9節 落ち込む私と、元気付ける彼と、再び動き出す私
はい、私です。寝てる間にアホ毛がビームを放ってるらしく、目が覚めると至る所が黒焦げになっていて、いずれ焼死しそうで怖いエルシアです。
リノリスを置き去りにしてから3日が経ちました。
しかしあの日以降レジスタンスメンバーには1度も接触していません。
じゃあ何してるのかと言いますと……メッチャ落ち込んでいました、本当に安全そうな場所に隠れて落ち込んでいるだけでした……。
「それは……失礼ながら申し上げますが、エルシア様が責任から逃げてるのではないでしょうか?」
「エルシア様……無礼を承知で申し上げますが、貴女は世界を大きく動かす事は出来ません。
後悔をした事が無い人に責任は持てないし、覚悟も持てない……そんな貴女は英雄になる資格は無いんです。
その前に初めて抱えるであろう大きな御自分の後悔に押し潰されてしまう」
……この2つはリノリスが言った言葉です。
実際彼女の言い分は正しいです。後悔をしない人間が責任を持てるはずありません、上辺だけの覚悟なんて脆い物です……それは良く知っていた筈でした。
人を殺める覚悟……それは殺めてしまった事に対する後悔と、それを受け止める責任が出来て初めて持てる物なんです。この覚悟の在り方は、殺めるだけで無く、どんな事だとしても同じ筈でした。
いつからか私は、その覚悟の在り方を忘れてしまっていたみたいですね……。
それに、私はいつからか、誰かの為に何かをしたいと思っている節があったのも事実です。どんな事があっても、今の私なら一人でだって解決できる……そんな風に思っていたんです。
「はぁ……傲りも来る所まで来ると甚だしいって言葉じゃ済ませられなくなりますね……」
両手を強く握りしめた私は、今になって自分自身に怒りが込み上げてきました。
しかし、どうしてでしょう?リノリスに指摘された事が何故か気に食わないと思ってしまったんです。
いや……本当は分かっています。私の見失ってた部分をピンポイントで指摘されて、更に図星を突かれたから怒ってしまった。八つ当たりとも言います。
良くも悪くも、私はまだまだ子供って事なんでしょうね……。
一応、気に食わなくても私のミスを認めた以上、リノリスに謝っておきたいんですが……今更彼女に合わせる顔なんて無いですよね。酷い事言っちゃいましたし。
「はぁ……私って、ほんと馬鹿」
自虐的になって落ち込んでいる私は、流石に何もしない訳にはいかないと思ったので、ボチボチ歩き始めました。その時です。
ピー、ピー、ピー。
何かの鳴る音が聞こえてきました。敵かも知れないんで警戒しつつ音の正体を確認しておきましょう。
私は恐る恐る、音が鳴る場所に近付き、息を整えると一気に飛び出して魔道昆を向けました。
しかしそこに在ったのは、謎の箱でした。緊急連絡用無線機と書かれていますね。
私はビビりながらも点滅しているボタンを押してみました。
「……お?音が止まりましたね。……使い方はこれであってたのかな?」
警戒を解いた私は、箱をバンバン叩いたり摘みをギュインギュイン回したりしながら、使い方を手探りで探し始めました。
そんな時です、箱の向こう側から誰かの声が聞こえてきました。聞き取りにくいですが、多分男性だと思います。
もう少し摘みを弄ってみると、男性の声はしっかりと聞こえる様になりました。
「おい、聞こえるか?応答しろ」
私は応答ボタンを押して、箱に向かって話しかけてみました。
「あのー……聞こえます?」
「あぁ。その声……エルか?」
「はい?まぁそうですね、エルシアですよ」
「やっぱりエルか。そんな所で何してるんだ?」
「その前に、そちらさんは?どちらさん?」
「お前……一緒に旅した奴の事忘れんなよ」
「……え?」
「俺だ……分からないか?エル」
「まさか……ノヴァさんですか!?何でこんな場所に話し掛けようとしてるんですか?」
「数日前にそっちから侵入者発覚の緊急連絡が入って来たからな、一応確認の為に連絡してみたんだが……まさか侵入者ってのは」
「はい、私です。多分」
「そうか……お前は北ブロックで何をしてるんだ?」
「ノヴァさんは此処の事を知っていたんですね」
「まぁな……で?エルは何してるんだ?」
「それは……」
私は、北ブロックに来てから今に至るまでの経緯を包み隠さずノヴァさんに話しました。本当は勝手な事ばかりして怒られるかと思っていたんですが、彼からは意外な事を言われました。
「そうか、まぁ頑張れ。ただし、そのリノリスが言っていた事は正しい。お前は世界の真実が見たいだけの、言わば観測者だろ?初めから勇者や英雄なんて興味が無い、ただの観測者だ……違うか?」
「……はい、そうですね……私は誰かを救う事が出来ない一般人だって思っています。だから誰かを救う事はユズに頼んだりもしました」
「確かにユズは騎士だからな、仕事柄誰かを救う事になるだろうよ」
「そうですね……あの、ノヴァさん……私はこれから、どうしたら良いんでしょう?」
「知らねぇよ。……ただ正義感だけを振りかざして誰かの為に戦うのはお前の役目じゃ無いって事だけは言っておく。それだけの為に北ブロックを破壊したいって言うなら、今すぐ引き返して元の世界に帰れ」
「……」
「……たが、エルが本当の世界を観測するのに各ブロックが邪魔だと思うなら、壊しても良いんじゃないか?」
「……え?」
「世界を勝手に箱庭にした奴が居るんだ、勝手に壊されても文句は言えないだろ……例え神であってもな。もし楯突くんなら俺がシバいてやる」
「ふふ……ありがとうございます。でも、神をシバくのは私がやりますよ。私の旅を邪魔する物は、排除しながら進む……それが私のポリシーなんですから」
「そうか……元気が出て来たみたいだな。頑張れよ」
「はいっ!」
ノヴァさんに元気付けられた私は、暫くの間彼との会話を楽しみました。
そして通信状況が悪くなった事で通信を切った私は、再びレジスタンスに接触し、作戦を伝える為に前に進むのでした。
ただし、今の私は皆の為に北ブロックを破壊するのではなく、私の観測対象を隠ぺいする邪魔者を排除する為に、神との戦いに備えるのでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます