4節 過去の出来事と、これからの方針と、リノリスの涙

 私は、何処か分からない空間を漂っていました。


 この感じ……前に死にかけてティアナと会った場所に似ていますね。私はどうなってしまっているんでしょうか。


 何故か頭痛が酷いですね……。私は少しずつ、頭の中の記憶を思い返してみました。


 えっと……北の最果てから変な場所に来ちゃって、アンドロイドに襲われて、脱出口を見つけようとする私はリノリスと出会って……そうだ、脱出のカギとなるコンピューターを動かして、電力を溜めたんでした。


 その時に神を名乗る者にあって、それで私は……どうしたんでしたっけ?。


 精神体の様になった体を動かして周囲を確認する私は、辺り一帯に散りばめられた誰かの記憶が浮遊してる事に気付きました。


 そうでした。全ての記憶を見せてあげると言われて、脳に直接記憶を送り込まれたんでした。


 ちょっとずつ思い出してきました……。あの時は一気に記憶を受け止めようとして頭がパンクしちゃいましたが、今なら平気でしょう、しっかり覗かせてもらいます。



 私が最初に見た誰かの記憶……それは少年時代のノヴァさんでした。


 彼がどうやって戦いの道に染まっていき、英雄や死神と呼ばれる様になったかを見た私は、ちょっと驚きました。彼……既婚者だったんですね、実の娘が二人居たみたいです。



 次に見た記憶は……リンネさんでした。


 あぁ、何となく察してはいましたが、彼女も旧世界の人間なんですね。本名は……アリスでしょうか?ロゼリエッタとも呼ばれていたみたいですが……。まぁ謎の多い女性である事には変わり無いみたいで安心しました。



 その他にも、ノヴァさんの相棒だった私の敵……結局は良い人だったヒロキさんやティアナ、ユナさんに似た魔女やシラユキに似た魔女……その他の大勢の仲間に囲まれていたノヴァさんやリンネさんの記憶がメインで見れました。


 そして舞台は新世界に映ります。



 新世界で最初に見た記憶は、人類が新世界に移住して10世紀以上経った後の記憶です、どうやら彼等は愚かにも再び戦争を始めたみたいでした。


 その時に全線で活躍していた少女……コードネーム黒雪姫スノーブラックを中心とした女性のみの部隊、骸骨の心スケルトンハートの生き様や、彼女たちをサポートしていた男性の思いが痛い程に伝わる記憶でした。



 そして次の記憶、それは新世界の日本が滅んだ後に、世界中で核戦争が勃発しそうになって、それを止める為に奮闘した青年と少女の記憶でした。


 結局核戦争は止められなくて、世界中が荒廃する事になってしまったみたいですね……。



 そしてこれは……そこから十数年後の記憶でしょうか。荒廃した大地を旅する古風な格好をした魔女の記憶です。……何故か見覚えのある魔女ですね。


 彼女の旅に目的は無かったんですが、ひょんな事から世界を復元する旅になっていったみたいです。


 そして、空白の50年が起こった……と。



 ふぅ、記憶の整理も膨大だと疲れますね……。まぁお陰様で今の私に知らない言葉は無い位まで情報量たっぷりになったんで、多分ですが旧世界の記述も改めて読み返せば色々と分かって来ることが多くなったと思います。


 あぁ、しっかりと頭の中を整理したからでしょうか、少しずつ頭痛が収まってきました。


 そして、私の意識はゆっくりと覚醒していくのでした。



「ん……此処は?」


 目が覚めると、私の視界には見覚えの無い天井が映り込みました。


 とりあえず立ち上がろうとした私は、右手に違和感を感じて動きを止めて、違和感の正体を探しました。


 違和感の正体、それはリノリスでした。私の右手を握りしめながら寝ていたんです。


「……アンドロイドも寝るんですね」


 私は気怠い体を起こして、自分の寝てた場所にリノリスを寝かせました。


 場所はよく分かりませんが、彼女が寝てた事を考えると安全な所なんでしょう。


 さて、目が覚めたばっかりですが今後の方針です、とりあえず出口の確保は出来ている筈なんで、勝手に人間の生活圏を小さくした自称神様にお仕置きをしておきたいと思います。ついでにこの北ブロックの壁をぶっ壊しても良さそうですね、人間は檻に閉じ込めておける動物じゃ無いって事を教えてあげましょう!。……まぁ今を生きてる人たちはビックリしそうですけど。


「やり方は間違っていますが、ベルギウス家の悲願は分からなくも無い気がしますね……」


 何となく今後の方針を決めた私は、近くで流れてる水を使って体を洗いに行きました。


 ……そう言えば精神体の私って毎回全裸なんですが、服は着てちゃいけない決まりでもあるんですかね?。


 そんな事を思いながら水浴びをしていると、不意に背後から誰かの気配を感じました。


 私は爆魔拳を発動させながら振り返りましたが、そこに居たのはリノリスだったので構えを解きました。


「おはようございます、リノリス。助けてもらってありがとうございました」


「……はい、おはようございます。エルシア様……目が覚めて本当に良かった」


 そう言いながらメイド服が濡れる事もお構い無しで水に入って来たリノリスは、涙をボロボロと零しながら私を抱きしめてきました。


 最初は恥ずかしいし抵抗しようと思ったんですが、彼女の私を包む腕が本気だったので、抵抗を止めて抱き返しました。


「私は、どの位寝てたんですか?」


「……一ヶ月です、エルシア様の脳は大きくダメージを受けていたんで、最悪目覚めないかもしれなかったんですよ?」


「……ご心配をおかけしました、本当にありがとう」


 私は体を震わせながら泣くリノリスの頭を撫で続けながら、優しく声を掛けるのでした……。



 さて、それから暫く経った後、リノリスは泣き止んだし、私の準備も終えたんで、そろそろ神にお仕置きをしに行きましょう。


 こうして私たちは、再び神に会う為に安全地帯を出て行くのでした……。

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