エクストラストーリー エピソード・アホ毛
はいどうも、私です。いや「私たち」です。
誰だよって?……ほら、私ですよ。いつも旅をしてるじゃないですか。
天気の良い中、道をルンルン歩いたり、風が気持ち良い中、空を飛んだり、時々ぶっ飛んだりする私たちですよ。
……それでも分からないですか?仕方ないですね……私の正体はアレです。頭の上から生えてるアイツです。
そう!私の正体はアホ毛でした!。
私はいつも宿主であるエルシアの頭の上に住んでいますが、時々情報収集がてら飛んで行って他のアホ毛と話したり、色々な景色を見聞きして小さな物語を紡ぐ使命があるのです。
最近のエルシアは移動スピードが速い所為で、色々な物を見逃しがちになっているんで、私たち"アホ毛ブラザーズ"がエルシアに代わって裏で起きていた小さな話を纏めていたという訳です。
そして今回は、私たちアホ毛のお話となります……。
〇
いつからか覚えていませんが、ある日突然、私は自我を持ちました。
とは言っても宿主であるエルシアが見聞きした物を、私が覚えて、エルシアと同じ感情で世界を見ていましたが……彼女の中に新しい感情が増えていく度に、私という存在が良く分からなくなっていったのです。
そんな時、私は他のアホ毛と話をして、広い世界を見て、自分の存在意義を確立させようと、夜な夜な動いていたんです。
とは言え、エルシアには友人が少ないです。なので話せるアホ毛も余り居ないので、私は王都で別れた3人の行方を追い、ユズの隠れアホ毛と接触する事に成功しました。
色々と複雑な思いを抱えたアホ毛でしたが、宿主と共に生きて、共に枯れ果てる事を決めた彼女の毛には、とても美しい輝きを感じずにはいられませんでした。
その後、エルシアの頭の上に帰って来た私でしたが、宿主から数日離れて移動する事が、こんなに大変だとは知らず、新しい策を立てる事を余儀なくされました。
そして思いついた新たな方法、それは移動する回数を減らす事、つまり話を聞きたい相手の分、私が分裂する事でした。
私は早速分裂しました。オリジンと呼ばれる私の他に、Σと呼ばれるアホ毛、γと呼ばれるアホ毛が、エルシアの頭上に咲きました。
私はシグマとガンマの仲介役兼、何かあった時の分裂係としてエルシアの頭上で待機、二人にノヴァとリンネのアホ毛と接触するよう命令を出しました。
シグマとガンマは、エネルギーが少なく、長時間の浮遊は出来ない為、オリジンである私から直接、エネルギーを遠隔で受け取って進んでいました。
そんな時です、シグマが魔物に食べられてしまいました。
ガンマにはリンネとの接触を続行してもらい、私はシグマの救出に向かうのでした。
さて、シグマを食べた魔物を発見する事は出来たんですが、此処で非常事態が発覚しました。……私たち、戦闘力がほぼ皆無だったのです。
でも此処でシグマを見殺しにする訳にはいかない私は、本当は使いたく無かった必殺技を使う事を決意したのです。
通信で私に必殺技を使う事を止めて来る二人を無視し、私は全身に宿主から借りてきた魔法を付与させて、伸びながら魔物の首に巻き付きました。
暴れ狂う魔物の首を必死に抑えながら、私は帯電させていた魔力を一気に解き放ちました。
バシュゥゥゥゥン。
耳鳴りが起きそうな程の爆音を発しながら、私と魔物は電撃に包まれ、そして……。
バタンッ。
魔物を倒す事に成功したのです。
口から這い出て来るシグマは、今にも泣きそうな程に毛先が萎れてて、何だか私まで悲しくなってきてしまいました。
その後、何とか寝てるエルシアの枕元に到着した私は、そのまま命令を遂行させたシグマとガンマの帰還を待っていました。
夜明けが近付いてきた頃、二人は私の元に帰還してきました。……何とか間に合ってくれたみたいです。
私の元に心配そうな毛をして近づいて来る二人に抱きかかえられた私は、既に限界を超えていた為動く事が出来なくなっていました。
どうやら私は此処までの様です……。私の記憶と後の事を二人に託した私は……静かに枯れていくのでした……。
〇
全ての記憶を継承した私とガンマは"アホ毛ブラザーズ"を名乗り、今日もエルシアの頭の上で揺れていました。
これからも私たちの存在理由を、存在意義を確立させる為に、色々な人のアホ毛と接触を図ろうと強く決意した私に、ガンマは不思議な事を言ってきたのです。
「僕達はエルシアの頭の上で揺れている……それ自体が存在理由」だと。……分からなくは無いです。でも、そこには私たちの自我は存在しません……だとしたら私たちはどうしたら良いんでしょう……?。その答えを探す為にも、私たちは揺れてるだけではいけないんだと、そう私は主張しました。
意見が割れた私たちは、あっという間に敵同士になっていました。
お互いが考えを譲れない以上、どちらかが消えなくてはならない……その決着を付ける為に殴り合いを始めたのです。
結論を言えば、私は負けました。
命のかけがえの無さを痛感している私には、本気で彼を枯らす事が出来なかったのです……。
私は今日の夜中に枯れ果てる事でしょう……その頃には、ガンマは自我を放棄して、ただのアホ毛になっていると思います。なので、枯れ果てる前に、私がオリジンたちと共に見て来た、エルシアが見聞きして来なかった物語を残したいと思います……いつか、またガンマが目覚めて、今度は私たちの後を継ぐ事が出来る様に……しっかりと書き記したいと思います。
私は、アホ毛には重すぎる羽ペンを絡め取り、拙いながらもゆっくりと話を紡ぎ始めました……。
……折角だから、最後ぐらいは私の好きな様に、この物語を締めたいと思います。
私たちは、アホ毛です。本来は自我なんて無い、ただのアホ毛です。
ですが、どういう訳か私たちには明確な自我が存在します。
この物語は、自我を持ってしまった私たちアホ毛の、存在理由や存在意義を求めたお話です。
この何者かに改変された世界で、色々なアホ毛から話を聞き、自身を含む出会った全てのアホ毛を観測してきた私たちこそが本当の主人公……真の意味での「改変世界の観測者」なのかもしれないですね……。
……文章は此処で途切れていました。
「……いや何言ってんですか?アホ毛が主人公な訳無いじゃないですか」
この文章を見て言い放ったエルシアの慈悲の無い発言が、枯れた私が最後に観測した言葉でした……。
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