございます」


 コソコソ。


「ひゃいっ!」


 背後から彼女の耳元で囁く様に話しかけると、全身の毛を逆立てるようにビクッと動き、再び面白い声を出しました。やだ可愛い。


「貴女、私を尾行してどうするつもりだったんですか?」


 コソコソ。


 今度は反対の耳元で囁きます、反応が面白くて気に入りました。


「……こ」


「何ですか?しっかり喋って下さいね」


 コソコソ。


「こ……殺しなさい」


「はぁ?」


「うるさーい!耳元で普通に喋らないで下さる!?」


「あ……すいません。さてと、冗談は抜きに、貴女は誰ですか?」


「何も話しませんわ……殺しなさい!」


 こんな感じで、何をしても「殺しなさい」としか言わなくなった少女……「くっ殺ちゃん」とでも呼んでおきましょうか、彼女とのやり取りで無駄に疲れた私は、とりあえず彼女を無視してお昼ご飯を食べ始めました。いつも通りにラーメンですけど。



 それから30分程経って、今に至るんですが……どうしましょう?本当に絞めますか?。


 ちょっと考えて、流石にそれは悪いと思った私は、警戒したまま彼女のロープを解きました。


「もう面倒なんで帰って下さい」


「ふっふっふ……わたくしを開放しましたね!」


「えぇ、面倒くさそうだったんで」


「さぁ!覚悟なさいまし!わたくしが貴女を倒s」


 チュドォォォォン。


 流石にうるさいんで適当に魔法をぶっ放しました、加減はしたんで生きてる筈です。


「な……何するんですの!?わたくし、まだ喋っt」


 チュドォォォォン。


「なんの!まだまだこれからでs」


 チュドォォォォン。


「貴女わたくしに何か恨みでm」


 チュドォォォォン。


「ぐすっ……もう……止めt」


 チュドォォォォン。


 あ……すいません、今のは流れで攻撃しちゃいました。


 そんな感じで、何だかんだ私の魔力が尽きるまで踏ん張った彼女でしたが、流石に疲れたらしく、一時休戦を提案されました。全く戦ってたつもりは無いんですが……。


 取りあえずテントを張って、夕飯の支度をして、ハンモックに転がりながら本を読み始めた私に、動揺を隠しきれない彼女はオロオロしながら話しかけてきました。


「あ……あの」


「うん?何ですか?」


「わたくし……どうすれば?」


「さぁ?とりあえず夕飯は作りますけど……ラーメン食べれます?」


「らーめん!?頂きますわ!」


 こうして私たちは、一緒に夕飯を食べて、今日はテントで泊めてあげる事にしました。……結局彼女、何者なんでしょうね。



 次の日の朝、私が火を起こしていると、不意に少女が槍で攻撃してきました。


「ちぃっ!すばしっこいですわね」


「乱暴な挨拶ですね……結局貴女は誰なんですか?」


 戦闘態勢を取った私は、彼女にそう尋ねました。


「……わたくしはシラユキ・ベルギウス。貴方が葬ったライオット・ベルギウスの姪ですわ」


「え!?」


 最悪の形、最悪の状態で、彼女の正体を知ってしまった私は、これから彼女と戦う事になるんですが、それはまた次のお話で……。

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