6節 街と言う名の国と、情報と、再来する危機の予感(1)
はいはい、私です。
此処に来るまでに色々ありましたが、無事にユミリアに到着です。
で、早速宿探し……といきたかったんですが、捜索隊の皆々様だけでなく、街の人々も私たちを祝ってくれて、それどころじゃなくなってしまいました。
当然、主役とされている私たちが居なくなれば、それこそ大変な事になりかねないですし、何よりユズと逸れない自信はありません。
致し方無いんで、この場は流れに任せて何とか乗り切ろうと思います。……実は私、人混み苦手なんですよ。人間酔いします。
「ねーねー、二人は何処から来たの?」「どうして幽霊屋敷の正体がネクロマンサーだって分かったの?」「小っちゃくてかわいいね、ハグさせて」「これから何処に向かうの?」等々、何か色々言われて混乱してきました。
後からユズに聞いたんですが、私は質問にしっかりと答えていたらしいです。自覚は無い……いや多分意識が無かったんだと思います。
〇
さて、そんなこんなで日が落ち始め、私たちの周りに居た人だかりも徐々にその数を減らしていき、最後には捜索隊の人が「明日、あそこに見える王宮に来るように」と言い残し、ポツンとその場に取り残されました……この扱い酷くないですか?。
しかし、そんな事ボヤいてる場合でもないです、街の中にいながら野宿とか嫌ですよ?せっかく熱い湯船に浸かれると思ってたんですから。
とにかく宿探しです、これだけ有名になれば、何処でも泊めてくれるでしょうし急ぎましょう。
所がどっこい、何処も泊めてくれないじゃあないですか、そもそも「よそ者禁止」って一体誰が止まりに来るってんですか、はぁ。
もうこの際、贅沢は言いません、布団があれば何処でも良いんで、急いで探しましょう、銭湯ならその辺にあるんで気にしなくても平気です。
それから走り回る事5分、やっと泊めてくれる宿を見つけました、でも此処は皆が知ってる非合法の宿らしいです。いやもう非合法って何でしたっけ?。
なんでもこの街の方針で、本当はよそ者を止めてはいけない決まりがあるらしいんですが「そんな事では稼げない」と商売魂のある方々がこのルールを破って営業してるそうです。よそ者が駄目な宿って……そりゃあ稼げないでしょうね、当たり前です。
さて、無事に宿に着いたんで、かなり体がしんどいですけどユズを連れて銭湯に行きましょう。
銭湯は此処からさほど遠くない場所にある為、のんびと歩いていきました。そして驚きました、此処……混浴じゃないですか。
いやもう疲れたんで、この際誰に裸見られても良いんで、早い事済ませてさっさと寝ましょうそうしましょう。
とはいえ、年頃の乙女が見ず知らずの、もしかしたら異性に肌晒すのかと思うと、少しながら躊躇が生まれるもんです。普段そういう事を一切考えて無さそうな、あのユズでさえ躊躇ってます、しかしここは覚悟を決めて飛び込むしかないんです。これ以上は体力が限界なんで。
しかし時間が時間という事もあるんでしょう、浴場には一人しかいませんでした。これ以上羞恥心が増さない内に手早く済ませて宿に帰りましょう。
「おひょー!、ひろーい!」
「ユズ、他にもお客さんが居るんですから静かにして下さい」
私がユズに注意をすると、湯船に浸かっていた人がこちらに振り返ってきました。しかし人間ってすごいですよね、振り向いた瞬間、反射的に体をカバーしたんですよ。ユズはともかくお前は貧相なんだから構わないだろって?そんなに殴られたいですか?。
「あれ、こんな時間に女の子?」と湯船の方から女性の声が聞こえました……そういえば更衣室にありましたね、私たち以外の、かなりスタイルの良い人が着そうな女性服……。
「あ、こんばんわー」ユズが湯船の女性に手を振りながら近付いていきます。全裸で。
「こらこらユズ、先にしっかりと体を洗ってからお湯に入ってください」
「はぁい!」
……元気ですね、うらやましいです。
さて、当初の予定道り、手早くシャワーを浴びて、私たちは湯船に足を入れました。
「うひょおぉおぉおぉおぉ!?シュワシュワするうぅうぅうぅうぅ!?!?」
「うるさいですよユズ、とはいえ驚きましたね、これは炭酸ですか?」
はい、炭酸風呂でした。最初こそ驚きましたが、慣れるとかなり気持ち良いですねコレ。
「いやしかし、こんな遅い時間い若い女の子が二人も来るなんて、驚いたわ」
私の隣に座った女性が私たちに話しかけてきました。この人も十分若い気がしますが、とりあえずこの時間に銭湯に来た理由を一応話しておきまか。
「えっと、私たちは旅をしてまして。この街、よその人に妙に厳しいルールがあるじゃないですか」
「なるほどね、それでやっと宿を取れたから此処に来たって訳ね」
「そんな感じです」
「あぁあぁあぁあぁ、炭酸気持ちいぃいぃいぃいぃ」
「ユズ、少し声のトーン落としてください、出来れば黙ってください」
「はあぁあぁあぁあぁい」
ふぅ、ユズを見てると疲れますが、謎の安心感がありますね。
「所で、お姉さんもかなり若く見えますが、どうしてこんな夜遅くに此処へ?」
「あたしも旅人でね、さっきまで宿が無かったのよ。貴女たちと同じね」
「なるほど、お互いに苦労しますね」
「そうねぇ」
「「……はぁ」」
しかしこのお姉さん、凄くうらやましい体形してますね……そして何より「胸、大きいですね、本当にうらやましいです」。
「えーっと、心の声漏れてるわよ?」
「…………あ」
しまった!やらかしました!何初対面の人に「乳デカいですね」なんて言ってるんでしょうか私は!。
「でもね、大きすぎても良い事なんて無いのよ?」
「……それは大きいからこそ言える事です。私なんて寄せても殆ど大きく見えないんですよ?なんか悲しく、と言うか切なくなります」
「zzz」
ユズは爆睡してます、この会話はきっと届いてない筈です。安心してぶっちゃけられます。
「大丈夫大丈夫、あたしも貴女位の頃はその位だったもの。むしろ大きすぎると、オーダーメイドで下着を作ってもらわなきゃいけないし、湯船で浮くし、何より男性の目が気になっちゃって集中力削がれるし、本当に大変なのよ?」
「はぁー!羨ましい限りですよ!お姉さん程じゃないにしても、ちゃんと谷間ができる程度には胸欲しいですけどね!それでは明日早いんで、お先に失礼します!」
私は吐き捨てるようにお姉さんに言い、ユズを叩き起こすと、そそくさと着替え、宿に戻るのでした。
〇
次の日、気が付くと私は半裸でソファーに転がっていました。夏場ならいつもこんな格好で寝てるんですけど、この時期は寒いですね、それで目が覚めました。
さて、何故に私が半裸で寝ていたかというとですね、銭湯の帰りに道に迷いまして、1時間歩き回ってようやく帰れたんですが、また汗かいちゃったんで、体を拭いてから寝たんですが、寝間着を着る前に力尽きたみたいです。
「ユズ、起きて下さい。ご飯食べに行きますよ」
「私!ご飯!!食べる!!!」
「……おはようございます」
「あ、おはよーエルシアちゃん。お腹すいた!」
「寝起きの第一声がそれですか、まぁユズらしいですけど」
私は小さくボヤきながら街の地図を開き、手軽であまり重くなさそうなレストランを探しました。少し遠いですが良さそうなのがありますね、そこにしましょう。
はい、という事でレストランに着きました。そこそこ人が集まっていますね、つまりはそこそこ美味しいという事なのでしょう、今から楽しみです。
「おはようございます」
私はレストランのドアを開けながら、店員さんに挨拶して入店しました。
「いらっしゃいませ、お二人ですか?」
店員さんは私たちに気付くと、急ぎ足で近づき笑顔で話しかけてきてくれました。結構雰囲気の良いお店ですね……この街に滞在中はここに通いましょうかね。
私たちは店員さんに案内された席に座り、メニューを眺めていました。どれも美味しそうですが、ちょっとお高いですね……何にしましょう?。
「ユズ、頼むものは決まりましたか?」
「うん!エルシアちゃんは?」
「ちょっとお悩み中です……」
朝からカレーってのも重いですし、揚げ物も胃がもたれそうですし……無難にパスタですかね……いや、サラダにしましょう。
「決まりました。ユズ、店員さんを呼んでくれますか?」
「あいあい、てーーんいーーんさーーん!」
「ベルを鳴らしてください、ユズ」「ベルを鳴らしていただけますか?お客様」
「ア、ハイ」
もう、周りの人がニヤニヤしてるじゃないですか、恥ずかしい。
でも今までは一人だったので、こういうのも新鮮で悪くは無いですね。凄い恥ずかしいですけど。
「あ、注文良いですか?」
私は目の前で何となく苦笑いしていた店員さんを捕まえて、注文を取ってもらおうと思い、声を掛けました。
「はい、ご注文どうぞ」
「先にユズからどうぞ」
「えっと、このパスタとパンと揚げ鳥と海鮮丼で!」
「ちょっ!本気ですか!?」
「え?うん、普通に食べれるけど……。それより、次はエルシアちゃんだよ!」
「……ミニサラダと抹茶ラテでお願いします」
「はい、かしこまりました」
まったく、ユズの胃袋は宇宙と繋がってるんじゃ無いかと思うほどですね……良く食べます、というか食べ過ぎです。
「これから少し金策しないとなぁ」とぼんやり呟いていると、私たちの近くに誰か寄って来て、声を掛けてきました。
「相席、良いかしら?」
ん?他にも席は空いてる気がしますが……私は声の主に振り返りました。
「あ、昨日のお姉さんじゃないですか、どうしたんですか?」
「あ、おねーさん、おはよー!」
「おはよう、二人が居るのが見えたからね、入ってきちゃった」
お姉さんはニッコリとしながら私の隣に座りました。いやまだ許可して無いんですが……まぁ良いでしょう、完全な他人ではないんですし。
「そんな顔しないでよ、奢るからさ」
「いえ、奢ってもらうのは悪いんで……」
「まぁまぁ、あ、お兄さん、コーヒー頂けるかしら」
「かしこまりました」
えっと、アレです。あまり知らない人が近くに居ると誰も話さなくなるアレが私たちの周りに蔓延し始めました。どうしてくれるんでしょうこの空気。
「えーっと、とりあえず自己紹介しておこっか?」
「えぇ、そうですね……」
「はーい!私はユズだよ!騎士目指してまーす!」
「私はエルシアです。旅してます」
「え!?エルシア!?」
急にお姉さんが驚いて素っ頓狂な声を上げました。それにこっちがビックリしましたけど、私の名前変ですかね?結構気に入ってるんですが……。
「えっと、エルシアですけど?」
「そ、そう。あたしはリンネよ、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」「よろしくー!」
「所でエルシアちゃんさ、先祖の事とか知ってたりする?」
リンネさんがよく分からない質問をしてきました、私の先祖の事とか知ってるんですかね?。
「いえ……物心ついた時から師匠と暮らしてたので、先祖どころか両親さえ知らないです」
そんな話をしていると、私たちの注文した物が届きました、ユズだけ別世界みたいになってます、文字通り混沌な状態です。
「それで、私の先祖が何か?」
「あ、いや、旧世界にそんな名前の王女が居たなーって……アリシアだったかしら?」
「はぁ、でも私は王族では無いと思いますよ?」
「海鮮丼ウマー!」
「ユズ……」
はぁ、ユズが美味しそうに食べてる姿見てると、私もお腹が空いてきちゃいました……海鮮丼頼みましょうかね?。
「すいません、海鮮丼一つ」
「かしこまりました……しかし皆さん本当にベル押さないですね……」
あぁ、そういえばありましたね、ベル。
さて、海鮮丼も届いた事ですし、頬張りましょう……明日からは節約の方針でいきます。
「所でリンネさんも旅をしてるって銭湯で言ってましたよね?何の旅ですか?」
「えっと、ある人を探す旅、かな」
「人ですか……どんな方ですか?」
「えっと、男性なんだけど、銀色の長髪で黒い上着を着ているわ、比較的やせ形で目つきが悪い、中性的な顔立ちをした人なんだけど……見た事無いわよね?」
……ん?それってもしかして、私たち会った事ある感じですかね?。
「それってリンネさんの恋人か何かなの?」
「大切な人ではあるけど、そういう関係では無いわね」
……どうやらユズは気付いて無いようですね。
「あのー、もしかしたら知ってるかもしれないです……」
私が小さく手を上げながら言うと、ユズとリンネさんが驚いた表情でこっちを見てきました……と言うかユズは何でこんな覚えやすい服装を聞いてピンと来ないんでしょうか?。
「ユズ……私たちが始まりの街で会った彼、覚えていますか?」
「え?えーっと……確かノヴァって言われてたような」
「はい、その人です。リンネさん、あってますか?」
「えぇ……貴女達よく彼と出くわして無事だったわね」
私はノヴァに会った当時の事をリンネさんに全て話すと、レストランを出る支度を始めました。そろそろ王宮に向かいましょう。そして早い事この街から出ていきましょう。
しかし、本当に奢ってもらって良かったんでしょうか?何か申し訳ない気がします。
リンネさんはこの後やるべき事があるんだとかで、レストラン前で別れました。そして私たちは今、王宮の兵士さんたちにボディチェックをされています。
まぁ、この行為自体は正当だと思うんですけど、服まで脱がす必要はあったんでしょうか?少々やりすぎな気もします。もしかしたらこれから会う方はあんまりまともでは無いのかもしれないですね、気が滅入ります。
「よしっ、通って良いぞ」
「……ご苦労様です」
私たちの荷物は危険物だからと、兵士さんに預ける事になりました。とはいえ、殆どは宿に置きっぱなしにしてるんですけどね。
ん?何だか門の前に見た事のある方がいますね、誰でしたっけ?。
私たちが近づくと、その見覚えのある方が話しかけてきました。
「お、来たな二人とも、この街はどうだ?結構良い所だろ?」
あぁ、この人捜索隊の此処に来るように指示してきた方じゃないですか。
「ええ、とってもいい街ですね。お陰様で宿探しに苦労しましたよ。何処も泊めてくれないんで」
分かってると思いますが、皮肉ってるだけですよ?。
しかし、捜索隊の方は「ははは、そうかそうか」と笑いながら、私たちを案内し始めました、この人はアレですか?能天気か馬鹿なんですか?もう怒る気力すら沸かないです。
「さて、このまま庭を突っ切れば目的地だ。それじゃ頑張れよ」
……またしてもほったらかされました、何なんでしょうあの人。と言うか何を頑張るんでしょう?。
さっさと済ませて、準備してこの街を出たい所です。早く此処での用事を済ませましょう。
そして、私たちは王宮の間に通されました、此処って国なんですかね?。
「おお、そなたらが忌々しい事件を解決した旅人殿か」
忌々しい事件って、幽霊屋敷の事ですよね?そんなに困ってたんでしょうか?。
「はい、そうです」
私がこの王(?)に答えました。ユズには予め、動き方は私の真似をして一切喋らない様に言ってあります、今の所は問題ないですね。
「汝らの名を聞こう」
「私はエルシア、そしてこちらの連れの者はユズと申します」
「ふむ、エルシア、ユズ、礼を言おう、よくぞやってくれた」
「勿体無きお言葉です」
私は片膝を着き頭を下げました、ユズもそれに合わせて動いてくれています、良い感じです。
「そう畏まるな、頭を上げよ、しっかりと顔を見せてくれ」
まぁ、自称王様が言うんですから顔位は上げても良いでしょうし、顔を上げて自称王様を見ました。
「ふぅむ、中々に可愛らしい娘ではないか、っとこんな事を言うとロリコンのジジィと間違われてしまうな」
「いえ、そんな恐れ多い事は……」
「おお、そんな事は無いと申すか」
「はい」
「では、我の妃となっておくr」
「あ、それは嫌です」
「……」
「……」
きゅ、急にこのロリコンは何を言い出すんですか!?13歳の子供を嫁にする気ですか!?と言うかどうしてロリコンから嫁に直結したんですかね!?。
もう本っ当に早くこの街から出たいです、此処って街の治安が良いんじゃなくて、上の人間が悪すぎて街が良く見えてるだけじゃないんですかね!?。
心なしかユズもロリコンに軽蔑の眼差し、というよりは殺意を送ってるように見えます。
ユズがロリコンの頭を射抜く前に、早い事要件を聞いて帰りましょうそうしましょう。
「あの、それで要件というのは……」
「……そうであったな、汝らには褒美を与えようと思う」
ロリコンがそう言うと、側近の人が私たちに近づき小さな袋を渡してくれました。
ふぅむ、お金ですかね、持った感じ中には2枚入ってます……金貨2枚って結構しょっぱい気がしますが、ありがたく頂いておきます。
「ありがとうございます」
さて、これで要件も済んだでしょうし早くお暇しましょうかね。
「……のぅエルシア」
「はい、どうされました?」
「やっぱり我の妃にn」
「絶っ対に嫌です」
「……」
「……」
「……」
「えっと……それでは失礼します」
「お、おぅ」
こうして私たちは、逃げるように王宮を後にするのでした。
因みに小袋の中身は、金貨ではなく、その100倍の価値がある金の小判2枚でした、凄く美味しいです、暫くお金には困る事は無いでしょう。
王宮を出た私たちは、消耗品と大量の食料を買い足した後に、情報を集める為に街中を歩き回るのでした……。
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