2節 ピラミットと、火の魔女と、恥ずかしい勘違い
はいどうも、私です。
私は今、酒場で聞いたピラミットに向かって飛んでいます。
辺りはすっかりと日が落ち、月と星の明かりだけが道を照らしてる状態です。
そんな暗い中を暫く進んでいくと、何やら大きな建造物が見えてきました。
しかも建造物の足元は、まるで火を焚いているかのような明るさを放っています。
「お、多分アレですね」
魔道昆の扱いにも慣れた私は、加速してピラミットの前に降り立ちました。
さて、女性の鳴き声が聞こえて来るって話ですが……今の所何も聞こえていませんね。入ってみましょう。
私は明かりが一番漏れ出してる場所を探して、内部に侵入しました。
それにしてもこのピラミット……構造が随分と特殊ですね。
普通は上段の方に入り口が付いてる物ですが、このピラミットは下段に入り口が付いているんですよ。しかも古い建物の割に壁に傷や汚れが殆ど無い……まるで最近作られたかのような感じです。
そんな事を思いながら更に進むと、そこには開けた空間が現れました。
「此処は何の部屋でしょうか?普通だったら王族のお墓がありそうですけど」
辺りを見わたしながら進む私。すると突然、目の前から大きな火の玉が飛んできました。
「熱い熱い!アツゥーイ!」
変な熱がり方をしながらも火の玉を避けた私は、ある事に気付きました。……火に魔力が宿っていたんです。
「……出ていけ」
奥の方で呟く声、そこだけは光が無く暗闇に包まれていて姿を確認する事は出来ませんが、恐らく私と同年代の子の声です。
「貴女……魔女ですか?」
「……だったら何?」
「いえ別に、魔力を感じたから聞いただけです」
「……出ていけ」
「今晩だけでも泊めていただけないでしょうか?外は真っ暗ですし」
「……駄目、出てって」
再び私の元に飛んで来る火の玉、流石にアツゥーイはしたくないんで迎撃します。
魔道昆に魔力を流した私は、火の玉目掛けてフルスイングしました。野球ならホームラン待った無しです。
私が火の玉を跳ね返した事に動揺した彼女は、一瞬だけ動きが止まりました。仕返しでもしておきましょう。
魔力を込めた玉を彼女に飛ばす私。しかし私の魔法は火の玉に掻き消されてしまいました。
これはマズイですね……そう思った私は霊装化をしようとしました。
「……え?何で発動しないんですか?」
どれだけやっても発動しない霊装化、気が付いた時には回避できない距離まで火の玉が近付いて来ていました。
「くっ!」
魔力の結界を前面に展開して防ごうとした私ですが、火の玉はいとも容易く結界を破壊。私に直撃しました。
火の玉に吹き飛ばされて動かなくなった私を見て、彼女は私の前に出てきました。
……こんな状況ですが綺麗な人ですね。ポニーテールにした長くて赤い髪、髪と同じくらいに赤い目、白い肌が晒された丈の短いパーカーワンピ越しの素足、黄色い上着が特徴的な人です。
「お前……何なんだ?」
「はい?」
「今の魔法……全然なってないぞ」
「そりゃあ……最近使える様になったばかりで練度が浅いからじゃないですかね」
「……今まで良く死ななかったな」
「だってそれは……」
近付いて油断しきった彼女の背後に回り込んで、首元にフルタングナイフを突き付けた私は、途切れた言葉の続きを話しました。
「魔法を使わないで戦うのが主流でしたから」
「……何かおかしいと思ったけど、やっぱり動けたんだ」
「私のしぶとさはクマムシ並ですからね。私の勝ちで良いですか?」
「……良いよ、殺しな」
諦めて抵抗の意思を無くした彼女を確認すると、私はナイフをしまって寝袋を取り出しました。
「……何してるの?殺すんじゃないの?」
「殺しませんよ、私は寝床の争奪戦で貴女に勝っただけですし」
さて、寝る準備が整った私は、再び霊装化をしてみようと念じましたが発動しません……何ででしょうかね?。
「……貴女、面白いね。名前は?」
「エルシアです」
「あたしはユナ。……もし良かったら魔法の使い方、教えてあげようか?」
「良いんですか?さっきまで戦ってた関係ですよ?」
「貴女が良い奴だって分かったしね」
「……ちょろいですね」
「え?」
「いや……殺さなかっただけで良い奴とは限らないって話です。例えば貴女の魔法を悪用する為に生かしてる可能性だってある訳ですし」
「そんな事を言っちゃう貴女は、悪用する気なんて無いんでしょ?」
「まぁ、火の魔法って焚火位しか用途を思いつかないですしね」
「……もしかして喧嘩売ってる?」
「そんな事は無いですよ。それじゃあ魔法の使い方、教えてもらって良いですか?」
「明日からで良い?今日は疲れちゃった。ピラミット内の火を灯しっぱなしにするのも結構な魔力を食うしね、おまけに火球を何発も撃つ羽目になったし」
「何かごめんなさい」
あぁ、この明かりってユナさんが魔法で点けてるんですね。……そう言えば女性の鳴き声ってユナさんの声なんでしょうか?。
「あの……ユナさんっていつも泣いてたりします?」
「あぁ……外にまで声、漏れてる?」
「えぇ、隣の街でそういった話を聞きました」
「あぁ……それはね、ちょっと話すのが恥ずかしいんだけど……エルシアも女の子だし良いか」
……うん?女の子同士でしか話せない、しかも声を漏らして泣いちゃう事って……まさかえっちぃ事じゃ無いですよね?。
「最近ね、失恋物の小説を読んでるの。……その主人公が辿る道が悲しいのなんのって……聞いてる?」
「あぁ?え、えぇ……聞いてますよ」
思ったよりもユナさんはピュアな女の子でした、そして私はえっちぃ女の子でした……つらい。
その後も暫くユナさんの小説話を聞かされるんですが、自分の汚さに絶望した私は話を聞くこと無く眠りにつくのでした……やっぱ、つらい。
うん……明日からのユナさんとの修行……がんばろ……。
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